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    masasi9991

    @masasi9991

    妖怪ウォッチとFLOとRMXとSideMなど
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    土蜘蛛さんと小さい大ガマさん

    ##妖怪ウォッチ

    手習い 箪笥の右側に扉がついている。鍵がかかっており、普段は開くことができない。その鍵穴を覗き込んでいる小さな背中がある。つま先立ちで、やけに危なっかしい。
    「これ」
    「ゲコッ」
     足音を殺して背後に近づき、肩をポンと叩くとそのままびっくり仰天、垂直に飛び上がるほどだった。
     しかし二足歩行はまだ慣れると見えて、垂直に立ったままではうまく跳ねるこおができなかったようだ。
    「そう驚くことはなかろう。盗人が盗みを見咎められたからといって逐一驚くようでは仕事にならぬであろうし」
    「盗人じゃねえよ。ただ中身がちょっと気になっただけだ」
    「金目のものは入っておらぬ」
    「そのくらいは考えりゃわかる。土蜘蛛が鍵をかけてまで隠しているのが財布の中身なんてなら、はっきり言ってがっかりだ。見損なっちまうぜ」
    「ふっ、そうか。ではこの中身は何なのだ?」
    「おれは知らねえよ。だから中が気になるんだ」
    「謎謎だ。当たればそうだな……一つ分けてやろう」
    「本当か? でも土蜘蛛がすんなり分けてくれるって言うんなら、どうせたいしたもんじゃなさそうだ」
    「よう憎まれ口ばかりスラスラと出てくるな。言葉を教えたのは間違いだったやもしれぬ」
    「おれはあんたに会う前から人の言葉くらい知っていたさ。ただそれで話す相手がいなかっただけだ」
    「そうかそうか、そういうことにしておこう。ところで箪笥の中身は、どうした」
    「どうしたもこうしたも土蜘蛛が教えてくれねえからなにもわかりゃしねえ。あいや待てよ、土蜘蛛が鍵をかけて大事にしまっていて、一つ分けられるものだろう。そいつはきっと羊羹だ」
    「ほう」
    「根拠はそれだけじゃねえ。ときどきこの座敷に客人が来るだろう。そういうときおれは決まって座敷を締め出されるけど、いつも不思議に思っていたことがあるんだ。それは台所から女が持ってくる皿の行方だ。下女はいつも客とあんたにお茶とまんじゅうか羊羹を運んでくる。しかし客が帰っていって下女が茶と盆を下げるとき、湯呑は二つ、皿は一つになっているんだ。おれはずっと土蜘蛛の客はいつも皿までばりばり食うたぐいの妖怪なのか、それともそもそも茶菓子の皿は食べたり、食べなかったりするものなのか、どちらなのかと頭を悩ませていた。しかしいまわかったぜ、一皿の羊羹かまんじゅうは客が食べ残して、土蜘蛛がそれを箪笥の中に大事にしまっているんだ。あとからこっそり取り出して食べているに違いねえ。そしてこっそりかくすなら羊羹の方だ。まんじゅうは固くなっちまうからな。どうだ?」
    「どうだもなにも……お主、口から生まれたのではないか? ようも、そうゲコゲコ、ゲコゲコと……」
    「いまはちゃんと土蜘蛛にもわかるように人の言葉で説明してやったつもりだ」
     ムッとして不機嫌に眉間にしわを寄せる。といってもまだ幼くつるんとした丸い顔で、しかめた顔は様にはならない。
    「さて、では本当の箪笥の中身は……」
    「羊羹だろ? 甘いものはすきでもきらいでもないけど、くれるっていうのならもらってやるぜ。さあ早くしろ」
    「羊羹ではない」
    「なにっ。そんなわけねえ!」
    「お主そんなに羊羹が食べたかったのか?」
    「そりゃ食べようと決めたときにそいつを取り上げられちゃ、たまったもんじゃねえ。別にそれが特段に好物というわけでなくてもだ。それに羊羹じゃないなら、消えた皿の行方はどうなっているんだ」
    「それはそう難しい問題ではない。菓子が乗せられていた小皿は、食べ終わったあとには二枚重ねて運ばれたのだ。お主はそう小さいから、下女の運ぶ盆の中身がきちんと見えていないだけであろう」
    「そうかな? おれがそんな見間違い、何度もするわけはねえけどな。言うほど小さくはねえんだぜ」
    「こんど背丈を図ってやろう。それにしても謎謎の答えは他に思いつかぬのか? このままではお主の負けだ」
    「羊羹じゃないなら負けだ。でも負けてもおれが損することたぁない。だからいくらでも負けてやるぜ」
    「そうか、残念だ。ではお主にはこれをやろう」
    「うん?」
     大ガマは首を傾げ、吾輩の顔を見上げた。そのまま、吾輩が懐から取り出したる鍵の行方をじっと見つめる。どこにでもある鉄砲錠だ。鍵を失っても、仕組みさえわかれば開けるのにそう苦労はしない。要するに、これがもう少し知恵をつければ、箪笥の前で首をひねる必要もなかっただろう。興味を示したまではよかったが、まだ早かったか。
    「ほうれ、一つと言わず二つ三つくれてやる。手習草紙だ」
    「なんだこれ? 本か! ……あれ? なんだ? めくれどめくれど、なんにも書いちゃいないじゃあねぇか」
    「これに字を書く練習をするのだ」
    「誰が?」
    「お主の他に居るまい。お主は口は達者で文字も読める。しかし書くことはできない。文字を書きたいと思ったことはないか?」
     蛙のまん丸い大きな目がパチクリ、パチクリ。手渡した草紙の束を胸に抱えて、あちらこちらを眺めていたが、すぐに真っ赤な顔でニンマリと笑った。
    「返せと言われたって返さないぜ」
    「よいよい。お主が利口になれば今よりは手がかからぬようになるだろう」
    「ゲコゲコっ」
     高く笑ってピョンと跳ね、二本足で嵐のように座敷を飛び出していった。が、かと思うとすぐにトタンバタンとしながら戻ってきた。
    「墨と筆もくれ!」
    「ああしまった。そのことを忘れておった。そのうち買ってくるから、そこの机で書くがいい」
    「あとあと、墨が磨れねえ」
    「そのぐらい見様見真似でできようが……」
    「手が汚れそうで嫌なんだ」
    「駄駄が多い」
     少しの思いつきでこの騒がしい子蛙をつけあがらせてしまった。しかし胸に草紙の束を抱えたまま目を輝かせているのを見るに、煩わしいとは決して思われない。


    【了】
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