敢えて解かない糸 まどろみの中で些細な違和感を感じ、意識が浮上する。
まだ寝ていたいと重たさを残す瞼に抗いながら目を開ければ、伊織のすぐ目の前にはすうすうと静かに寝息をたてるセイバーがいた。
いつもならば気になるものを見つけるときらきらと目を輝かせて即座に走り出す元気の良い姿も、「イオリ!」とこちらの名を呼びながら嬉しそうに声を弾ませる姿も今はなく、ただ体を休めるために眠りについている。
どうやらいつもよりも早い時刻に目が覚めてしまったらしい。横にいるセイバーはとても心地よさそうに安心しきった顔で眠っていて、伊織が起こさなければいつまでも眠っていそうだ。
この様子ならセイバーは暫くは起きないだろう。伊織としても特に急ぎの用がある訳でもないし、今の状態では睡眠が足りておらず、体調は万全ではない。もう少し休みを取りたいからこのまま再度寝てしまおうかと未だにはっきりとはしないまどろみの中で通常とは正反対の物静かなセイバーをぼんやりと眺めていると頬に違和感を覚えた。
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