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    梨 末

    @03smmms1006

    壁打ち。

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    梨 末

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    剣伊。眠れない伊織と家に帰りたくないセイバー①
    お題「不眠」「AM2:00」
    制限時間+4h
    現代パロ。夜散歩していたらセイバー(初対面)を見掛けたので部屋に連れてきた話(語弊のある説明)
    ツンツンセイバーが書きたかった。

    #剣伊ワンドロワンライ

    #剣伊
    Fate/Samurai Remnant saber×Miyamoto Iori
    #剣伊ワンドロワンライ

    ①深夜、背中合わせ、マイナス距離 暗く、昏いどんよりとした灰色が天を覆っていた。
     空は厚く雲に包まれ、何も見えず、星の一つすら見つからない。

     ――ならば、今宵の月は何処に在るのだろう?









     当てもなく動かしていた足が止まる。気配を感じて視線が向いた先はとある公園だった。
     そこは町中に数ヶ所ある中では二番目に大きい公園で、子供が十人は入れそうな広い砂場、高さの違う数種の鉄棒や動物の形をしたすべり台などの遊具などが多数配置されてきる。
     その遊具の中の一つ、日付も変わって久しい時間であるというのにゆらゆらとブランコが揺れていた。原因は風でも怪奇現象ではなく、人為的なものだ。
     深夜の公園に一人の子供がブランコに座っている。
     子供と云うにはそこまで幼く無く、見た所中学生くらいだろうか。長く伸びた髪を首の辺りで一つに纏め、垂らしている。
     一見、女にも男にも見える中性的な顔つきをしている子供は何をする訳でもなくじっと無表情で空を眺め、時折足を浮かせては手持ち無沙汰に揺らしていた。
     家出だろうか、もしくは迷子かもしれない。
     由がなんであれこんな場所にいるのは良くないだろう。
     ここ最近は聞いていないが、一ヶ月前にはボヤ騒ぎがあった。それから警察や地域の人間の見回りが強化されているとはいえ、治安はあまり良いとは云えない。深夜に一人でいる子供を見掛けたのに見て見ぬ振りをするというのは良くない。悪しき事だろう。
     そう結論付けた伊織は迷わずにその子供の下へと歩み寄った。

    「こんな遅くに一人でいるのは危ないぞ、もう家に帰った方が良いんじゃないか?」
     伊織が発した声は静かな夜の空気を揺らした。
     それは水面に投げ入れられた小石のよう。投げられた小石は静かに波紋を描き、波を立て、凪いでいた表情をくしゃりと歪めた。
    「まさか、私に話し掛けているのか?……きみは私の従者が何かか?」
    「いや、違うな」
    「なら私が返す言の葉はこうだ。きみには関係ない、放っておけ」
     不愉快だと見るからに表しながら伊織の言の葉は容赦なく突き返される。が、突慳貪にされても伊織は動じなかった。
     それはそうだろう、他人からの言の葉など聞く由がない。そして、それは伊織にも当てはまる。
    「もうすぐ雨が降る、此処にいては風邪を引いてしまうぞ」
    「きみ、私の話を聞いていたか?」
    「行く当てがないなら俺の部屋に来ると良い」
    「…………………は?」
     呆気に取られ沈黙が生まれる。無音になった二人の間をぽたりと音もなく小さな雨粒が通り過ぎた。





    ****





     どうにか本降りになる前に部屋に招き入れると、子供は信じられないといった表情で部屋を眺めた。
    「ここは本当に家なのか? 物置か何かではなく?」
    「そうだ」
    「……迎えの者すらいないとは」
    「高貴な身分の方々と違って俺は一般市民だからな。これくらいで丁度いい」
     伊織からそう説明されても実感が沸かないのか、半信半疑な様子で視線を右往左往させながらソファかと思ったのかベッドに腰を下ろした。
     どうやらこの子供は普通ではないらしい。
     言の葉の端々から察するに町中によくいる普通の子供とは違い、地位が高いようだ。
     よく見れば髪には艶があるし、服もシンプルながら質が高そうな物を着込んでいる。だとすれば、伊織のような一般学生の暮らしはとても珍しく見えるのは当然だろう。狭いというが、伊織からすれば広すぎる部屋というのもそれはそれで管理が大変だ。手が届く範囲の暮らしが身にあっている。
     そう思いながら適当に床に座ると暇つぶしの為に本を取り出した。読み始めて暫くしてから、ずっと感じていた視線に本から目を上げるとぶすっとした表情の子供と八合わせる。
    「先に云っておくが、変なことは考えるなよ。手を出そうものなら腕の一本は覚悟しておけ」
    「……」
    「なんだ? 驚いて声も出ないのか。私が何も考えずノコノコついてきたと思ったら大間違いだぞ、“ミヤモト”」
     得意げに名字を呼ばれて納得する。そういえば自己紹介もしていなかった。今夜は突然の行動が多くなって、至らぬところが多いなと反省するばかりだ。
    「ああ。俺の名は宮本伊織だ。名乗りが遅れてすまなかったな」
    「……驚かないのか?」
    「表札を見たんだろう。しっかりしていて偉いな」
    「こ、子供扱いするな!」
     褒められて思うところがあったのか、少し顔を赤くしながら子供は怒った。不機嫌そうな態度が目立つがそういった表情の方が似合っているなと伊織は思った。今宵限りの縁だが、自己紹介を交わせば少しは相互理解に繋がるかもしれない。
    「貴殿の名を聞いても?」
    「…………セイバーだ」
    「本名、ではなさそうだな」
    「当たり前だ! 誰が不審者に名を教えるか!」
    「不審者……そうか、その通りだな。確かにその可能性は考えていなかった」
     罵られて、そういえばそうだったなとぼんやり自覚する。
     深夜に見知らぬ人間を自身の部屋に連れ込むなど誘拐と勘違いされてもおかしくない。子供の警戒は至って当たり前のものだ。ならば、こちらには害意がないと示すべきだろう。
    「俺は貴殿に何もする気はない」
    「嘘を云うな! なら何故連れてきた」
    「あのまま彼処にいては雨に濡れていただろう。家に帰る気がないのなら、屋根のある場所にいたほうが良いと思ったからだ」
    「……そんな言い訳を信じろと?」
    「言い訳も何も事実だが」
    「……まさか善意で助けた、などと云うつもりじゃ無いだろうな」
    「だからそうだと云っているだろう」
     そう何度か伝えても、子供もといセイバーは身を固くするばかりだった。さながら毛を逆立てる猫のようだなと思いながらも、セイバーを部屋に招き入れたのに含みがあるのは否定できない。
    「そうだな、確かにそれ以外にも由がある」
    「やはり悪意があるではないか!」
    「あまり使ってやらないと、寝具に申し訳ないなと思ってな」
    「……どういう意味だ?」
    「そのままの意味だが?」
     訳が解らないとセイバーは怪訝そうな表情を浮かべる。何故だろうか、伊織は事実のみを話しているのに話が噛み合わない。まだ意識ははっきりしているし、思考も正確だ。可笑しな所は無い筈なのに。育った環境が違うからだろうか。理解しようと物思いに耽ようとすると、セイバーが渋々といった様子で尋ねてきた。
    「一応聞くが、君はどこで寝るんだ? まさか床で寝るなどとは云うまいな」
    「今晩は本を読んで過ごす、俺のことは気にしなくて良い」
    「まさか、寝ないつもりか」
    「いつもの事だ、気にするな」
    「そう云って私が寝た所で寝首を掻く算段だな!」
    「何故そうなる?」
    「絶対に貴様の思う通りにはならないからな」
     今にも食って掛かりそうな態度でセイバーが叫ぶように宣言する。その様子にどうしたものかと考えるが、すぐには解決策が浮かばなかったので好きにさせておく事にした。
    (まあ、なるようになるだろう)
     何せこの子供とは今夜限りの縁だ。
     明日になれば雨は止み、子供は部屋を出ていく。偶然起きた出来事にそこまで思考を割く必要はないだろう。
    (……それに、俺とは話したくないようだしな)
     警戒させっぱなしは辛いだろう。言の葉を交わすことでセイバーの精神が削られてしまうのは本意ではない。何もない部屋ではあるが好きに使ってくれれば、それでいい。
     ほどなく会話が途切れ、することがなくなったセイバーはベッドに寝転がると、寝返りを打ってから居心地が悪そうに天井を睨みつけた。
    「……布団が硬い、部屋が狭い、天井が低い」
    「文句があるなら家に帰ると良い」
    「……嫌だ」
    「なら、雨が止むまで此処に居るしか無いな」
    「……ぶー」
     頬を含ませて不満を表すセイバーを横目に伊織は本を読み進める。声のトーンから見るに幾分か警戒心は薄れたように見える。ここは変に横槍を入れずに放っておくのが良いだろう。そもそもセイバーは雨風を凌ぐ為に此処に来たのだから自然体でいられるならそれがいい。
    (…………)
     寧ろ、慣れないのは伊織かもしれない。近くに他人の気配があるせいか、いつもより本の内容が頭に入ってこない。一瞬、視界が歪んだように見えて頭を振った。気を保とうとするがすぐに調子は戻りそうになかった。


    「なあ。きみ、いつから寝てないんだ?」
     ふと落ちてきた問いかけにはっとする。声の方を見ればベッドに寝そべったままのセイバーが静かな目で此方を見ていた。
     今までの騒がしい態度とは違って、澄んだ水面のような此方を見透かすような目をしていた。
     まさか、気付かれるとは思っても見なかった。
     今まで誰にも気づかれたことがなかったと云うのに、会って数時間の人間に指摘されるとは思わなかった。
     背中を伝う汗を無視し、動揺を隠しながら視線を横にやって飾ってあるカレンダーを確認する。そこにはほぼ空白で詳しい予定は書かれていないが、数日を空けて何箇所かに印が付けられ、今度の週末には来院日の時間だけが記されている。
    「一昨日だな」
     二日前に付けられた印を元に返事をすると、驚いたように目を見開いたセイバーは勢いよく起き上がった。
    「はあっ 正気か! 真に寝るべきはきみじゃないか!」
    「別に普通だ」
    「どこが普通だ馬鹿者! いいから寝ろ」







    「はぁー、なんで私がこんな目に遭わなくてはならないんだ」
    「……俺がどけば解決すると思うのだが」
    「煩い、寝ていろと云っているだろうが!」
     起き上がろうとするが、後ろから背中越しに聞こえる声に仕方なく体を元の位置に戻す。
     色々あった結果、伊織とセイバーは一つのベッドを分け合い、背中合わせで寝ている。
     今いる場所は狭く、少し動くだけで後ろにいるセイバーにぶつかってしまう。一人用のものを二人で使うなんて無理だと訴えてもセイバーは聞く耳を持たない。いいから動くなと云われてしまえば、じっと身を縮めているしか選択肢が残っていなかった。
    (……カヤを、思い出すな)
    こうやって叱られていると妹の姿が浮かんでくる。どこか抜けているところがあるとカヤにはよく叱咤され、心配されたものだ。
    「カヤ? 誰だそれは」
     いつの間にか声に出してしまっていたらしい。不思議そうに尋ねる声が後ろから飛んできた。家族の名前だと説明すると意外そうな声が返ってきた。
    「きみ、妹がいたのか」
    「カヤはよくできた妹でな、俺には勿体ないくらいだよ」
    「……ふーん」
    「カヤは活発で小さい頃はよく迷子になってな、突然走り出しては居なくなった妹を探して、迎えに行くのが常だった。ああ、丁度セイバーくらいの年頃だ」
    「待て……まさかと思うが、私が妹に似ていたから助けたとでも云うつもりじゃないだろうな」
    「……解るのか?」
    「わからいでかーー」
    「まて、痛っ、肘をぶつけるな! いたい!」
    「痛くしているのだ大馬鹿者め」
     ドスドスと音が聞こえそうな強い肘鉄が背中に刺さる。遠慮など知らない力任せの暴力に伊織は為す術無く、身を縮めて耐えるしか無かった。
     数回ぶつけた後、セイバーの気が済んだのか肘鉄が終わる。腕を伸ばしてぶつけられた箇所を擦って痛みを受け流しながら、伊織はふと思った。
    (……そういえば、こんな風に誰かと話したのはいつ以来だったろうか)
     そう自覚した時、無意識に入っていたの肩の力が抜けた気がした。






    「全く、きみは失礼な奴だな! ……どうした?」
     満足するまで肘鉄をしていたセイバーは先程までと違って静まり返っている様子に気付く。声掛けに返答はなく、外からの雨音が聞こえる程の静寂に、思わず上半身を起こす。振り返ってみると伊織の瞼が閉ざされていた。まさか。
    「きゃ、客人より先に寝る奴があるかー 私が悪い奴だったらどうするつもりだ! 部屋を荒らされて、金目の物を盗まれているぞ、勿論私はしないが!!」
     しないが、寝て良い訳ではないぞ! と訴えながら肩を掴んで揺するが、伊織はなされるがままで反応はない。あまりの動かなさにやりすぎたのかと、顔を青くしながら呼吸を確認する。細いが呼吸はある。胸部も上下している。生きていると確認すると安心すると共にどっと疲れが出てきた。
    「あーもー、知らん」
     全てが面倒になって、再びベッドに倒れ込む。
    そもそも屋敷を飛び出した後は、当てもなく歩き続けていたから疲れていたのだ。あの公園で一晩明かすつもりだったのに此奴のせいで予定が狂ってしまった。
    (まあ、雨に濡れずに済んだのは……感謝してやっても良い)
    「でも、絶対に礼は言わないからな!」
     思わず叫んでから伊織は気にしなそうだと予想がついて無性に腹が立った。もうやめよう。眠いからまともな判断が‘できていないんだ。どうせ此奴とは今日限りの付き合いだ。気にする必要はない。
     つまり、なるようになれだ! と自棄糞のように目を閉じた。

     未だ雨は止まず、降り続いている。雨は子守唄のように音を奏で、背中合わせの二人を包んでいた。



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