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    diolete

    @diolete

    らくがき 半端な小説 ニッチ作品 18作を置いておく

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    diolete

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    すれ違うイサルイ
    何も考えず思いつくままに書いたので最初と最後で話がつながってないかも…

    軍の構造とか、国のやり方とか、組織規則とか、機械の動きとか、なんも知らない 本当に適当に書いた
    雰囲気だけ察して

    #イサスミ
    #イサルイ

      『太陽に焼かれて氷星は融けた』

     世界がしっかりと進んでいることに気づいたのはつい最近だ。
     スミスはイサミを思う。
     地球の裏側にいる戦友。世界救済からは数年が経ち、直接顔を見たのはずっと昔だ。……相棒と呼ぶにはそばにいない時間が長すぎた。
     それぞれの国に帰ってもいまだTS機に乗って活動をしている。
     そんなことを通話の画面越しに会話していた。
     それがだんだんと話題が増えて、お互いのことを話すことが多くなった。
     仕事の愚痴。仲間の心配。食べ物の話題。流行りのコンテンツ。それから家族のこと。
     相手の好みや現状を互いに話す。距離が離れていても繋がっている。世界は驚くほど狭かった。
     そんな平和を取り戻した世界で話題なのが、英雄の素顔。イサミのことだ。
     世界を救ったストイックで魅力的な英雄。飾ることのない性格と正確無比な仕事をこなす救世主。静かで礼儀正しい好青年に、世界は夢中だ。
     イサミの活動を常に追いかけるパパラッチやファンが増え、世界のどこにいてもイサミの行動がキャッチできた。
     当然仕事に影響が出始めれば規制がかかり、きちんと保護された。それでも熱心な情報が出回る。当然コアな情報も、勝手な噂も。玉石混合だ。
     当のイサミはそれをあまり気にしていなかった。
     他人が勝手にやってること。周りや家族に影響が出なければ、なんと言われようが自分のスタイルを変えなかった。
     イサミは元々人から影響を受けづらいタイプで、こんな状況でも自分のペースを乱すことがなかった。最高にクールだ。
     それでも変わることがあった。
     英雄となり、周りから英雄面をなんとなく求められるようになって、相手との距離感を保つために愛想を身に着けたのだ。
     ちょっとしたときの笑顔。相手を間合いに入れない仕草。本音をこぼすときの加減。
     それらを学んで、周りとの距離をうまく立ち回っていた。
     丸くなった。
     そうスミスは思った。
     丸くなって世界に見せる顔を彼は会得した彼は一人でも勇気を出して、その先へ進んでいるのだ。
     その顔はスミスを寂しくさせる。
     最近イサミと会っていない。
     つまりそれがイサミとスミスの今の距離だった。
     それだけ世界は公転し、復興し、前に進んでいる証拠だった。
     イサミは変わった。そしてこれからも変わっていくだろう。スミスの知らないところで。
    「随分と遠くへ行ったな」
     すでに相棒と呼ぶほど近くはない。相棒だったと語れる、その程度だ。
     思い返せば、最後に会話をしたのはいつだったか。
     スミスはスケジュールを確認してやめた。
     そんな予定は書いていない。地球の裏側にいるイサミとの交流はいつだって突発的だ。
     互いに空いた時間。気が向いたとき。偶然が重なった暇。
     だから予定に書かれることはなかった。
     そうやって画面越しの会話が減って、それでも相手がどうしているか気になったときに、世間のゴシップが役に立ったんだ。
     スミスは今更そのことを思い出した。
     ネットニュースにあがる記事で知らない顔で映るイサミ。
    「俺はもう、世界のいちファンと変わらない距離だな……」
     スミスはそんなことを思った。
     今の自分があまりにも気落ちしている。それがわかった。
     そう、スミスは寂しかった。
     今日はルルはいない。新しくできた友人と旅行に行っている。
     だから今夜は一人だった。
     世界を救ったあの日からもう何年も経ったのに、自分は変わることができないでいる。
     大好きな、愛している相棒だった男をずっと追いかけていた。
     そうしたら見つけてしまったのだ、ストイックな英雄が変わっていく様を。
     喜ぶべきなのに全く喜べない。むしろ物理的に距離があって助かったくらいだ。精神的にも。
     スミスとイサミはそれだけ遠くにいる。
    「潮時だな」
     これ以上留まれば進めなくなる。
     いや、もうすでに足を取られている。判断が鈍ったのはそのせいだ。
     本当はもっと早く決めるべきだった。
     いつもの自分らしく、思い切って次に向かえばよかった。そうすればここまで尾を引かなかった。愛しい重力に引かれてで自分を削るべきじゃなかった。
     スミスは勢いをつけてデスクから立ち上がった。
     タブレットもそのままクローゼットを開けて、眠っていた服を取り出し身に着けていく。
     家に家族がいなくて寂しいとごねてここから2時間はかかる友人の家に転がり込もう。あいつは口も酒癖も悪いが楽しければ無碍にはしないやつだ。彼と彼の家族と飲み明かして眠ろう。
     この胸に空いた穴を埋めよう。簡単なことだ。
     もっと早くそうするべきだった。もっと早く行動するべきだった。もっと早く勇気を出すべきだった。
     そうしていれば『英雄の熱愛!』を喜んであげられたのに。
     いの一番に祝いのメールをして、そんな素振りもなかったのにやってくれたなって、からかって笑えたのに。
     太陽の光を浴びて、その温かさにまどろんでいなければ、適切な距離でいられれば、こんなに苦しくて、悲しくて、寂しくて、寒くて、小さくならずに済んだのに。
     急ごう。でないと朝になってしまう。
     強い太陽の光に氷星が溶けて無くなる前に。丁度月も見ていないときに動いてしまおう。
     そうすれば誰にも気づかれることはない。
     重力に引かれてやってきた彗星が遠心力に乗って帰っていく。それだけだ。
     着替え終えたスミスは片付けも準備もそこそこに玄関を飛び出していった。
     そんな慌ただしさが過ぎ去り、無人となった家の中で、電源を付けられたままだったタブレットに一つの通知が届く。
     しばらくの間画面端にあったが、タブレットが待機状態となって真っ暗になって消えていった。



      『太陽の光が地球を暖めた』

     元々、周りを気にしない性分だった。それが愛想笑いがうまくなったと周りに言われて初めて知った。
     自分では何を意識したわけでもなかった。
     けど世界を救った後、否応なしに人がやってきた。
     喜ぶ人も。泣く人も。ただ何も言わずに、ただ何かを訴える人も。
     そんな人々に優しく寄り添っていたかった。ただそれだけだった。
     そうやって少しだけ笑うと、自分と周りがうまく回った。月が一日かけて地球を回るように。くるっと。
     だからそうすることが増えた。
     改めて考えればこの顔はスミスの顔だ。
     あいつがヒーローインタビューでよくする顔。
     仲間を信じるときの顔。苦しい経験の中でも決して絶やさない笑顔。優しく大丈夫と励ますときのスミスの顔。
     そのイメージだ。
     常にそばにいてくれた彼の優しさ。それをずっと受けてきたから、今度は自分が同じ優しさをみんなに与えられたら。胸に一つ芯が通ったように、誰かの支えになれたら。
     自分が愛想がよくなったと言われる行動なんてそんなものだ。
     一緒に戦う相棒と呼べる存在が自分を活かしてくれる。
     物理的にそばにいなくても、今もこうして心で、精神で分かり合えている。それが前を向く力になる。
    「……ということに気が付いたのは本当に最近ですね」
     イサミは目の前の記者にそう語った。
     今日はスポーツ雑誌のインタビューの日。野球選手やサッカー選手、オリンピックのメダリスト、次世代アスリートなどから話を聞いてきたベテラン記者。その彼がスポーツ業界問わず気に入った相手を招いて語る座談会。
     次のテーマは「ヒーロー」ということで声をかけられた。
     イサミは自分が英雄の柄ではないことを知っているが、最近知ったこともあるし、いい機会なのでオファーを受けた。
     周りはイサミを英雄だという。
     理屈では分かっているが、自覚はない。
     なぜなら自分一人では、絶対に世界を救うことは出来なかったからだ。
     自分が止まらずに来れたのは、最後まで立ち向かえたのは、仲間がいて、スミスを追いかけて、『彼』が背中を押してくれたから、勇気を出せた。
    「俺をヒーローだと信じてそばにいてくれたそいつのお陰です」
     生憎、スミスに関することとなると気恥ずかしさが残ってやさしく語れない。ついぼかして最近学んだ愛想笑いに乗せて語った。
     経験も豊富なベテラン記者は軽い相槌を入れるだけで深くは突っ込まない。
     だから今日のイサミは自分でも自覚している以上に口が回った。むしろ回りすぎた。
     そしてベテラン記者の腕は鋭い意味で冴えていた。



     そんな座談会インタビューを受けたのが数か月前。世間では常にそばにいて支えてくれる存在を優しくはにかみながら語る英雄の恋愛観について持ち切りだった。
     周りに流されない男イサミ・アオがこの話題を知ったのはついさっきだ。
     ヒビキから珍しく連絡が入り、事の真相を聞かれた。
     愛想を身に着けた男はきっちりきれいな笑みを浮かべて、同僚の追及をかわし切った。
     この手のネタは昔から囁かれているものだ。それが今回はかなり肥大化していた。
     そんな背景もあってヒビキは連絡を入れてきたのだろう。いつもながら良い奴だ。
     このことをスミスが知ったらどう思うのか。むしろこんな状況にあいつならどうするのか。それが知りたくなった。
     今は丁度空いた昼時間。向こうは寝るかもしれないギリギリの時間。
     うまく合えば繋がる。
     イサミはいろんな意味で急ぎスミスに連絡を取った。
     しかし今回はタイミングが合わなず、向こうに繋がらなかった。



     イサミに連絡がついたのは数日後だった。
     通話ボタンをオンにして画面を共有させる。
     久しぶりに映るスミスは特に変わっていなかった。
    「この間、君に連絡を貰ったのに出られなくてすまない」
     スミスが申し訳なさそうに謝ってくる。
    「別に気にしてねーよ」
     そう言って返す。無意識に口が上がった。
     近況報告から始まり、大体はスミスが話を聞いているスタイルになる。
     今回もいつもと分からない。スミスからあの話題が出ることもなかった。
     あの記事は日本語のみで発行、配信しているものだから、スミスの目に届いていないのかもしれない。
     変わらないな。
     そう思ったイサミは珍しく話題を振った。
    「こっちじゃ、英雄を支える存在がいるって話が流行ってる」
     そうしたら驚いて食いついてくるだろうと、そう思っていた。しかし予想は裏切られた。
    「やっとか話す気になったな、英雄殿」
     スミスは待ってましたとばかりに、愛想よく笑った。
     
     
     
     スミスが変わった。
     そう元ATFメンバーに言っても誰も頷いてはくれなかった。
     むしろイサミの方こそ変わったと言われるばかりだ。解せない。
     あの話題を出した通話から一か月が過ぎた。
     スミスとはまだあれから連絡は取れていない。
     それはニュースを見れば分かる。
     大国アメリカは軍陸海空総動員で、現在ハワイを中心とした太平洋沖にて、デスドライブズなどによる地球外侵略を想定した大型軍事演習を、復興しつつある世界に向けて発信しているのだ。
     そこにスミスが映る。
      彼はTS演習のみならず、地球侵略対峙経験者として演習におけるアンバサダーの立ち位置にあり、彼を見ない日はなかった。
     若く勇敢な戦士。決して悪に屈しない不屈の心を宿した、マッチョでハンサムな救世主。悪く言えば、ひどく前時代的なスーパーヒーローによく似ている。
     御旗にするには打ってつけだ。
     日本でイサミが英雄であるように、アメリカではスミスがヒーローだ。まぁ全世界的にATF部隊は英雄であるが、その中でも最も前線に立っていた者たちが祭り上げられるのは致し方ないことだった。
     口から出れば世間。
     脅威に直面し荒廃した心に救いを求めてしまう思いが英雄を望んでしまうのは止められない。
     それでもキング元総司令や他の幹部のみんなが、軍および各国政府人に頑として人としての権利を主張してくれたおかげで今の安らぎがあるのだ。
     今回のスミスはあくまで経験者としてのアンバサダーであり人気コメンテーターだ。
     スミスが出るとそれなりに数字が取れるらしい。
     イサミの周りでもスミスを知らない奴らが、映るたびに足を止めるのを見かけた。
     気さくでさわやか、よく笑い、人懐っこく、しゃべりはうまい。見た目も悪くなく、女性陣には好意を持たれやすく、男性陣にも愛想がよく嫌味な印象は受けない。なにより本人に前向きなやる気があり、見る人に勇気を抱かせてくれる。まさに人々に愛され求められるヒーローだ。
     そこまで考えてイサミは不機嫌になった。
     そのヒーローはそんな顔で笑わない……。
     そう呟きそうになり、また不機嫌になった。
     イサミは苛立ってしょうがなかった。
     何よりもこの苛立ちの一番の原因はスミス本人にある。
     イサミは画面の向こうでさわやかな愛想笑いをするスミスを睨みつけた。
     スミスが変わった。
     何が変わったのかイサミもうまく説明できない。
     だが、変わったのだ。
     目線が、言い方が、仕草が、態度が、以前と違う。
     あの時からだ。
     いつもと変わらないと思っていたあの通話から、スミスが変わっていた。
     テレビやスマホ越しに見せるスミスの顔が変わった。
     見てる方向が違う。まったくこっちを見なくなった。合わなくなった。
     おかげで前のように心が見えない。
    「!」
     イサミは自分でも驚いた。
     自分でも馬鹿なことを考えているという自覚はある。
     それでも実感として納得した。
     今、イサミのそばにスミスがいないとはっきりといえた。物理的にも精神的にも。
     そうだ。スミスは変わったのだ。
     イサミと違う方を向いたのだ。
     それはイサミに取って不満でしかなかった。
     スミスがそばにあって世界がうまく回っていたのに、そのスミスはイサミのそばからいなくなった。
     イサミは急いで椅子から立ち上がると、重力に引かれてもつれる足を持ち上げて、イサミは走った。
     回転不足の星から重力を切って飛び出すには、大きなエネルギーが必要だった。



     『地球から観測に成功した』

     旅行から帰ってきたルルに気持ちを打ち明けた。
     そうしたらルルは代わりに泣いて、それからスミスと一緒だよと笑った。
     気持ちが決まれば楽だ。振り返りはしない。
     重力の薄い暗闇でも、また巡って光に会えると信じて、前に進む。それだけだ。
     まぁ今はアメリカ軍の大型軍事演習中でよそ見をする暇もなかったわけだが、もう少しでこのイベントも終わる。正直ちょっときつくて後悔してる。
     明日は演習のラストを飾る花形のTS演習だ。アメリカ軍のTS部隊による混戦バトル。最後の一機になった勝者を担ぎ上げて、フィナーレとなるストーリーだ。
     このバトルにスミスはTSパイロットとして出される。うまい位置を取って上位に食い込めと命令が出ている。まぁ言われなくともそのつもりだ。
     先を決めて、仕事を盾にがむしゃらに走った道も明日で一旦終わる。
     その先はどうしようか。
     演習最終日を前にして、最近はそんなことばかり考えている。
     大きな仕事の後にはささやかながら一週間の休暇が入っている。ヒーロー休暇と家族休暇とアンバサダーボーナスあたりが組み込まれての一週間。
     普通であれば喜んでいるところだが、今はタイミングがあまり良くない。
     行先は決めたとして、今は駆け出しで軌道は安定していない。
     さてどうしたものか。
     そこにルルが入ってきた。手にはどこかのテイクアウトが大量に抱えられていた。
    「ルル。どうしたんだ?それ」
     スミスのデスクの上に広げられていく料理を眺めながら、スミスが聞いた。
     ルルは口をにっこりと上げたが、目は笑っていなかった。
    「スミス。最近特に休めてない。今日はもう仕事ないから、食べて?」
     そして寝るっと念をされた。
     それからルルと早めの夕食になった。
     運ばれた料理は様々で宿舎のテイクアウトや報道陣目当てに軍敷地外に集まるキッチンカーの料理、地元のハワイのレストランやコーヒーショップのテイクアウト、デザートやお菓子などもあった。
    「ずいぶんいろんなところに行ってきたんだな」
     軍事演習が始まってからあまりルルと一緒に居られていない。
     スミスが仕事で多忙ということもあるが、このところルルはあちこちに出かけているようで不在が多かった。
    「ルルにしかできないお仕事があるから」
     そういって三つめの料理を平らげた。
    「ルルにもやりたいことができたのか」
     まるで娘の成長を喜ぶようにスミスの心が温かくなった。
     そのまま和やかな雰囲気で食事を終え、スミスは明日に備え、早めに就寝に入った。



     おかげで翌日はすっきり目が覚めた。
     明日からの予定は少々未定だが、今日の演習は勝てると意気込んだ。
     朝食を取り、TSコンテナへ向かう。
     複数のTSが並ぶ中、スミスは自身に割り当てられたライノスを整備士と調整していく。
     演習は午後からだ。それまでに調整を行う。
     一通り整備を終え、運搬スケジュールなどを確認して、そのときはじめてヒロのTSが別区画からの投下であることを知った。
     スミスはアンバサダーをやる立ち位置上、この大型演習の細かなプログラムを知らされていた。にも拘らずスミスに変更の通達はされず、現に当日自分で確認をするまで知ることはなかった。
     それつまり、裏で何かが動いたということになる。
     スミスは不審に思い、整備士にプログラム変更の伝達がいつ行われたのかを確認を取る。
     整備士は昨日の朝伝えられたという。
     かなり急な変更だ。
     他に何か知っているかと問うと、変更の指示は元ATFの名誉総司令ハル・キングの希望だという話だ。
     その話をそばで聞いていた整備班長からは同じく元ATFの名誉隊員トーマス・J・プラムマンからの一言があったという話だ。
     元ATF部隊からその二人の名前を出されてスミスは頭を捻った。
     スミスは変更知ったとき、何かの圧力によるものだと考えた。
     しかし、変更の立案者が元ATFの方々だと言われて、その線が薄くなったのだ。
     それでも裏で何かが動いていることだけは確かだった。
     そんな疑問も解消できぬまま時間は過ぎていった。
     
     午後一で始まった大型演習、最大のプログラム。TS機での疑似混戦バトル。陸と海と空の三方向からTSを突入し合い設定された地点にはコンクリート製の建物が用意されていて、そこで白兵戦となる。
     この戦闘は世界に向けてTS運用アピールと大国アメリカ威信を示すの配信になるでありながら、手の内がわかるような本格的な軍事行動は避け、ゲーム的エンタメ性を組み込んだものになっていた。
     そんなシステムの中、スミスは海側からの上陸する一群にいた。
     浜から設定戦闘地域は距離がああり、到達した時点ですでに戦闘が始まっているはすだ。
     読み通り、戦闘地点に最も近かった陸と降下の際に姿の見えてしまう空の戦闘が行われていた。
     その戦闘の中に海も突っ込んでいく。
     一機、二機……。
     褒められたものではないがやり方かもしれないが、先を行く海の陰から確実に他のTSを狙っていく。
     スミスは本気で勝ちを狙いにいっていた。
     変わって前に進むイサミに対して今までと変わらないスミス。
     認めた相手においていかれる虚しさを払拭するために。新たな強さを得るために。
     必要なのは進むこと。
     進めていなかったから、彼は遠くへ行ってしまった。彼に近づくために。そのための一歩をこの勝ちで得たかった。
     変わる彼のそばに居続けるために。
     戦闘はあっという間に片が付いていく。
     ペイント弾が当たる位置にもよるが、被弾は最大二発まで。そこが機体停止のラインと決められていた。
     スミスはすでに右肩に一発食らっているが、機体のOSから停止のサインは出ていない。
     体制と情報整理のため、スミスは建物の陰に身を隠した。
     といっても、センサーによって視認できない位置でも特定できるため、到達に時間がかかるだろうポイントに移動したに過ぎない。
     それでも一時的戦闘回避は、情報整理には役に立った。
     建物外に残っていたTSはほぼ全員起動停止している。
     残りはスミスと同じように建物内で移動や戦闘を行っている数機だけだった。
     弾の残りは多くない。
     兵装がガトリングであるため、あまり節約はできなかった。
     残りの弾を打ち尽くし後は近接攻撃だけとなるため、弾を最後まで残せた方の勝ちだ。
     二か所で行われていた戦闘の片方で決着がついたようで、一瞬音が止んだ。
     最後の乱戦の中に飛び込むために、スミスは急いで建物の上部から飛び降りて、銃口を相手に据えた。
     一機。胸部に当てて、起動停止させた。
     それと同時に、残る二機の戦闘も片が付き、一対一の勝負になる。
     その機体番号には見覚えがある。
    「まさか……最後はヒロと一騎打ちになるなんてな」
     予想をしていなかった相手の登場にスミスは思わず、機外へ音声開放し、語り掛けた。
    『……俺はスミスが最後に残るって賭けてたぜ』
     やや間を開けて、ヒロから通信で返事が返ってきた。
     仲間からの熱い期待に応えようと、操縦桿に力を籠める。
     正面から対峙する二機のTS。弾の残りは少なく、余計な無駄撃ちはできない。先に弾を使い切った方の負けだ。
     演習用に作られたコンクリートの建物は戦闘の残り香で崩壊している部分もあり、瓦礫が散乱し、足場が悪い。弾を回避するには足を取られて面倒になるだろう。
     最初の一発が勝敗を左右する。
     互いにその感覚が分かるのか、あれほど派手に交戦していた動きが止まり慎重になった。
     それもほんの一瞬だった。
     スミスは操縦桿を動かして標準を相手に合わせ、トリガーを引く。
     ほぼ同時に相手の銃口も動いた。
     先に打てたのは相手の方だった。スミスの足元に数発撃ちこみ、瓦礫と砂を舞い上げる。
     相手ははじめから照準が地面に合わせていた。だから先に打てた。こちらの動きを止めて、次は本体を撃ってくる。
     そう直感したスミスはガトリングを盾にして敢えて前に出た。
     後方に回避しても射程距離。側面回避も予想される。
     相手と同じで不意をつくなら、正面突破。弾が当たらないことを祈るばかりだ。
     一気に間合いを詰めた。
     しかし相手はこれを予想していた。
     盾にしたガトリングをはじき上げ、体勢を崩し、突っ込んでくる勢いを頭部視点でいなして、スミスのTSをひっくり返した。
     最後にガトリングの銃口をコックピットに押し当てられて、勝負がついた。
     鮮やかなお手並みだった。スミスの癖を正確に読み切った判断力。その力をうまく利用した無駄のない戦法。手も足も出なかった。完敗だ。
     スミスが今の戦闘を振り返り負けを認めて、緊張を一気には出したとき、外からコックピット開けろと叩く人影がモニターに映った。
     スミスはTSを天を向いた体勢から少しだけ上部を持ち上げた姿をとらせ、コックピットを開いて外に出た。
    「やっと追いついた。スミス」
     出て直ぐ、ブルーのパイロットスーツに防弾服を被り、オレンジのバイザーヘルメットを身に着たイサミに捕まった。
     呆けたスミスに繋がる無線の向こうからは、狂喜の歓声が上がっていた。



      『次の天体ショーはおおよそ三年後』

     日本を発ってからすでに一日は経過した。
     日の暮れた夜を走る移動者の中、マリーンキャップを被り、ブルーの作業着に身を包んだイサミがアメリカ軍の駐屯地の門をくぐった。
     ハワイで行われているアメリカ軍が総力をかける大型演習の最終日前日。そこにイサミはサプライズで呼ばれている。……という筋書きだ。
     そんな計画はなかった。そこを元ATF部隊のメンツを借りて乗り込んできたのだ。おかげでイサミの元上司であるサタケ隊長は元部下の3倍の始末書を書く羽目になっているらしい。もしかしたらもっと増えるかもしれないが、まだ書ける時間もないので一旦忘れることにする。
     駐屯地に着いて移動車を降りると元ATF部隊のローレン少佐に出迎えられて、説明もそこそこにTS格納庫に案内された。
     待っていたのはスミスと同部隊に所属していたアウリィ少佐だった。
    「話はまぁ……通ってるよ」
     アウリィ少佐は頭が痛そうにそう言った。
     絶対に通ってない。でも通したんだろう。でもまぁお互いにそんなことを気にしてる余裕はなかった。
    「悪いけど、君にはこれから2時間でM3の操作をマスターしてもらう。操作の理屈は君が乗っているM2とかなり違うが、泣き言なんて聞かないぜ?」
     厳しい顔をでイサミを脅した。
    「望むところです」
     こっちはすでに引き返す気はない。ここで方向を見失えば、捕まえる予定の尾に手が届かなのだから。
     イサミの頑固な決意を見たアウリィ少佐はBOFとつぶやいて失笑した。



    「行くな」
     TS混戦バトルにてスミスを下した世界救済の英雄は開口一番にそう伝えた。
     隙のない鮮やかなTS捌きを見せた英雄が、共に世界を救い戦ったヒーローの腕を掴み、追い縋った。
    「意味が分からないな。俺はどこにも行ってない」
     未だ現状が把握できていないスミスはイサミの言葉がよく分からず困惑の顔をしていた。
     それはそうだ。
     アメリカ軍が世界に向けて行っている大型軍事演習の最終日に現れたイサミは世界を救った英雄であるが部外者だ。ホワイトハウスで表彰を受けたのだって地球的脅威があったからであり、大国アメリカが招いてもいない他国の人間を軍事演習に組み込むとは普通あり得ない。
     スミスにとってはまるで訳がわからないだろう。
     ヘルメットについている無線の向こうから聞こえる声はまるでアメリカンフットボールの決勝を見るかの如く盛り上がっていし、視界の端で疑似KIAを受けているはずスミスの同僚たちも何やら楽しそうにこっちを見ていた。
    「逃げるなよ」
     現状把握に努めていたスミスにイサミは挑発を入れた。
    「逃げる?俺が?」
     スミスが眉間にしわを寄せてこっちを見た。かかった。
    「その通りだろ?お前は俺のそばにいたのに、手を伸ばさずに逃げたんだ」
     そう言ってやった。
     スミスは分かりやすく止まった。図星だ。
    「逃げたわけじゃない。態勢を整えるために一旦下がっただけだ」
    「態勢を立て直す必要があるのか?」
    「……」
     何か反論をしようと口を開いては言い返せずに口を閉じるを繰り返す。
    「なんで手を伸ばさなかった。なんで置いていった」
     言いあぐねるスミスをイサミは追いかけて、問い詰める。
    「俺は……君のそばにはいない。俺はステイツでお前はジャパンいるんだ。一緒にいるわけじゃない」
    「けど、心はそばにいただろ」
     その心が悲鳴を上げたからこうなっていた。
    「分からないよ。お前が画面越しに見せる顔は変わった。昔より恰好よくなった。いろんな経験をして、いろんな出会いをしてイサミは笑うようになった。知らない顔で」
    「その顔が遠くに感じる。物理的にも時間的に遠いのに、イサミの気持ちも遠くなった」
    「でも俺もお前も変えられない。距離が遠くなったまま、変われないんだ」
    「手が届くほど俺たちは小さくないんだ」
     手を伸ばさなかったのはイサミも同じだった。お互い伸ばし方が分からなかった。だから今こうして何とか繋ぎとめようと必死になっているんだ。
     俺たちは別に恋人じゃない。
     けど、それと同じ気持ちを持ってる。
     恋人なら一緒にいるものなのかもしれない。そうすればお互いの顔を忘れることなく、関係を続けられるのかもしれない。
     生憎、俺たちはその枠に収まらない。
     それぞれに居場所があり、やりたいことがあり、進む速度も違う。物理的に時間的に、そばにいることはできなかった。
     それでも互いを思う気持ちはあった。だから臆せず前に進めたんだ。
     今回かみ合っていたはずのその歯車が、明らかにズレていた。
     イサミはスミスが変わったからだと思ってるし、スミスが変わった原因はイサミにあった。
     お互いに離れすぎていた。
    「潮時だな」
     イサミの口からこぼれた言葉に、スミスが目を見開いて一粒泣いた。
    「泣くことないだろ……」
     涙を流したのは一瞬で、後はお互い意地張ってた分、馬鹿みたいに笑い合った。
    「やることが早いんだよ、スミスは……」
    「イサミが遅いんだろ」
     見切り発車と諦めが悪い二人だった。

     こっちの話が終わったことが無線の向こうにも伝わったのだろう。
     場の空気が荒々しく変わりパイロットの撤収とTS機体の回収が始まった。
     世界に向けて配信するための固定カメラとマイクから二人のやり取りは伝わっている。明日にはゴシップ誌で大々的に事の成り行きを面白おかしく書かれることだろう。
     しかし今の二人にはそんなことはどうでもよかった。
      今後の事後処理と元ATFメンバーへの感謝と対応に追われる二人に世間の興味関心を気にする余裕なんてないのだ。
    「とりあえず明日一番に始末書の走りだけでも送らないとまずい」
    「イサミ。ハワイとジャパンの時差は十九時間だ。ジャパンはもう明日じゃないか?」
     現実を突きつけられた、イサミはここ最近身に着けた愛想笑いを浮かべる。
     そしてスミスはその顔が気に入らなくて、イサミの顔をつねり下げて満足した。
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