知らない横顔/百々秀 ※百々人の喫煙表現
季節は本格的な夏を迎えた。耳をつんざく様な蝉の声に、ジリジリと刺すような日差し。一歩外に出ると溶けてしまいそうになる暑さに、俺はエアコンの効いた室内で、ソファの上に横になっていた。室内にいても、蝉の声を聞いているだけでなんだか熱くなってくる。今日も体温並みの気温だとか、先ほどテレビでも言っていたし、今日は出かける用事がなくてよかった。
「ちょっと、外出てくるね」
俺のいるソファの近く、リビングに敷いたラグの上に座っていた百々人先輩はそう言って、腰を上げた。こんな暑い日にどこに出かけるんだ? そう思いながら先輩の方に目を向けると、彼の左手には緑色の小さな電子端末の様なものが握られていた。
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