Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    くらふと

    @1zi_craft

    創作寮生

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 2

    くらふと

    ☆quiet follow

    モブランド4の展示物です
    アディショナルタイムに書き上げました!
    マレウス×創作寮生(ルーカス)の短編です。CP要素はほとんどありません。

    このあとの話も書きたい 超ド級ハッピーエンドの(ハピエン厨)

    #創作生徒
    creativeApprenticeship
    #モブランド4
    #モブランド
    mobland

    思い出と紙切れ 深夜の散歩を終え心地よい夜風の中寮へ戻ったマレウスは、談話室を通り過ぎようとして、ふと足を止めた。現在時刻は午前1時ごろ。普通なら生徒は寝静まっている時間に、ぼんやりとした灯りが付いているのを発見したからだ。マレウスは特段咎めるつもりもなかったが、一体誰が、何をしているのだろうと気になって階段を降りていく。興味のままに近付くと、マレウスが覗きにくるのを分かっていたかのようにその男と目が合った。
    「お前か、ヴァレンシュタイン」
    「ああ。君は夜の散歩か?」
    「そうだ」
     談話室のソファに腰掛けていた生徒は、マレウスと同じく3年のルーカス・フォン・ヴァレンシュタイン。1年生の時、1学期の中間考査が終わったかと思えば恐れ知らずにもマレウスを「ライバル」と呼び、寮長の座をかけた決闘を申し込んできた男だ。勿論すぐに叩きのめしたが、決闘の申し込みが止むことはなかった。結局、決闘が面倒になったマレウスは学期末に1回の挑戦を許すことでルーカスと合意し、一度も善戦させることなく3年生になった。それでも懲りないのだから、驚くべき人間である。
     その諦めの悪さに加えて、避けられ、恐れられることが当たり前のマレウスにとって、「お前には負けない、いつか必ず勝つ」と正面切って宣言される経験は新鮮なものだった。それに、前回の期末ではマレウスの攻撃を1秒にも満たないが止めて見せたのだ。ルーカスは悔しそうだったが、周囲の人間からすれば充分過ぎるほど優秀であることは間違いない。
     そんなわけで、最初こそ面倒がっていたマレウスだが、ルーカスの物怖じしない姿勢や生来の明るさを気に入って、リリアやシルバー、セベクなどほとんど身内のような人物を除けば、NRCの中で監督生に並んでよく話す人間だった。
     目の前のルーカスはいつもは三つ編みに結った髪をおろし、室内着を着てくつろいでいる。マレウスは単純な疑問をルーカスへ投げかけた。
    「眠れないのか?」
    「いや、さっきまで勉強してたんだ。それで、眠る前にホットミルクでも飲もうかと思って」
     マレウスがルーカスが指さした先、机上に視線をやると、まだ湯気のたっているマグカップが置かれているのを目にする。成程、と呟いて、マレウスはルーカスの隣に腰掛けた。
    「まだ夜更かしする気か?」
    「お前がそれを飲みきるまで」
    「なんだ、ちょっと待ってろ。せっかくなら君の分も作ってやろう」
     忙しなく談話室から姿を消したルーカスは、瞬きのうちに戻ってきて、マレウスの分のホットミルクを差し出した。蜂蜜か何かが入っているのだろうか。甘いホットミルクは、マレウスにさえほっと一息をつかせた。それを見たルーカスは得意げに口元を緩ませる。
    「ルーカス・スペシャルだ」
    「ホットミルクだろう」
    「よく眠れるようにおまじないをしてある」
    「呪い? 魔法がかかっている痕跡は無いが」
     マレウスがしげしげとマグカップを眺めると、ルーカスが眉を下げて「気分の問題だ、気分!」と笑う。馬鹿にされているような気がしたが、悪い気はしなかった。
     それからミルクがぬるくなり、だんだんと底をつくまで、マレウスとルーカスは取り留めない話を交わした。普段はセベクと並ぶほどに声の大きいルーカスだが、この時ばかりは深夜であることに配慮してかトーンも声量も抑え目で、いつもこのくらい静かであればいいのにと思うほどだ。
    「もうすぐ、といっても半年あるが、進級もすぐだな」
    「ヴァレンシュタインはインターンに希望はあるのか?」
    「警察だな。うちは代々なんだ。自分でも、向いてると思ってる」
     マレウスも、これには同意した。この性根の悪い少年ばかりが集まったNRCで、学校を間違えたのかと思うほどルーカスは清い心を持っている。普段からも困った生徒を助けているルーカスは、きっと良い警官になるだろう。
    「インターンが終わったら、卒業もすぐだな……あっという間に3年になったが、たぶんこれからもあっという間なんだろうな」
    「そうだな」
    「……卒業したら、君と会う機会も無くなるな……」
    「……」
     マレウスは言葉に詰まった。最近、ぼんやりと考えていたことだ。卒業後、国を継いだマレウスに、旧友と会う余暇があるだろうか。ルーカスも貴族の家柄で、家を継ぎ、就職をして、マレウスとは別の人生を歩む。毎日顔を合わせている人間に一生会えなくなるかもしれないと思うと、マレウスは身体の中がからっぽになるような感覚を覚えた。
     マレウスが黙り込んだのがわかると、ルーカスは笑ってマレウスの肩を叩く。
    「まあ、機会なんて作ればいいか!」
    「……」
    「そうだ。いつか、君の結婚式に招待してくれよ。ヴァレンシュタイン家に招待状を出してくれたら、きっと祝いに駆けつける」
    「それは……いいな。きっと送ろう」
    「きっとだぞ」
     ルーカスはミルクの最後の一口を飲みきって、微笑んだ。
    「よし! 飲みきったことだし、歯を磨いて寝るぞ」
     ルーカスはいきなり立ち上がったかと思うと、マレウスの空のマグもまとめてキッチンの方へ行ってしまった。戻ってきたルーカスと並んで歯を磨き、部屋の前で別れる。
     いい約束をした。マレウスはベッドに潜り込み、目を閉じた。ホットミルクのまじないもあって、今日はよく眠れそうだった。



     そんなことを思い出して、マレウスは招待客にひとり、ルーカスを追加した。茨の谷で盛大に行われる結婚式への招待だ。輝石の国にあるヴァレンシュタイン家へ招待状を送付するよう臣下へ伝えると、久々に会える旧友を想って笑顔を浮かべた。あの大きな声と眩い笑顔で祝われるのが、待ち遠しかった。

     そして当日。各国の王侯貴族や要人の並ぶ招待席にルーカスの姿はないかとマレウスは何度も視線を巡らせたが、ついに見つけることが出来ずに歓談の時間となった。かわるがわるに招待客が挨拶に来るのを捌きながら、マレウスはルーカスがあらわれるのを待った。
     そこへ、見慣れない顔の男があらわれる。
    「輝石の国より、リヒト・フォン・ヴァレンシュタインがご挨拶申し上げます。陛下、この度はご成婚誠におめでとうございます」
    「……リヒト・フォン・ヴァレンシュタイン?」
    「ご招待に預かったルーカス・フォン・ヴァレンシュタインですが、私の14代前の当主でございます」
    「……」
     マレウスは、呆然として、それから少し笑った。当然だ。もう、あれから数百年近く経っている。約束や、旧友に再び会えることに浮かれて、そんな簡単なことも忘れてしまっていた。しかし、目の前の男は続ける。
    「しかし、いつかマレウス様に招待された際、これを渡すようにと手紙を代々受け継いでおります。受け取っていただけますでしょうか」
     男が差し出したのは、不思議な質感の紙でできた封筒だった。隣に立っていた臣下に目配せすると、臣下がそれを受け取る。万が一に備えて検閲が必要なのだ。しかし、受け取ったことに安堵したのか、男は胸を撫で下ろし、マレウスへ笑いかける。
    「やっとお渡しすることが出来ました。受け取って頂きありがとうございます。では、私はこれで。失礼致します」
     男は背を向け、去っていく。男は、ルーカスによく似た黒髪をしていた。



     検閲の終わった手紙を受け取り、マレウスはその日の晩のうちに一人部屋で手紙を開いた。懐かしい、達筆なルーカスの字だ。

     『マレウスへ
     君のことだから、多分俺が死んだあとでもうっかり招待状を出してそうだと思って手紙を書いてみた。この紙は東洋の伝統的なもので、きちんと管理すれば1000年はもつらしい。君が1000年以内に結婚することを祈る。
     まずは、結婚おめでとう。君の奥さんや、子供の顔を見れないのが残念だ。本当なら直接祝いたかったが、人間だからな。仕方ない。
     幸せな結婚生活になることを祈ってる。
     今、これを書いている俺は2人目の子供が産まれて、1年くらい経ったところだ。てんやわんやで忙しいが、毎日すごく楽しい。君も早くこの幸せと、ぶちまけられたスープの後片付けを経験するといい。流石に一国の王が子育てはしないのか? わからないが、した方がいいと思う。前の子でもやったんだが、妻とどっちが先に名前を呼んでもらえるか勝負してるんだ。前の子は俺の勝ちだった。今度はどうかな。
     そういう話を、君と直接話したかったんだが、難しい。取り留めのない話をするには、ちょっと便箋が少なすぎるな。本題に入る。
     結婚を祝う手紙で言うのも何なんだが、きっとこの世で最後に残った俺の言葉になるだろうから、言わせてくれ。君のことが好きだった。何にもなれなかった気持ちだし、君が俺の事を友人だと思ってくれてたのを知っていたから、裏切れなかった。ので、君の反応がわからない死んだ後に言おうという魂胆だ。卑怯で悪い。
     別に何をどうして欲しいわけじゃない。ただ知っててくれると嬉しい。それだけだ。
     じゃあな!改めて、結婚おめでとう!』

     読み終えて、マレウスは背もたれに深くもたれかかって、深く、息をついた。マレウスは、今の今までルーカスの想いにまるで気が付いていなかった。結婚していたことも、子供が産まれていたことも知らなかった。ヴァレンシュタインの結婚式に招待して貰えるように、こちらからも約束しておけば良かったと、心から思った。厄介な因果のせいで、叶うことは無かっただろうが。
     伸びやかで力強い筆跡は、鮮明にルーカスを思い出させた。懐かしいと、そう感じてしまうことが寂しかった。そう、寂しいのだ。800年のうちに、マレウスは寂しさを学んだ。
     目を閉じると、いくつもの思い出がマレウスの頭に浮かんでは消えていく。
     約束をした夜、少し寂しそうな横顔。最後の決闘で、敵わないな!と笑った土埃で汚れた顔。集まりにマレウスがいないと呼びに来て、すんでのところで間に合わなくて悔しそうにする顔。マレウスの取り留めもない話を聞く、穏やかな顔。ルーカスがオーバーブロットした時の苦しそうな顔。卒業式、誰よりも寂しがっていたあの泣き顔。
     どれも、マレウスは覚えていた。覚えていたのだ。
    「……」
     マレウスは途端に寒くなって、夜間着に着替えるとベッドへ潜り込んだ。手足が冷たい。早く眠れるようにと目を固く閉じていると、ふと手に何かが触れたような気がした。あたたかいそれに思わず目を開けると、当然なにがいるわけでもない。しかし、マレウスは漠然とした予感に胸を震わせ、その名を呼んだ。
    「……ヴァレンシュタイン? いるのか?」
     マレウスの声は部屋に静かに響き、そして消えていく。しんとした室内で、じっと気配に集中していると、風のない、窓の締め切った部屋にも関わらず、机の上に置いたままの手紙がひとりでに床に落ちた。マレウスが近付き手紙を拾うと、引き出しの中へ仕舞って振り返る。
    「お前だな」
     どこにいるのかもわからなかったが、マレウスは確信を持ってそう言った。応えるように、ベッドの天蓋が揺れる。
    「お前の予想通りだ。うっかりしていた。もう誰も生きてはいない」
     マレウスは笑った。自嘲の混じったそれに、天蓋は控えめに揺れる。それを見たマレウスは、揺れたところへ近付いて、少し考えて、俯いた。喉は、考えるよりも先に言葉を紡いでいた。
    「会いたい」
     会いたい。マレウスの正直な気持ちだ。これがどういった感情に起因するものか、考える必要も無いように思えた。ただ、会いたい。俯いていると、マレウスをあたたかいなにかが包んだ。抱き締められているのだと悟ったマレウスは、なんとなくでルーカスを抱き締め返してみた。なんとなくだったが、マレウスには分かった。
    「泣くな、ヴァレンシュタイン」
    「……」
    「泣くな……」
     しばらくそうしていると、あたたかさは離れ、ついにマレウスの言葉に応えることもなくなった。母校のように、魔力の濃い場所でならゴーストに会えるだろうか。どちらにせよ、マレウスにそんな暇は無い。それでも、この一晩の出来事はマレウスを満たした。
     この先の長い時のなかで、たった数年の思い出と、たった1枚の紙切れがマレウスを慰めてくれるだろうと、確かにそう思えた夜だった。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    😢😢😢😢😢😢😢😢😢😢
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    くらふと

    DONEモブランド4の展示物です
    アディショナルタイムに書き上げました!
    マレウス×創作寮生(ルーカス)の短編です。CP要素はほとんどありません。

    このあとの話も書きたい 超ド級ハッピーエンドの(ハピエン厨)
    思い出と紙切れ 深夜の散歩を終え心地よい夜風の中寮へ戻ったマレウスは、談話室を通り過ぎようとして、ふと足を止めた。現在時刻は午前1時ごろ。普通なら生徒は寝静まっている時間に、ぼんやりとした灯りが付いているのを発見したからだ。マレウスは特段咎めるつもりもなかったが、一体誰が、何をしているのだろうと気になって階段を降りていく。興味のままに近付くと、マレウスが覗きにくるのを分かっていたかのようにその男と目が合った。
    「お前か、ヴァレンシュタイン」
    「ああ。君は夜の散歩か?」
    「そうだ」
     談話室のソファに腰掛けていた生徒は、マレウスと同じく3年のルーカス・フォン・ヴァレンシュタイン。1年生の時、1学期の中間考査が終わったかと思えば恐れ知らずにもマレウスを「ライバル」と呼び、寮長の座をかけた決闘を申し込んできた男だ。勿論すぐに叩きのめしたが、決闘の申し込みが止むことはなかった。結局、決闘が面倒になったマレウスは学期末に1回の挑戦を許すことでルーカスと合意し、一度も善戦させることなく3年生になった。それでも懲りないのだから、驚くべき人間である。
    4998

    related works

    recommended works