カワキからLINEで会えないと送られてきた

"悪い、会えねぇ"

簡潔すぎて彼らしいといえば彼らしいのだが、内心ではどうしてと焦ってすぐに既読をつけてしまう

"わかった"

とだけ返事をし、じゃあ次はと打ちそうになって指を止めた

次があるのか、と頭が考える
心はすぐにでも会いたいと答えるのに、素直に打つことができない

もう会わない、そういう意味だとしたら…

「………」

LINEで関係を終わらせるような相手ではないと、わかっているのに…

きっと今日は都合が悪くなっただけで、すぐに次の約束が入るはずだ
簡潔だが彼の返信は早い

しかし、いくら待ってみても、彼から返信が送られてくることはなかった







しつこく鳴るチャイムの音に、俺はようやく重い瞼を開けた
出たくはなかったがあまりにもしつこいので一言怒鳴ってやろうと玄関のドアを開ける

「……っ…」

数回瞬きを繰り返し、死ぬほど会いたくてしかたがなかった彼の幻覚でも見ているのかと思った

しかし消えないということは、おそらく本人で…

「………」

何故と問いたかったが、如何せん声が出せない
驚きからじゃない
喉が一時的な炎症を起こしていて、声帯にも影響を与えているからだ

「……………風邪かよ」

たっぷりと間をおいてから、会えないと伝えておいたはずの彼は、はぁ…と息を吐いた

そう、ただの風邪
ただの風邪如きで会えないとは言いづらく、しかし彼にうつすわけにもいかないと思い、ただ会えないとだけ送った
そのあとは薬が効いたのだろう
LINEを送ってからその後の記憶がない
目の前の彼の様子から、自分は相当な時間眠っていたようだ

一度も起きることなく

今、何時だ…？

あたりはもうすっかり暗くなり、外の雑音も耳に入ってはこない
彼はどれだけこの部屋のチャイムを鳴らし続けていたのだろう
一度眠るとなかなか起きられない自分の悪癖にこれほど後悔したことはない

「………いるじゃねぇかよ」

目の前の彼が珍しい表情をしている
唇の先を少しだけ尖らせて、不機嫌そうに

いつもは余裕のある大人の表情で、こんな関係でも平然と受け入れてくれている彼だが
今は少しだけ、機嫌が悪いらしい

…少しは期待してもいいのだろうか
会えなかったから、機嫌を損ねているのだと

「………中、入れろよ」

じっと見つめられ、許可を求められる
普段であれば彼の申し出を断るという選択肢はない
だが

「…………」

無言で首を横に振った
そもそも彼にうつしたくなくてLINEを送ったのだ
今彼を中に入れてしまえば確実に風邪をうつしてしまう

俺が思っていることは伝わっているようだが、顔は納得していない

どころか一歩前に踏み出して

「……ッ」

マクスを素早くずらされ唇を奪われた

誰かに見られる、という意識よりも、彼からされたことの方が衝撃で

「……これでもううつったから、入れないなんて言うなよ」

と、後ろ手でドアを閉められ、言葉まで奪われた



なんてことしてくれてんだアンタ

これじゃあ一向に熱なんて下がらない