他愛もないこと 今日も元気に喧嘩をしている。こんな至近距離で言い争っているからお互いにおでこをぐいと押し当てたり、鼻先がつんつんぶつかったりしている。それでもどちらも引こうとしない。タケルも漣も本気でやってるんだろうが、見ている方としてはだんだん微笑ましく思えてくる、というか。
お互いの顔を睨んでいるんだか見つめ合っているんだか、距離が近すぎてどちらも寄り目になってるのは、きっと自分たちでは気付いていないな。丸くなった目はさながら猫二匹。タケルは漣を見上げて少し上目遣いだ。
漣は腹を立てて睨んだり、口をへの字にしたり尖らせたりして拗ねたかと思えば突然ニッと笑ってタケルになにやら勝ち誇ったようなことを言っている。タケルも怒って言い返すかと思いきや、極めて冷静に「俺の方が」と真正面から言い放った。そして言い終わってからこっそりと唇の端に勝利を確信した笑みを浮かべる。こっそり――しかし自分から見れば明らかに、もちろん漣にだって、見えている。
漣が奥歯を噛んでぐっと唸った。だが負けを認めたわけじゃない。「なら……」と言ってタケルの顔へさらにぐいっと鼻先を近づけた。楽しそうだ。キスでもするみたいな、まつげの触れる距離でじっと見つめ合ってる。
かわいいな。さっきからずっと自分の膝の上でこうしてじゃれ合っている。本人たちは本気の喧嘩だと言い張るだろうけど。
「おいらーめん屋、どっちだ!?」
「円城寺さんはどう思う?」
「え!? あ、すまん聞いてなかった」
「はァ? この距離で? ちゃんと聞いとけ!」
「円城寺さん、何か心配事でもあるのか……?」
急に話題を振られて驚いた。そして二人で顔を揃えて、訝しげに自分の方を見上げている。息ぴったりだな。やっぱりかわいい……。
で、何の話だっけ?