お祭りの朝「デグダス、おはよう」
「んがっ?」
朝だ! グランツの声だ! ワッと目を開くと、朝日が眩しい。おれの顔を覗き込むグランツの肌と瞳がキラキラしている。
「朝なのか?」
「そうだぜ。あはっ、まだ寝足りないかい?」
「いや、とってもすっきりとした目覚めだ。今日もぐっすり眠ることができたようだ!」
「それはよかった」
グランツの笑顔は今日もピカピカだ。朝日の眩しさにも全く負けていない。そんな笑顔を一日の始まりから見ることができて、おれはなんて幸せ者なのだろうか。
「でもなんだかまだ夢の中みたいなぼんやりした顔をしていないか?」
「ン、実は」
グランツがさらにおれに顔を近づけると、昼間と違って結んでいない髪がサラリサラリとおれの顔に流れてかかる。おれの頬にこしょこしょ、と。
「むっはっは」
「はははっ。すまない、くすぐったかったな」
おれが笑うとグランツも笑って、髪を少しかきあげ耳にかけた。サラサラ、キラキラのグランツの髪をだ。それだけで幻想的に見える。
「夢の続きかと思った」
「今が?」
「そうだ。ぐっすり気持ちよく寝ていたところにおまえがやってきて、しかも見たこともない服を着ている!」
「あ、こ、これか?」
「初めて見る服だ! いったいどうしたんだ?」
ベッドの横からおれの顔を覗き込んでいたグランツは、白いフワフワなレースの付いた胸元に手を当てて、少し恥ずかしそうにはにかんだ。
「今日のお祭りの仮装さ。昨日の夜はロッタナたちの衣装の準備で忙しかったから、今朝になって自分の分を忘れてたことに気がついて、さっき慌てて……。どうだろう? 変じゃないかな」
グランツはそう言いながらベッドから一歩離れて、その服を見せてくれているかのようにその場でくるりと回った。ひらひらの裾がふんわりと揺れる。
「普段着ないような服だからさ」
と言って照れながらだ。
おれは慌ててベッドから飛び起きて、グランツを両手で……捕まえた!
「似合っている! あんまり似合っているから夢でも見てるのかと思ったぐらいだ!」
「んっ……ふふっ。そうか? キミがそう言うのなら……ふっ、あはは。自信が出てきた」
「とんでもなく似合っている! ……が、これで本当にお祭りに行くのか?」
「そのつもり、だったけど」
「それはダメだ! 似合いすぎているからいけない! そのう、おれがここに閉じ込めたくなっちゃうからな」
「んんん、キミに閉じ込められるなら願ったり叶ったりなんだが」
「まだ誰にも見られていないよな?」
「ああ。さっきキミを起こす前にそこで着替えただけだ」
「……ホッ。ああよかった。グランツ、お祭りに着ていくのは絶対別なオバケにしよう。絶対に」
「あっはっはっは。仮装はお化けじゃなくたっていいんだぜ。……うん。でもキミがそう言うなら、別な仮装にしよう。キミの衣装も一緒に決めたいし」
「わかってくれて本当によかった。実に危ないところだった……」
「あははは」
おれの腕の中でケラケラ笑うグランツは夢で見たよりもずっとピカピカだ。それだけに全く本当にこのままでは危ないところだった。