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    【進捗】狂聡
    ※同年代設定(若きょうじ×大学生のさとみくん)

    #狂聡
    madGenius

    【狂聡】送り狼に噛み付く若狂児×大学生の聡実くん
    ※同年代設定なので何でも許せる方向けです

    「ありがとうございましたー」
    時刻は23時半。夜の街の灯りがポツポツと少しずつ鎮まり始めて、「24時間営業」と書かれた派手な色の看板がオアシスのようにくっきりと浮かぶ。夜勤の森田さんが来るのは24時。残り30分、シフト交代前にやるべきことは全て終えたし、あとは時間が過ぎていくのを待つだけの消化試合だ。最後にトイレの清掃チェックだけ行ってくるか、と思っていたら、カランカラーンと勢いよく入り口のドアが開いた。酔っ払い御一行のご来店だ。
    「あーあ」
    一瞬、心の中のため息が声になって出てしまったのかと思ったけれど、声の主は成田さんだった。
    「これまた面倒くさそうな団体さんやねぇ……」
    ちょっとご案内行ってくるわ、と言い残し、「何名様ですか」と入り口に向かっていった。
    成田さんは、僕と同じくバイトとしてここで働いている一つ歳上のお兄さんだ。最初は雰囲気のある人やなぁ、と敬遠していたが、お互い大阪出身なことがわかると、すぐに打ち解けた。大学生をしている僕と違って、普段はフラフラとしているようで、何をしているのかよく知らないけれど、シフトの時間がよく同じになる。そのたびにちょっと嬉しかった。ぬらりと背が高く、いつも淡々とした表情で働く成田さんは一見怖いように見えるけれど、意外と面倒見がよく、バイトが終わる時間が被るとご飯に連れて行ってくれたりもする。たまにバイトがない日でも、成田さんから「岡くん、あそぼ」と連絡が来て、なんとなしに映画を見に行ったり、買い物に付き合ったりと二人で出かけることもあった。同郷かつ年下で、一人暮らしを始めたばかりの僕を何かと心配して目をかけてくれているのだと思う。
    「あかんな、完全に酔っ払いやったわ。岡くん、オーダーとか俺が取りに行くから近づいたらあかんよ」
    さっきの酔っ払いを席まで案内した成田さんが戻ってきた。同じ男で、一つしか年齢が変わらないのに、こういうときにとても頼りに感じる。
    「ありがとうございます。そやけど、僕たちあがるまであと30分やし、他のお客さんも少ないし、まぁまぁ乗り切れそうですね」
    「そやね。とりあえず暴れたりしなければ問題ないな。ちょっと裏でウォッシャー手伝ってくるけど、何かあったら呼んだってな」
    ほなね、と成田さんがホールの裏に吸い込まれていく。さぁ、気を取り直して空いた席のバッシングにでも行くか。お客様が去った後の混雑した席のテーブルの上をテキパキと片付けていく。23時過ぎまでドリンクバーを何往復もしたのか、グラスがやたらと多い。パズルのようにぎしぎしとグラスを敷き詰めてずっしり重くなったトレーを持ち上げ、振り向いた瞬間だった。がちゃん! とガラスが割れる音が響く。さっきの酔っ払いがすぐ後ろに立っていたことに気づかず、トレーと勢いよくぶつかった。グラスが転げ落ちて、中に少し残っていた飲み物がお客様にかかってしまった。
    「おい、気をつけろよ!」
    「すみません。すぐに拭くものをお持ちいたします」
    「服がびちゃびちゃになっちゃったんだけどぉ!なぁ!」
    どうしてくれんだよぉ、とアルコールが入って気が大きくなっているのか、威勢のいい怒鳴り声がホール内に響き渡る。あぁ、さっき何事もなく乗り切ろうって話したばっかりなのに。
    「大変申し訳ございません。今すぐに拭くものを……」
    「あぁ! もうこれでいいから貸せよ!」
    腰に巻いているサロンをぐいっと強く引っ張られる。
    「ちょ、まっ、お客様!」
    「はい、おしまいでーす」
    しゅっとした肌のわりにしっかり太い血管が走る腕が伸びてくる。成田さんだ。僕に手をかけようとするお客様の腕をがっしりと封じる
    「他のお客様もいらっしゃいますので、どうかこのあたりで」
    ネッ、と酔っ払いをいなす目は底なしの沼のようで、声のトーンのわりにまったく笑っていない。お客様もその目つきに身がすくんだのか、ポンと渡されたタオルを受け取って、大人しく席に戻っていった。
    「岡くん、大丈夫? 災難やったね」
    「あぁ、いや……すみません、ありがとうございました。ていうか、成田さん、ごめんなさい。シャツ、結構濡れちゃってます」
    成田さんのシャツを指差す。僕のサロンが引っ張られた勢いでコーヒーカップが飛び落ち、その中身が成田さんのシャツにかかってしまった。すっかりぬるくなったコーヒーだったからヤケドの心配こそないが、白いシャツに立派な茶色のシミを作っている。
    「流石にそのシャツでホール出られへんだろうし、今日は先あがってください。さっきの人も成田さんのおかげでもう大人しくなりましたし」
    「えぇ、岡くんのこと一人にできへんよ」
    「あと15分くらいなんで大丈夫です。もうじき夜勤の森田さんも来るし、何かあったら少し早めに入ってもらうんで」
    「森田なんかあてにならへんよ」
    「なんでや。とにかくそれ脱いだほうがいいです。僕のせいなんでそれ代わりに洗って返しますね。ホンマにすみません……」
    「岡くんのせいちゃうよ。でも洗ってくれるんは嬉しいわ。それやったらこれ頼むな」
    バックヤードのロッカーの上に置いといてください、と成田さんの背中に向かって声をかけて、今度こそ残り15分が無事に過ぎることを祈る。

    「お疲れさぁん」
    無事に森田さんにバトンタッチして「なんや最後にドタバタした1日やったな…」と安堵しながら階段を降りると、成田さんが待っていた。
    「……もう帰ったんやなかったんですか」
    「送ってくよ。もう遅いし、今日金曜やからさっきみたいな酔っ払いにまた絡まれるかもしれへんし」
    「成田さん、終電は?」
    「なくなったー」
    「なくなったて……」
    あっけらかんと言い放つ成田さんはコンビニのビニール袋からガサガサと取り出した豚まんを「お腹減ったやろ。食べよかー」と渡してきて、飄々と歩き出す。

    ***

    「このあとどこ行くんですか?終電、もうないんですよね?」
    「朝まで適当に時間つぶすわ」
    「う、うちにいたらええやないですか。……朝まで」
    「……岡くん、それ誘ってるって捉えてええ?」
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