2月14日の困惑「やあ、東雲くん。今日は忙しそうだねえ」
「げっ……、もうさっき派手なのやってたろ、今度は何しに来たんすか」
昼休みに入って廊下を出たところで、先程の休み時間にも何やら盛大に騒ぎを起こしていた変人ワンツーの機械弄りしてる方――神代センパイに話しかけられて思わず取り繕う暇もなく顔を引き攣らせる。
「単刀直入に言おう、放課後少し僕に付き合ってもらえないかな? ああ、実験とかではないから安心しておくれ、……といっても警戒心を煽るだけか。困ったな」
「いやすみません、放課後はオレ用があるんで」
珍しくどこか必死に言葉を並べるセンパイには悪いが、今日は本当に用がある。しかも複数。下駄箱に入っていた数通の手紙に呼び出しを受けているのだ。昼休みには一人、後は大体放課後が指定されていた。所謂告白だとかそういった類いの用向きだろうことは日付から容易に察せられるものの、名前の書いていないものを突き返すことも出来ないため直接足を運びやんわりと断るしかない。
正直なところ、外面しか知らないだろう女子を泣かせない様に留意しなければならないと考えただけで疲労感を感じるが。
「おや、先約かい? ……ではちょうど人も居ないし、今渡してしまおう。I have a crush on you, and I hope you’ll be my Valentine……なんてね」
「は? え、今なんて――」
「時間を貰ってしまって悪かったね、それじゃ僕はこれで」
「あ、おい! 聞けって! ……行っちまったし……なんなんだ?」
咄嗟に差し出された小さな紙袋をそのまま受け取ってしまったものの、やたらと流暢に言われた英語の意味は分からず聞き返したというのに、眉を下げて笑いながらセンパイらしくもなくオレの言葉を遮るように踵を返して去ってしまった。本当に、なんだったというのか。
「開けたら爆発……は前にやったし、流石に同じことしてくるとは思えねえが……」
紙袋の中には手の平大の小さな箱が鎮座している。恐らくは今日何度も見ているチョコ……ではないかと思われるが、渡してきたのがあの神代センパイともなれば若干の不安は隠せない。
「……って考えてる場合じゃねえ、さっさと用済ませて飯食わねえと」
元より何を考えているか分からないやつの考えを探っても時間が過ぎるだけだろうと頭を切り替え、オレは呼び出された中庭へと急いだ。