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    masasi9991

    @masasi9991

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    masasi9991

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    何かと戦っているエックスとゼロ先輩

    ##RMX
    ##ゼロクス

    TRAGEDY


     首が飛んでった。一つじゃない。いくつもだ。首だけじゃない。腕も足も胴も。一人じゃない。被害状況は? 考える暇はなく、情報も足りない。それはもはや俺の仕事じゃない。
     肉塊から吹き出した飛沫は混ざり合って一塊に路面に飛び散った。跳ね回る雫はどうせ全てひび割れたアスファルトの上へ落ち、やはり皆んな混ざって流れていく。
     薄暗い曇り空のビル街の隙間の時折雲間からちらつく昼間の光の反射する血液の表面の脂質様の虹色の光沢が未だ熱を持ち湯気を上げる、冬の市街に白い湯気を一種幻想じみた白さを、人血による霧が浮かび足元はぬかるむ、走れば血と肉が跳ね上がる、人混みを掻き分けながら、まだ生きている人々の群れを掻き分けながら、瞬時奪われていく命をセンサーに感じながら、命、悲鳴、首、体温、血液、呼気、言語、臓物、皮膚、眼球、衣服、排泄物、頭髪、飛んでく。両眼のカメラ・アイが曇る。
    「十三地区へ! 十三地区方面へ逃げてください!」
     カメラ・アイの曇ったレンズは瞬き一つでクリアになる。
     オペーレーターからの通信でリアルタイムに届く避難経路をそのまま口に出して叫ぶ。誰にも聞こえていない。上空に鳴り響くサイレンと悲鳴で俺の声は掻き消される。
     どこからか飛んでくるソニックブームに人々はなぎ倒される。首が飛ぶ。腕が飛ぶ。足が飛ぶ。
     咄嗟に一人、俺の手は一人の誰かの肩を掴んでいた。その身体を抱き込むように庇う。背に響く衝撃。アーマーが軋む。だがそのおかげで方角が掴めた。
     バスターの照準を合わせて狙い撃つ。姿は見えない。立ち並ぶビルの鏡のようなガラス窓にうまく偽装しているらしい、という情報は頭に入っている。撃つたびにガラス片が吹き飛ぶ。大穴が開く。手応えは、ない。が、唯一手に入れた手がかりに縋ってがむしゃらに撃つ。
     二発、三発、四発、乱れ撃つ間、あちらからの攻撃の手が緩んだ。
    「逃げたか!? 人が居ないところに誘導しないと!」
     間髪入れずに通信が入る。オペレーターも姿を見失っていた。逃亡先のサーチに入ると、言っていた。息をつく。
    「よかった。……ここは、まだ危険だ。遠くへ逃げないと」
     腕に抱いたままの人間へ向き直り、努めて、声を抑えて話しかける。
     子供だった。恐らく、子供だ。俺よりずっと小さい。空色のコートの裾から白い沢山のレースのついたドレスの裾がはためいている。銃撃の名残の振動に。
     俺の手が掴んだコートの肩の部分は、血と脂でべっとりと汚れている。
     そしてその顔に浮かんだ感情の意味は、恐怖というものだろう。
     俺のせいで。
    「エックス!」
     声だ! それと同時に、爆発音。至近距離! ソニックブーム!
     衝撃波は音速を越えている。
     だから俺が振り向いてバスターを構えたときにはもう、大気の切れ目が、破壊された市街地の背景を歪めて、カメラいっぱいに写り込んでいた。
     それでもバスターを撃つ。エネルギー弾と衝撃波が空中でぶつかり合い、軋む。互いに弾けあって消失する。
     ――近くに居る! どこだ?
     次の瞬間、風景の一部に金色の亀裂が走った。
     正確に言えばそれは金属質の金色ではなく、太陽光的な黄色だ。下から上へ切り上げられた半月状の軌道に分断された市街地の風景は、切り取られた断面から素早く融解し、次の瞬間にはひび割れた。
     鏡面体のモノリス。高さ二メートル幅一メートル半程度の薄い直方体の機械の身体は、粉々に砕けたガラス質の表皮の内側から無数の破片を飛び散らせた。
     その向こうに見慣れた姿……、レーザー光線によって形成されたセイバーを、その手に握った姿を、見つける。
     安堵に気が緩む。
    「ゼロ!」
    「まだだ、油断するな!」
     駆け寄ろうとした俺の耳に、再び爆発音が響いた。
     何度目だ? もう聞き飽きた、耳に木霊して聞き飽きた……その一撃は音速よりも疾い。
     だから聞こえてきたときには既に、遅いのだ。
     冬の市街地の景色が歪む。それはソニックブームによるものか、それともその一撃を放った別な鏡面体のモノリスそのもののせいなのか、俺のカメラ・アイでは瞬時に判断がつかない。
     なんにせよ、ともかく、既にその瞬間には、俺のカメラ・アイに映った市街地の風景の中心には、二つに分断された赤いボディがあった。
     首から上と首から下。
    「ぜ」
     思考が邪魔をして発声機が正常に動かせない。
     名前を、名前を呼ぶのが、今、正常な行動なのか、それはわからない。
     衝撃波は俺の鼻先を通過して消滅する。
     未だ敵がそこに居る。倒さなければいけない。
     ゼロは? ゼロの身体は、このくらいの破損なら、大事な部品が失われていなければ、修理できるはずだ。機械の身体だ。生きている。大丈夫だ。
     だがその首を、俺を庇って分断されたゼロの首を、早く拾わないと。割れたアスファルトの上の肉片と血液の溜まりに塗れる前に、拾い上げたい!
     なぜ? 修理の障害になるから、か? そんなも洗えばすぐに落ちる、大したことじゃない。俺が、守れなかった人間たちの血や脂肪は、大したことじゃ、ない?
    「エックス」
     全壊を免れたゼロの発声機が、ノイズ混じりの掠れた囁き声を出す。
    「迷うな……選べ……そこだ!」
     ゼロの破損した身体から吹き出したオイルが市街地の風景に色を付ける。鏡面体に映った人々の血の色とは違う。オイルの鈍い色が、風景の中に浮かんでいる。
     バスターを構えた。ゼロの身体が血溜まりの上に崩れ落ちた。腕の中に庇った子供が、火が付いたように泣き叫び始めた。オペレーターからの通信が入った。まだ街のあちこちで悲鳴が聞こえる。……それも全部、バスターから放つエネルギー弾の衝撃波と爆音に掻き消された。何度も繰り返し、繰り返し。

    (了)
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