明日、指輪を買います。「ふみやさん。あなたは、これ以上僕をどうしたいんですか?」
年を重ねても相変わらず筋肉がついた綺麗な背中だな、とふみやが腕枕をして恋人の後ろ姿をじっと眺めていた時のことだった。半分怒っているような呆れて拗ねているとも言えるような口調から、彼の機嫌が良くないことをふみやは察した。伊達に付き合ってないから色々想像はつくけれど。
「……?どう、って?」
俺が社会人になって、会える回数が昔より少ないこと?(今更仕方ないことで天彦も多忙だし)
なら、昨日は気持ちよくなかった?(中で3回以上イったのに?)
それともーーー「ストップ‼︎」
勢いよく振り返って、ふみやの口を両手で押さえ込む天彦。
「はは……夕日とおんなじくらい、真っ赤だね天彦」
「っ〜〜大人を揶揄うものじゃありませんよ、坊や」
「坊やじゃないよ。俺、もう二十三歳だよ?天彦。十九歳の子供より、全然大人でしょ。今の天彦は、俺の恋人だもの。恋人に年齢は関係ないだろ?」
その台詞を聞いて急に恥ずかしくなってフリーズする天彦。やっとこっちを向いてくれた嬉しさから、天彦の腰を引き寄せてベッドの中で密着するふみや。
「そもそも揶揄ってもないよ、誰だって好きな人には甘やかしたくなるじゃん」
「甘え、って。ふみやさん、あなたねぇ……」
「何年付き合ってると思ってんの?何となく想像はつくけどさ。俺の前では、ただの天彦でいいんだからさ。ほら、なに考えていたのか教えてよ」
そう言われて天彦もふみやの肩に額を押しつけて、ベッドの中で抱き合う形に。
「……本当はふみやさんに依存したくないのに、おかしくなるくらいーーどうしようもなく僕はあなたが好きなんです。あなたと付き合って何年も経つのに、いい大人が情けない……」
「あーね。はは、恋人冥利につきますな」
「僕は困るんですけどね?ーーふふ。それこそ、下手したらあなたがいなければ、きっともう生きていけないくらい」
「ーー俺もきっと天彦がいなければ生きていけないから安心して」
「……なんだか、プロポーズみたいですね」
指輪はないけど、と天彦が言うと二人して笑った。
こんなことなら指輪でも用意すればよかった。
ーーいや、明日買いに行こう。それがいい。
指輪のブランドは、あまり詳しくないけれど天彦のセンスに任せたい。でも、指輪の形や色は二人で選びたい。内側に名前を彫ったり誕生日石のストーンも入れてみたりーーふみやは、明日のことを考えるととても幸せな気分になった。
「明日、指輪を買いに行こうか」
「明日、指輪を買いに行きましょう」
二人の声が重なって、また笑った。