正気の沙汰じゃねェ!!! はぁ、はぁ……と息を切らすは空の上。
既に夜も更けて闇空の中、月明かりだけが穏やかに辺りを照らしていた。
最近は暖かくなってきたと言えど、矢張り夜はまだ少し肌寒い。黒い外套を身に寄せて、漸くひとつ息を吐いた。
「はぁ、……ここまで来れば、流石にあの糞鯖も来れねェだろ……」
俺の身体を蝕むのは体力どうこうよりも、精神的な疲弊だった。
如何して俺がこんな目に……
そう項垂れながらも、ふつふつと感じるのは確かな怒り。
俺の災難の原因は九分九厘、彼奴に決まっていた。そして今回も例に漏れず、話は数分前に遡る――
*
数日に掛けて混み合っていた仕事が漸く落ち着き、日付が変わると同時に帰路に着いた。
明日は久々の休日。流石に疲労も溜まっていたが、気持ちは少し軽やかだ。夜食と共に葡萄酒も開けてしまおうか。明日は買い物に行って、掃除もして……と充実した休日を想像し、自然と鼻歌が溢れる。
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