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    masasi9991

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    初夏の土ガマ

    ##妖怪ウォッチ

    初夏


     暑い日が続いている。若い者らはやれ扇風機だくうらあだとすぐに得体のしれない道具に頼りたがるが、暑くはあっても暦の上では未だ初夏。そのようなものがなくともまだ我慢ができるはずではないか。さしあたって伝統的に庭に打ち水、窓には風鈴、団扇を持って、涼むべきであろう。
     昨年、遅い夏の終わり、いつまでも縁側の軒先へ吊るしてあった風鈴は、どこへ片付けただろうか。ふと考えてみると思い出せぬ。とはいえそこの戸棚の奥にでも、仕舞ってあるに違いない。
     もう昼近くになるというのに灯りも付けぬままでいる寝床がそろそろ蒸し暑くなってくる。縁側の障子越しに入る陽が、暑いのだ。寝床は薄暗いままなのだが。障子を開いて、風鈴を吊るすべきであろう。風がいくらか吹き込めば変わるはずだ。急に思い立って寝床を出る。
     這って、出る。出ようとする。しかし、畳の上まで抜け出たところで、もう動けない。
    「どこへ行くんだよ。このおれを差し置いて」
    「どこへも行かぬ。ここは吾輩の座敷だ」
    「嘘をつけ」
     と、珍しく……そう、案外これには珍しく、きかん坊のような駄々をこねる。
     寝床を出ていこうとした足首を何かに掴まれ、それはスルリスルリと伸びてきて、あっという間に吾輩の身体へ絡みつく。ヌルリと濡れてヒンヤリと冷たい。蛙の長い長い舌であり、髪でもある。
    「あちいな。まだ初夏とは思えねえ」
    「……故に、窓を開け風を入れようと思ったのだ」
    「今日は風なんか吹かねえよ。おれにゃあわかる。そんな気がする」
    「開けてみなければ外のことはわかるまい」
    「開けたところでカンカン照りで暑いだけさ。閉め切ってたって、暑いけどさ……。そっち行っていいかい」
    「一層、暑くなるな……」
    「そうさ、もう、また熱くなってきた」
     吾輩の身体に巻きつけた長い舌を、まるで手探りに確かめるように動かして、大ガマの本体が寝床から這って近づく。身体に巻き付いていた舌はいつの間にか暑く、熱を持っている。仰向けに横たわった吾輩の腹の上に、汗の滴る身体が跨った。
     その赤裸の肌は触れた始めはやはりヒンヤリ冷たい。汗に湿っている。しかしすぐにまた、まだ涼しい昨夜のそれと同じで、カッカと熱くなっていた。
    「暑いなァ。身体中滾ってんだ。のぼせちまった。てめえは、涼しい顔なんかしやがって」
    「お主のおかげで充分に暑い」
    「いいや、もっと熱い思いをさせてやる」


    【了】
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