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    masasi9991

    @masasi9991

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    一緒に暮らし始めたばっかりのジクイア

    ##ジクイア

    鼓動、ひとつ、ふたつ


    「そうだ、今日はデザートを買ってあるんです。取ってきますね」
     と、少し早口で言って席を立った。声が少し浮ついていたかもしれない。ジークさんに変に思われたかも、焦ってしまって目をそらした。
     それでもやっぱり視界の端にジークさんの顔を見てしまう。少し首を傾げていたような気もする。でも微笑んでいた。
     なんとなくタイミングを図って言い出したけど、別にやましく思うことでも、緊張するようなことでもない。夕食後のデザートはいつものこと――というほどでもないけど、珍しくはない。ジークさんがプリンが好きだから、なにかあれば食後に用意があることもある。
     とはいえおれはそんなに甘いものが得意じゃない。嫌いでもないけど、ジークさんほどのこだわりがないから、いつもの食後に用意するとしたら、ジークさんが選んだものということが多い。
     今日みたいにおれが準備しておくとしたら時々のことで、そのたびにちょっとだけ緊張する。
     よろこんでもらえるかな。完全に下心だ。
     台所に置いている冷凍庫を開いて中を覗き込むと、そこから溢れ出たほんのり白い冷気に頬と耳がほんのりと撫でられた。
     顔が赤くなっている。この冷たい空気が気持ちいい。
     いくらなんでも緊張しすぎじゃないか。下心も持ちすぎ。夕食の間だって、考えてみれば全然平常心じゃなかった。いい加減慣れないと。
     こうして一緒に暮らし始めていったい何日経ったのか、って話だ。
     朝起きたら隣にジークさんがいて、顔を洗って歯を磨いて着替えて、朝食を食べて、……
    それからの時間はそれぞれ別の仕事に向かって、それでやっとおれの心が休まる。
     というのも、朝からジークさんとずっと一緒じゃ心臓がまったく休まらない。おれにはどうしても不思議なんだけど、あの人はどんな時でも輝いて見える。寝起きだったり歯を磨いていたり、寝癖を付けたままいつものあの美しい氷細工を思わせる鎧を身に着けてしまっている時でさえ、それぞれ違う眩しさがある。
     なんてことを毎日傍で感じていると、頻繁に心臓がドキドキしてたまらない。正直なところ困っている。
     でも、だからと言って昼間の会えない時間帯は、もっとジークさんのことばかり考えてしまうようになってしまった。一緒に暮らし始める前よりも深刻に。仕事に集中できる時間はいいけど、その後なんかが問題だ。家に帰ったらジークさんがいる。それか、ジークさんが家に帰ってくる。おれが「ただいま」を言うのかもしれない。ジークさんに「ただいま」って言われるのかもしれない。まだ何回繰り返しても胸が震える気がする。
     そしてそのあと、一緒に夕食を食べて。まだ家に帰らない間からそれを考え、夕食の買い出しに向かっていたりなんかすると、マーケットに並ぶ商品を見ながら、これはもしかしてジークさんがよろこぶかも、と思うものを探したりする。
     それで、今日は少し珍しいデザートを買ってきたんだ。
     ……あまりそればっかりじゃ引かれるかもしれないと思って、毎日は買ってこないようにしている。その分、こうしてたまに買ってくると、出すタイミングに迷う……。考えすぎる。
    「イアン?」
    「わ!」
     リビングの方から呼ばれて、我に返った。
     開けっ放しの冷凍庫から漂う冷気で頭も冷えてれば、いいんだけど。まだドキドキしている。
     急に名前を呼ばれた。あんまり戻らないから、ジークさんに不審に思われたんだ。しまった、焦る……けど、冷凍庫を開けっ放しにしてたこと以外にやましいことはない。どのくらいの間、考え事をしていたのかわからないけど。
     冷凍庫から目的のデザートを取り出して、慌ててリビングに戻る。手の上がひんやりと冷たい。
     やっぱり緊張する。大したことじゃないけど、おれにとっては一大イベントだ。よろこんでもらえるだろうか? それと、こんなに緊張していることがバレていないかどうか。変に思われてしまったらどうしよう。
     やっとリベビングに戻って、テーブルの上に今日のデザートを置いて席につく。それから視線をテーブルからそっと上げて、ジークさんの顔を見る。
     鼓動がひとつふたつ。一瞬の間だけでも、自分自身の心臓の音が数えられるほどだ。
    「今日の夕方にマーケットでおいしそうなアイスクリームを見つけたんです。家に持って帰るまでに融けてないといいんですが」
     ――と、早口になった。
    「そうか」
     ――と、ジークさんは穏やかに相槌を打つ。少し目を細めて微笑んでいるジークさんに、無条件に胸がほんわりと暖かくなる。……ほんとに、こんなに何でもない表情一つでドキドキさせる人だから大変だ。
    「急かしてしまってすまない」
    「え? そんなことはぜんぜん」
    「こうして同じ建物の中にいるというのに、ほんの少しの時間でもあなたの顔を見ることができないことに寂しさを覚えてしまった。私はもともと自分で思っていたよりもわがままな男だったらしい」
     どくん、とひとつ心臓が鳴った。あまりにも大きすぎて身体中隅々まで響いた気がした。体温も上がってる。さっきまで手に持っていたアイスの冷たさももう吹っ飛んだ。
    「イアン」
     そう、また、名前を呼んで、ジークさんはおれの返事を待っている、らしい。そうだ、会話のキャッチボールが必要だ。
     でもどう考えたっておれの頭の中と心臓が、それどころじゃない。顔も赤くなってるだろうし、ドキドキ言ってる心臓の音がどんどん大きくなってる。もうジークさんにも聞こえてしまうんじゃないかってぐらいで、返事どころじゃない。


    (了)
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