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    聡狂作品おきば

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    #聡狂
    sagacity

    聡狂【会いに(愛に)来た男】「おはよ」
    「……………」
    開けかけたドアを閉めてしっかりと鍵をかけ、聡実は部屋の中に戻った。外からはのんきな声が自分の名前を呼んでいる、時折控えめなノックの音も添えられて。背負ったリュックをテーブルの前に下ろすと、その隣に腰を落ち着けてスマホを取り出しトークルームを開き、無表情のまま画面をタップした。
    【急になんの用ですか】
    【えー、つれないやん】
    【顔、見たくて】
    いつもの絵文字が語尾に添えられていて、それに苛立ちを覚えた聡実は、一言だけ返すとスマホをテーブルの上に投げ出してその場に寝転んだ。
    【外出られんから、はよ消えて】
    間髪入れずにブブ、と振動音が聞こえた。どうせわざとらしくしおらしい言葉が並んでいるのだろう、と画面を見て、予期せぬ文面に眉を顰める。
    【出て来んなら、強行突破するで】
    語尾の絵文字は相変わらずで、この人それしか知らんのんちゃうか……という予測はおそらく間違いではない。たぶん、女の子にウケが良かったものをずっと使っているのだろう。それも面白くない。しかし強行突破といっても、何をどうするつもりなのか。どう返信しよう、と画面と天井をぼんやり見上げて考えていると、控えめなノックから一転、ドン、と強い振動が部屋全体を揺らした。他の部屋の音が聞こえる安普請の学生向けアパートは、少しの振動でも大げさなくらい響くが、これはそんなレベルのものではい。
    「聡実く〜ん」
    相変わらずドアの向こうからはのんきな声で名が呼ばれている。多分、顔はにこにこと笑っているのだろう。しかし、まだ関西にいた頃、薬物に侵されたヤクザを一撃で沈めた狂児のさまを思い出して、聡実は飛び起きると狭いワンルームの中、ドアへと走った。
    「あ、出たでた、やっと天の岩戸が開いたわ〜」
    「やめてください、ドア壊れる」
    「ほな入れて」
    「いやや、言うてるし。 そもそもなんの用なん」
    そっと、五センチほど開いたドアの向こう、睨み上げた先は予想通りの笑顔。降ろされた拳がもう一度このドアに当たれば、凹みくらいはできていたかもしれない。余計な仕事を増やさないでくれとこめかみに指先を当ててぐりぐりと押しつつ、聡実は返事を待つ。すると狂児は何かに驚いたような、ぽかんと口を開けて聡実を見下ろしていた。
    「何やのそのマヌケ顔」
    「え、なんで。 恋人に会うのに用事とか理由、いらんやろ」
    「…………はぁ、恋人」
    「せっかく遠路はるばる会いに来た恋人を、抱きもせずに聡実くんは追い返すんですかそうですかぁ〜……やー、もったいないなぁ」
    「いや、そこ、恋人とか、そんな強調せんでもええやんか」
    繰り返されるその言葉に、じわじわと耳が熱を持つのがわかる。腹が立っていた気持ちはいつの間にか恥ずかしいにすり替わり、聡実の語尾は尻すぼみになっていく。すっかり相手の勢いが弱まったのを見て悟った狂児は、ドアの隙間に靴先を押し込んでそのままぐい、と肩から強引に身体を玄関の中へねじ込んだ。妙に手慣れたその動作に聡実はなすすべ無くたたらを踏んでドアノブから手を離し、狂児に抱きとめられる。
    「部屋はいろ」
    「……狂児のドアホ」
    「はいはい、聡実くんのドアホは愛してる、やもんな〜この照、れ、屋、さ、ん」
    「ホンマにアホちゃうか」
    パタンと閉まったドアの向こう。真っ赤な顔をした聡実は、ケラケラと笑う狂児の頬を両手で挟み込んでその薄い唇を奪い、狂児は目の細めてその感触を楽しんで小さく吐息を漏らした。
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