バイト先の仲間から 長い間地上を走っていた電車がつかの間地下に入る。軽い車体がごうと音を立てトンネルをくぐると、黒くなった車窓が鏡のように乗客の姿を映し出した。正面に表れた男の浮かれ切った出で立ちを見て、ジョウは自分がいかに場違いかを思い知る。
小脇に抱えた花束は、意識していなければどうということもないが、いざ視界に入れば途端に落ち着かない。持ち方はこれで良いか、前に座る老婦人の邪魔ではないか。向かいの席の女子学生が窓越しにこちらを見ながらひそひそと小声で囁きあっている。右側の少女がマスクをしているのを見て、ジョウはもしかして花粉症なのだろうかと心配になった。薔薇の花からも花粉が飛ぶものだろうか。幸い、病弱ではあるがアレルギーの類は持っていないジョウには無縁の感覚だったが、三月も中旬に入った今頃は、朝のニュースに花粉予想が添えられるのがお決まりになっている。
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