聡狂【彼の服】例えば、色のついた派手な服。狂児がそれを着ていたら、聡実は彼を彼と認識できるだろうか。制服のように、いつも似たようなスーツ姿。聡実は狂児のその姿しか知らない。狂児という男を聡実はなにをもってして、彼だと認識しているのか。
そして、これはあくまで想像でしかないが、聡実がどんな普段とかけ離れた服装をして髪型を変えて歩いていても、狂児は難なく聡実を見つけ出すだろう。東京のど真ん中、スムーズに行き交うことも難しい人混みの中であっても、もしかしたら遠い異国の地でも、どこへ行くと告げなくても、そんな狂気ともとれるものを、彼から感じ取るのだ。
「愛ってなんやと思います」
「はぁ」
食べかけのカレーに突っ込んでいたスプーンをそのまま置いて、問われた男はしばらく顎に手を当て視線を天井に向けて考えにふける。
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