ルシアダ犬を飼う③アーサーがルシファー邸に迎えられてから2ヶ月。三食与えられる栄養バランスの取れた食事のおかげか、小型犬ほどだった身体はみるみる大きくなり、今では大型犬サイズに成長していた。
「この調子でパパみたいに大きくなるんだぞ〜」
「横にか?」
「飼い犬より小さいからって、負け惜しみはやめるんだな!」
「負けてない。だから惜しむものなどない。」
いつもの小競り合いを、アーサーは小慣れた様子で聞き流す。最初の頃はキュンキュンと鳴いて二人を心配していたが、夫婦喧嘩は犬も食わない。リードが首に付けられると、尻尾を振って喜びをあらわにした。
アダムは毎朝同じ時間に散歩をする。すれ違う他の飼い主とは、すっかり顔見知りになっていた。チワワのような犬を抱えたホステスとはもう、立ち話をする仲にまでなっている。
「そろそろこの子も去勢しなくちゃって思っているのよね〜」
「うっ、信じられない…タマを切られるなんて…」
「あら、去勢すると長生きするのよ?」
「タマナシで生きる事に価値はあるのか?なぁ、マロンくん。」
「くぅ〜ん。」
「ほら、『生き恥を晒すくらいならばいっそ、我はここで息絶えたほうがマシだ。』って言ってる。」
「そんな長文喋ったの?」
一人称が我のマロンくんはプルプルと震え、こぼれ落ちそうな目を潤ませている。去勢。恐ろしい言葉だ。そんなものは、飼い主のエゴではないか。オスとして生まれたからにはせめて、童貞くらいは卒業させてやりたいと思う。
「去勢は飼い主の義務だろう。」
「去勢した方がいいのは、間違いなくアンタの方だよ。」
またも教育方針の違いでぶつかり合う。ルシファーとて男なのだから、タマを失うことの恐ろしさが理解できるはずなのに。大真面目にキンタマについて議論を交わし、気がつけばもう日が暮れていた。ルシファーは、ほとほとめんどくさそうに額に手を当てる。
「………そもそも、アーサーは本当にオスなのか?」
「え?」
顔立ちで勝手に判断していたが、アーサーの性器は長い毛に覆われていて、ちゃんと確認したことがなかった。よく考えれば排泄の時も、足をあげていない。前足の付け根に手を入れて、すっかり重くなった身体を持ち上げた。ルシファーが股座の毛を掻き分けてシンボルの有無を確認する。
「…ついてない。」
「アーサー、レズだったのか!?どっかの誰かの娘とおなじ…痛ッ!!」
ステッキで脛をしばかれ、その場にうずくまる。アーサーは女好きのメス犬だった。
驚く二人を尻目に、ベロベロとアダムの顔を舐めまわし、夕方の散歩を強請る。
まあオスでもメスでも可愛いから、何でもいいや。でももし、アーサーに服を着せる機会があれば、フリフリの女物にしてやろうと思った。