東雲くんの好きなもの?……そうだねえ。まずはパンケーキ、チーズケーキ。お姉さんも同じく好きなようで、買う時は2つ買っておかないと食べられてしまう事もあるんだとか。何とも微笑ましい姉弟のエピソードだ。次に甘い物全般。飲み物も炭酸は喉の事を考えて控えめにしているみたいだけど、ついこの間もデートの時にクリームやチョコソースのトッピングされたラテを美味しそうに飲んでいたね。それから外せないのは歌う事、仲間と全力で作るイベント。つい食べ物の好みが真っ先に浮かんでしまったけれど、これは彼の夢にも繋がるし、寧ろ東雲くんにとっての一番はこれかもしれないな。他にはファッションコーディネートも好きだね。僕はどうにも機能面や好みだけで選ぶ事が多いけど東雲くんの場合は好みのテイストだけじゃなく、流行り物もチェックしているようだし。以前街中で歌う時はそれなりの格好をしていないと歌に集中されない……という事も言っていたから、趣味と実益を兼ねているといえる。……さて、数は挙げてみた訳だけど……もう一つだけ。これは候補に上がるのか、少し自信がない。……何せ僕の事だから。恋人という立場に居座らせてもらってはいるし、出会った頃の『苦手な先輩』からは脱していて欲しい所ではある。……ただ、東雲くんは普段の態度は素っ気なくとも人に真摯に向き合えるタイプだし、何より多少分かりにくくとも、とても優しい人なんだ。だからそうだな、同情……ではなくとも、彼の思いやりから別れずに現状維持で済んでいる可能性を、僕は否定しきれない。という訳で東雲くんの好きなものには挙げるのを躊躇う、という訳さ。……フフ、それではご清聴ありがとう。こんな感じで良かったかい?……そう、聞きたい事が聞けたのなら何よりだよ。
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神代センパイの好きなもの?……んなもん迷う事もねえ、ショーだろ。あ?できるだけ挙げろって、面倒臭えな……っつーかなんでそんなもん、……っ、分かったっつの、うるせえな。答えりゃ良いんだろ、答えりゃ。……あー、ショーもそうだが、単純に機械弄りも好きだな。構造が分かると自分で組み立ててみたくなるんだと。他で言や知識得るっつーか、知らねえもん調べんのは楽しんでそうだったな。前も図書館行ったら目ぇキラッキラさせてすげえ量の本抱えてきたし。最終的に借りれる冊数決まってるから減らして、それでも足りねえからオレまで貸出カード作る羽目になったんだよな……あの人もうちょい限度ってもん覚えられねえもんか……。あー、後は派手なもんか?花火とか爆発とか、人目引く演出。誰かの誕生日の度に大砲みてえな祝砲ぶっぱなしてるしな。ああ、花も好きだったな。元気に花咲いてんの見ると手間暇かけて育てんのも全然苦じゃねえって言ってた。咲いてるだけで人の笑顔が生める上に、純粋に綺麗だろって。それで言うと人の笑顔とか、笑顔に出来るもんも好きなんじゃねえ?多分な。あとは……季節感感じるものも好きそうだった。夏場のアイスとか風鈴とか海とか、……これショーの案考えんのに繋がるからかもしれねえな。……あ、言い忘れてたけどあの人同じチームのメンバーとか、あと暁山とか冬弥とか、知り合いのやつの事めちゃくちゃ好きだと思う。……なんつーか、あいつらの話する時すげー表情柔らかくなるんだよ。……そりゃオレと付き合ってんだし、オレの事も好きなんだろうがイマイチ違いが分からねえっつーか…………は!?っうるせえ、妬いてねえ。もういいだろ、ほっとけっつーの。
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「で? で? 彰人、神代先輩の回答聞いた感想は?」
「……嫌だっつってもふん捕まえてオレの気持ち伝えてやらねえと気が済まねえな」
「(あ、ヤバ。思ったより焚き付けちゃったかも……? いやでも、これ私のせいじゃないよね!?)」
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「はーい、という訳で弟くんの回答はこんな感じだった訳だけど……類ってば、結構愛されてるねえ〜?」
「………………、確かに、こんなに僕の事を見てるとは思わなかったね」
「うわ、え、類大丈……、……へ〜、類でもそんなに照れちゃう事あるんだ?」
「……瑞希は僕の事をなんだと思ってるんだい」
「いやいや、だっていっつも類、自分は平気です〜って顔するじゃん。……好きな人相手だから?」
「…………そう、かもしれないね」
突然大きな音を立てて屋上のドアが開いた。
「ちわす、神代類センパイ居ますかー。っつーか居るよな? 今すぐツラ貸してくださーい」
「っ! 東雲くん……?」
「わっ! びっくりした、弟くんかあ……え?(これ弟くんガチギレしてない?)」
困惑する二人を置いて満面の笑みを貼り付けた彰人が問答無用で呆気にとられている類の腕を引く。
「わっ、と……その、東雲くん、急にどうしたんだい?」
「悪い暁山、ちょっと大事な話あるからセンパイ借りてくな」
「あ、うん……」
「東雲くん……? 僕の話聞いてるかい? み、瑞希……」
「……えっと、連れてくのは良いんだけど……あんまりいじめないであげてね? ほら、あれは類も別に悪気あった訳じゃないだろうし……」
「いじめる気はねえよ。……ま、センパイの態度次第だろうが……。じゃな」
「待ってくれ、何が……というか僕の意思は尊重されないんだね? 聞こえてないのかい? 無視は流石に僕も傷付く……」
「あんたの回答聞いて、あんたの恋人が何を思ってんのか今からじっくり話す必要があるって判断したんだよ、ほら行くぞ類」
「っ!? 学校で呼ばない約束だろう、君、本当に……」
未だに文句を言い続ける類を半ば引きずる形で彰人は屋上を後にした。
「あーはは、ご愁傷さま〜類」