霜焼け注意⚠️おニューのスノーシューズでギュムッ、ギュムッと地面を踏みしめる。パッと見こ洒落たスニーカーだが撥水性があるうえに靴底の凹凸が滑り止めとしてきちんと機能しており、なかなかいい感じだ。瞬歩を使えば転ぶこともなくあっと言う間に家までたどり着くのだが、雪の風情を味わいたかったのと、せっかく買った靴の履き心地も確かめたかった。オシャレは豊かさの象徴であり、日々のちょっとしたそのひと手間こそが人生に彩りを与えるというのが真子の持論だ。要するに雪の日には雪の日なりのファッションをすることで少しでも気分を上げたいのだった。ちなみに雨の日はだるいのでしばしば瞬歩で帰る。

車のタイヤに理不尽な圧力をかけられ灰色に汚れた道路の雪の、その上から真新しい粉雪がまた降り積もっては薄く毛羽立っている。住宅街に連なる家々のブロック塀の上やら植え込みなど、人の足を踏み入れられることがない場所にはまっさらな雪が綺麗に積もり続けていて、植物の葉や枝がその重力と冷たさに身を縮こまらせている。辺り一面がしんとしていて、たまには雪もオツでええもんやなァなんて思いながら鼻歌まじりにお気に入りの深緑の長傘を軽く回したりしてみる。

ざまんざい（仮）規則正しく停めてあった自転車たちがガシャガシャと音を立てて将棋倒しになってゆくのを見て、ひよ里は閉口した。目の前の男が、何やら言葉になっていない怒声を上げながら蹴り倒したのだった。
ネタ合わせという名の一方的な罵詈雑言の最中の突然の奇行に、ただただ呆然とするしかなかった。自分は散々人に怒鳴り散らすくせにいざ反撃に遭うとその瞬間フリーズしてしまう、この上なく小物なひよ里だった。先刻まで散々男に向かって飛び出していた口撃はすっかりなりを潜めている。

「やってられるか、こんなこと」

目のすわった男が吐き捨てたその言葉に頭が警鐘を鳴らすが上手く反応できず、相変わらず言葉も出てこない。

普段よく回る口がパクパクと開閉し浅い呼吸を繰り返している間に、そこかしこに倒れた誰のものだかわからない自転車が、こちら目掛けて次々と飛んでくる。勝気なひよ里も、あまりの光景に何もできない。目を見開いてそれらを避けることに精一杯だ。