小さい子供 vs 北のミミ「僕、大きくなったらアキラと結婚する!」
無垢で純粋な子供の瞳が晶を射抜く。まさか、手を握られて薬指にキス、そしてプロポーズをされてしまうだなんて誰が想像しただろう。
小さな男の子、アリーのプロポーズに晶が顔を染めた瞬間だった。
「………はぁ?」
不機嫌さを顕にさせた赤髪の魔法使い、ミスラの声が響いた。
□
アリーは晶が任務先で出会った男の子。両親共に忙しく働くアリーの家。寂しい想いをしているアリーに寄り添い、傍にいたのは晶で。アリーは晶が大好きになった。もう結婚したいくらいに。
……小さな男の子の初恋だった。
そして話は冒頭に戻る。
晶へ向けられたプロポーズに不満を見せたのはミスラである。自分の賢者が取られるのはムカムカする。自分以外の誰かが晶と生涯を過ごす姿を連想して、無性にイラついたのだ。晶を子供なんかに取られたくないと思った。
「あなた、俺の晶を取ろうだなんていい度胸ですね。死にたいんですか」
「ふん!ミスラなんて怖くないからな!晶は僕のものだ!」
「はぁぁ?人間の子供如きが生意気だな。晶は俺のものです」
僕のだ!俺のです。僕の!俺のですけど。
晶を挟んで取り合いを勃発させる北の魔法使いミスラと小さな子供。挟まれた晶は心臓がバクバクしていた。まさか自分が挟まれる対象になるだなんて、夢にも思わないのだから。昔、漫画で見た三角関係の漫画を思い出していた。
「アキラは僕の事を格好良いって言ってたし」
「はぁ、晶は俺の方が強くて格好良い、そして可愛いって言ってましたよ。」
「アキラの荷物を持ってあげた時、僕の事を力持ちって言ってくれたし」
「俺の方が力持ちですけど。晶をいつでも抱き上げられますし」
「うわっ…!み、ミスラ!」
2人の間にいた晶を軽々持ち上げたミスラ。ふふん、と効果音がなりそうなほどにご機嫌だ。
アリーはミスラの足をグーで殴っている。北の魔法使いミスラに対して何とも勇気のある子だと晶はひとりごちた。
そんな時、爆弾発言をしたのはアリーだった。
「うっ…僕は!僕はアキラとキスしたことあるもんね!口と口でちゅーって!」
「えっ!?いつですか!?記憶にない!」
「アキラが寝てる時!」
「もう!アリー!それはノーカン!」
「のーかん?」
2人がそんな会話を繰り広げている時だった。分かりやすいほどに機嫌が悪くなったミスラ。冷気が漂うほどのオーラだ。
へぇ、ふぅん…キスですか………はぁ?
「……ムカつくな、」
「俺の方が凄いやつをしてやりますよ」
その瞬間、
ミスラは晶の腰に腕をがっちりと回す。くい、と顎を持ち上げれば、晶の唇に勢いよく噛み付いた。
「…えっ!?みす…んッ、っあ、う…ん」
ミスラはアリーに見せつけるように、わざと水音を立てる。ぴちゃ、くちゅ…じゅる….
晶の口の中をミスラの舌が舐めとるように動いている。アリーは思わず両手で顔を塞いだ。
晶の甘い声と水音がアリーの耳にはしっかりとこびりついてしまう。子供には刺激が強すぎるキス。それは濃厚な大人のキスだった。
さすがの長いキスに晶はミスラの胸板をバシバシと叩く。ミスラが唇を離せば、つぅ…と糸が引いた。ぺろん、と舐めとるミスラは上機嫌である。アリーを横目に鼻を鳴らした。
「俺の方が晶に凄いキスが出来ます」
「な、な、ミスラ!何してるんですか!?」
「はぁ、キスですけど。知らないんですか?」
「知ってますけど!?」
もう、どうして!ミスラ!
わなわなと震える晶の顔は真っ赤だ。頭が混乱して沸騰しそうだ。ちら、と横にいるアリーに視線を向ければ、彼も顔を赤くしていた。
「な、なんか下半身いたい…」
「貴方も晶で勃起するんですか?俺もしますけどね。俺の方が回数も上です。」
「は、…っえ!?…ええええ!?」
「うるさ…。」
「な、え?そんなの…」
ここでも張り合うミスラに晶はもう逃げ出したくて仕方がなかった。いや、もう逃げた。その場から走って走って走った。
暫くはミスラの顔が見れそうにない。
だって、そんなの。そんなの。
晶はミスラの事が好きなのだから。
そんな事を言われたら……期待してしまう。
「ちょっと、なんで逃げるんです!」
「アキラ!待って!」
ミスラの声もアリーの声も晶はもう聞こえない。それくらい混乱して、頭が沸騰しそうだったから。今はただ只管に走った。
まぁ、そんな事をしても世界で二番目に強い魔法使いには適うはずもない。晶はあっさりと捕まって、彼の部屋へ連行されてしまう運命にあるのだ。
□
「子供は魔法で帰しました。腹が立つので」
腹が立つと言いながらも、ちゃんと家までアルシムするのがミスラの優しい所だな…なんて晶は思う。ミスラは存外優しいのだ。
空間移動で晶の部屋に現れたミスラ。
さっきの話が過った晶はミスラの顔がしっかり見ることが出来なくて、目を逸らした。逆に合わせられるなら、方法を知りたいくらいだ。
「ちょっと、何で目を合わせないんですか。はぁ、貴方に逃げられるのは気分が悪いな」
「ぎゃあ!み、ミスラ〜…っ」
ミスラは晶を抱き締めると、頬を掴む。強制的にミスラの常盤色と目がバッチリと合う体勢に、晶は心臓がバクバクした。
「さっき言ったこと、嘘じゃありません」
「さっき…って、」
「晶を見ていると、ぼっk「うあああ!」うるさ…」
そのワードを口にするミスラを遮るように、叫んだ晶は頬を真っ赤にさせた。晶だって男なのだから知っている。でもまさか…まさか濡れた色気を放って、美の塊なミスラが自分に欲情するだなんて…。
(嬉しい、と思ってしまうだなんて)
ミスラは晶の唇に甘くて優しいキスをする。角度を変えて何度も、何度も。甘噛みをされたり、唇を舐められたり…。ミスラは晶を味わっていた。
「体が反応するくらいなんですから、あんな子供よりも俺の方が貴方の事を想ってるってことじゃないですか?俺は…人間に欲情するなんて初めてなので。」
ぐり、とお腹に当たるソレ。
ミスラの熱が伝わって、晶はもうキャパオーバーだ。熱烈すぎるミスラからの好意に、晶自身も熱くなり始めている。
「俺の方が貴方を抱き締める事も、キスをすることも出来る。……気持ちよくしてやれます」
ねぇ、晶。
俺の方が強くて格好良くて可愛いです。
俺を選んで、あきら
宝石のような瞳に見つめられたら、晶は逃げられない。その熱を受け止めるしかないのだ。
対抗心が、独占欲が強い北の魔法使いからの愛を。