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    masasi9991

    @masasi9991

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    masasi9991

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    夢で見た話 いわゆるゾンビもの的なパニックホラー

    ##創作

    「ざまァ見やがれ! 見たか!? 見てただろ! 今の! 簡単なんだよ、鬼を殺すのなんか、人間様の手にかかれば、なあ!?」
    「山崎、うるさい!」
     喚いていた山崎が、副委員長の叫びに急に怯えたようにビクッと身体を震わせた。
     山崎の視線が泳ぐ。上ばかり見ている。不完全な照明の天井は薄暗い。割れたLEDの破片は床に散らばって、散乱した血や肉に沈んでいる。
     震えてる山崎の手も汚れている。鉄パイプで殴ったんだから、それほど、だけど。指に付いた血が気になるらしく、何度も鉄パイプを握り直しながら、手についたそれを、鉄パイプに擦り付けようとしている。
    「副委員長、大丈夫」
     窓側の壁に背を向けてうずくまった副委員長に手を差し伸べたが、山崎と同じく汚れたおれの手を見て、彼女は忌々しそうに顔を歪め、首を振った。
    「大きな声出さないでよ。見つかるかもしれないじゃん」
    「うん。確かに、そうだ」
     差し伸べた手の行方に迷う。考えてみれば、副委員長を立ち上がらせたところで、どうしようと思ったんだろう。窓の外は完全に夜で、もうここの他にどこにも行けそうにもない。
    「見つかっても大丈夫だって。さっきのでわかっただろ、なぁ、なあ、夏希」
    「ああ」
    「副委員長、委員長の怪我を」
     傍らで成り行きを見守っていた衣乃が、副委員長に声をかけた。二人で、床に仰向けに倒れた委員長の側にしゃがみ込む。
     狭い教室に死体が二つ。いや、委員長はまだ生きているのか。どこかに穴が空いたような、浅い呼吸の音が聞こえる。だがそれも弱々しく、副委員長が嗚咽を上げて泣き出したら聞こえなくなった。
    「夏希」
     山崎が鉄パイプを握ったままでおれの肩を掴んで揺すった。その手に張り付いて離れなくなったかのようだった。多分オレも、武器を持っていたとしたら、同じようになっていたと思う。
    「あいつら、誘われないと入ってこれないんだよ。笹崎が言っただろ」
    「衣乃は絶対だとは言ってない」
    「でも吸血鬼ってそういうモンなんだろ!? 実際そうだったじゃねえか、ここに入って来やがったのは一匹だけ、で、あとは入れねェで、歯ァ食いしばってどっか、行っちまった! 簡単じゃねえか、一匹ずつ、おびき寄せて袋叩きにすりゃァ、殺せンだよ! このままあいつら皆殺しにしてやる!」
    「おれらだって無傷じゃない! 無傷じゃ済まなかった!」
    「じゃあどうすんだよ! ずっとここに引きこもって助けを待つのか? 餓え死にか?」
    「そうとは言っていない! ただ、奴らを殺すだけじゃどうにもならない」
    「ハ? 寝ぼけてんのか」
    「この学校の中だけでも奴らが何匹いるかわからない。鬼にならずに生きてる人間もまだいるかも知れない。一匹ずつ殺していくのはいいさ。だけど、どうやって、どうしたらおれたちは助かるんだ?」
    「そんなのは」
    「外だって同じなんだ。どうすれば」
    「私は山崎くんに賛成、かな」
    「衣乃」
     委員長の手当をしていたはずの衣乃が、立ち上がっておれたちの間に割って入っていた。
     助からなかったのか、とは、とてもじゃないが聞けなかった。
    「このままじっとしていてもどうにもならないよ。一人ずつ積極的に誘き寄せるっていうのはどうかと思うけど、少しでも鬼を減らした方が安全を確保できる」
    「夏希、テメエよりテメエの幼馴染の方がずっと話がわかるじゃねえか」
    「吸血鬼は家主に招待されないとその家に入ることができない、っていう習性があの鬼になった人たちにもあるのだとしたら、この教室を私達の陣地にできたのは偶然、鬼が一人もいない教室に逃げ込めたのは偶然……だけど裏付けする理由があった。そういう場所を、どうにか増やしていって、私達の安全を確保していく必要があると思う」
    「賛成! 賛成だ! 夏希!」
    「夏希くん」
    「わかってるよ。衣乃、わかってる」
    「副委員長は?」
     山崎が大声で怒鳴りつけた。だが、彼女は委員長の隣にうずくまったまま動かない。山崎は相変わらず鉄パイプを握りしめたまま肩をすくめた。
    「それで、結局これから」
    「安全そうな教室を探して占拠するんだよ」
    「ここから出て?」
    「今は外に鬼もいねェよ」
     何の疑いもなく、山崎は教室のドアを開いた。
     静かだった。夜の学校は、照明だけは昼間よりも明るかったが、相応に静かだった。さっきまでの戦いで天井のLEDが破壊されまくった教室の中より、廊下の方が眩しいくらいだ。
     山崎は首だけ教室から出して、廊下の端から端まで見渡す。ゴクリと唾を飲み込む。
    「行くぜ」
     少なくともこの階の見える範囲には鬼はいない、と判断して、山崎が一歩踏み出そうとした瞬間だった。
     ボトリ、と何かが廊下の上に落ちた。
     びちゃり、と液体と固形物が混じったような音で。
     それは胃液のような黄緑色の、吐瀉物のようにも……吐瀉物のようにしか見えなかった。
    「ウワーッ!」
     山崎が叫んでドアから飛び退くよりも先に、本体が天井から落ちてきた。
    「鬼! 鬼鬼鬼鬼鬼鬼鬼鬼! 鬼だ! 鬼!」
    「落ち着け! 教室には入ってこれないんだ!」
    「あああああああああやめろぉぉぉォ俺の足! はなっ、離せッ」
     確かに、鬼は教室には入ってこれない。だが教室からはみ出した山崎の足首を、鬼が、天井から落ちてきた鬼が、同じ学校の制服を着た女のような姿の鬼が、床に倒れ込んだような四つん這いで、蒼白の顔で黒く腐った瞳で固く乾いた血管の浮いた手で、掴んで爪を立てていた。
    「山崎くん大丈夫、教室に入れば大丈夫だから!」
     腰を抜かして暴れる山崎の両脇を衣乃とおれが二人で掴んで引きずる。
     だが鬼の腕力の方が強い。何より、その鬼の指がめり込んだ山崎の足首に、既に血が吹き出している。脱げた上履きも白いソックスも真っ赤になるほどに。
    「痛ぇ! 痛ぇよ! 足が千切れる!」
    「うッッッさい! 騒がないでよ! 仲間呼ばれたらどうすんの!? 足ぐらいで、あんたなんか足ぐらい、三ツ井はお、お腹を」
    「マジでやめ、足、おれの足、折れる、く、食うなッ」
    「まって、ほんとに誰か来る」
    「鬼が仲間を呼んだんだああぁぁあぁ助けてエエエえええ」
     階段を駆け上がる音がした。廊下は眩しくて何が来ているのかよくわからなかった。暴れる山崎と鬼の影から他の鬼が現れたら、どう立ち回るべきか瞬時に頭を巡らせた。血と埃にまみれた山崎の手から鉄パイプを奪うのが最優先かと考えた。
     そうしているうちに足音は、あっという間に間近に迫り、鬼の背後から高く振り上げた何かを、振り下ろした。
     逆光にシルエット。見慣れた姿だった。
     勢いを付けて振り下ろされた消火栓で、鬼の頭蓋骨が潰れて弾けた。
    「ああううああああうああああ!」
     鬼の手が山崎の足首から離れる。転がるようにして教室の奥へ逃げる。
     そんなことよりも、そこに駆けつけたのは、
    「朝陽くん!」
     衣乃が呼んだ。おれは息が詰まって呼べなかった。
     鬼が徘徊している校内で、無傷の姿で現れたのは、少し前にはぐれたはずの、おれのもうひとりの幼馴染だった。


    「無事だったんだね! よかった」
    「うん、みんなも」
     朝陽はたった今自分が殺したばかりの鬼の死体の後ろに佇んで、凶器にしていた赤い消火栓をゆっくりと床に降ろした。
     教室の中より廊下の方が眩しい。逆光。どちらかというと色白の朝陽の顔が灰色の影に入る。強い照明に髪型のラインが半透明の茶色にも見える。
     そんなことを考えている場合じゃないのに、呆然とそんなことを考えていた。
     いつものどこか浮いたような冷めたような遠くを見ているような静かな朝陽の目だ。無傷だし、制服だってほとんど汚れてさえいない。あの状況でまさかまた会えるとは思わなかった。生きているとは、思わなかった。
    「どうしたの? そこにいると、危ないよ。この教室の中なら安全みたい。だから」
     と衣乃が語りかけたとき、朝陽が首を横に振ろうとしたように見えた。まさか。
    「待ってよ、ホントに南くんなの!?」
    「それはまあ、オレだけど」
     副委員長の叫びに朝陽が肩を竦める。だがそこから動かない。
    「じゃあどうして教室に入ってこないの?」
    「ん」
     朝陽の目が泳いだ。そうするときは返事が面倒くさいのか、答えられない問いなのか、いつもよくわからない。ただいつも通り少し笑っている。
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