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    PoPoPoPontatta

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    PoPoPoPontatta

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    ささやかな🍊🌻の文章
    8割がポケモソ視点からです CP要素はほんとに添える程度 おやつ感覚で読んでもらえたら嬉しいやつです

    ひまわりは月のなかに雲の切れ間から差し込んだ光が、葉の上に乗った朝露に反射して眩しくきらめく。その光を湛えた粒がするりと落ち、ぴちょん、と弾けると同時にミニーブは閉じていた目をゆっくりと開けた。
    ふわあ、とひとつ大きな欠伸をし、先程まで眠っていた寝床から跳んで降りるとトコトコと床を歩き始める。
    そうして辿り着いたのは一枚のドアの前。『atelier』と書かれたそのドアの向こうには、彼女の主人であるトレーナー──草タイプ専門のジムリーダーであるコルサがいる。彼は今、彼の頭の中に浮かんだイメージを作品にしている真っ最中だ。
    つい先日、アカデミーから来たという帽子を被った生徒にジム戦を挑まれてからというもの、彼はもう何日もこのアトリエにこもりっぱなしだ。
    その時の彼は挑戦者に対して敗北を喫したにも関わらず、その灰色の瞳をギラギラと輝かせていた。そしてコルサがそんな目をしている時──その脳内にインスピレーションが湧いている時は必ず、アトリエに何日もこもりきりになる事をミニーブもよく知っている。
    だがこの度は少し様子が違った。普段であればミニーブが朝日と共に目を覚まし、陽が沈むと同時に眠るのを二、三度程も繰り返せばコルサもアトリエから出てきたものだ。しかし今回はもう5日はゆうに経っているというのに、彼は一向に顔をのぞかせる気配を見せない。
    一応彼の名誉のために言っておくとすれば、ミニーブをはじめ彼のポケモン達はいつもこうして放っておかれているわけでは決してない。これまでもコルサがアトリエに入り浸るのはままあることだったが、それでも時折はアトリエから出てきて手持ちのポケモン達の様子を見たり、食事時にはサンドウィッチを作ってやったりなどしていた。
    ところが今回はそれもなく、食事といえば大皿に山盛りに盛られたポケモンフーズと深皿になみなみ注がれた水のみ。ポケモンを飢えさせないための最低限の事だけを果たして、その後は上で述べた通りである。

    「ミ…」

    遠慮がちに、けれど呼びかけるように鳴いてみるものの、目の前の木の板はそんな小さな声など通すわけもなく。
    自分よりもずっと高い位置にあるドアノブを見つめながら溜息をついたミニーブは、諦めたように振り返ると皿に積み重なったポケモンフーズをちびちびと食べ始めた。

    「チー」

    「ンミ…」

    どうやらミニーブから一拍遅れてチュリネも目を覚ましたようで、小さな目をしばたたかせながらこちらに歩いてくる。伺うように首を傾げる彼女へミニーブがふるふると体を横に振れば、彼女もまたしょんぼりとした様子で水を飲み始めた。
    横を見れば、コルサの手持ちポケモンの中でも一番の古株であるウソッキーも目を擦りながら立ち上がっているところだった。最も、彼の場合は最初から今日も主人の顔を見ることは叶わなそうだと分かっていて初めからミニーブ達の方へと歩いてきたが。

    「ミー」

    「ウーソ、ウソソ」

    「チュリー」

    おはよう、今日もだめみたいだね、とお互いに顔を見合わせながらまた溜息をつく。
    小袋の中身を丸ごと盛り付けた大皿もそろそろ底が見えてきそうだというのに、扉の向こうにいる筈の最愛のご主人様は物音一つあげないままだ。
    仮にフードが尽きても草ポケモンは光と水があれば生命活動に問題はないし、ミニーブなどは頭部に溜めた養分で1週間は飲まず食わすでも平気だ。しかし心の通い合ったトレーナーがいない状況での食事というのはポケモンにとってもなんとも味気なく、そんな心持ちでは食もなかなか進まない。
    ああ、こんなカラカラのフードじゃなくてご主人さまの作ったサンドウィッチが食べたいなあ…。
    そんなことを思いながらミニーブが手持ち無沙汰に転がっていると、チュリネが呼びかけるようにチーチーと声を上げた。
    ご主人さまがお部屋から出てきてくれるように、あの人に頼むのはどうかな?
    そんなチュリネの言い分にミニーブは小さな目をきゅぅ、とさらに小さくして不服を表す。
    彼女の言う人物とは、コルサが自分の恩人だと敬愛して止まない、向日葵色の髪と太陽の色の目を持った男。彼はよくコルサのアトリエにも顔を出し、コルサと共に談笑している姿をミニーブも幾度となく目にしている。彼はミニーブ達のこともよく可愛がってくれるのだが、しかしミニーブの方は彼のことをよく思っていなかった。
    彼とふたりきりになった時のコルサは彼にばかり目を向けていて、ミニーブのことを構ってくれなくなる。抱っこしてもらっても、頭を撫でてもらっても、シルバーグレーの月の色をした瞳はいつも太陽の方を向いているのだ。
    それに、彼がコルサの部屋に来た夜は決まってコルサの苦しげな声が聞こえてくる。何かを堪えるような、それでいて縋るような荒い息遣いはきっと彼が主人に何かをしているからだろう。普段は優しげな様子を見せているのに、なんて意地の悪い人だろうか!
    そんなわけで、ミニーブは彼のことを毛嫌いしている。そしてウソッキーはそんなミニーブを見て、困ったような笑みを浮かべるのが常だった。
    そして今回もミニーブは断固反対とでも言うように膨れっ面を見せ、ウソッキーがそれを宥めるように緑色の指先でその頭を撫でるもミニーブは癇癪を起こすようにミー!と大きく鳴いた。
    今の自分が撫でてほしいのはこんな岩肌のような指先ではなく、細くて節くれだった指のついた手のひらなのだ。
    ムスッとした表情で座り込んだミニーブにどうしたものかと頭を掻くウソッキーと、おろおろとしながらこちらを見つめるチュリネ。いっそ自分と主人を隔てるこのドアに体当たりでもしてしまおうか、とでも考えていた、その矢先。

    「キャー!」

    驚きと焦りが綯交ぜになったような声音が外から聞こえてきた。
    どこか聞き覚えのあるその声に皆揃ってどうしたのかと窓の側へ近付いてみれば、おもむろに黄色い花が下からニュッと生えてくる。大きな丸い輪郭に、それを囲うように生えている大ぶりな黄色の花びら。ミニーブ達と同じ草ポケモンのキマワリだ。
    普段、ジムテストに協力してくれている彼らとコルサのポケモン達は顔馴染みでもある。チャレンジャーがいない時はボウルタウン内を自由に動き回ることもある彼らは、今日も朝の日差しを浴びようと散歩をしているうちにこの建物の前を通りかかったのだろう。
    しかしいつもニコニコと笑顔を浮かべている筈のキマワリは、口角の上がった口元ながらも妙にあわあわとして頻りに両手の葉っぱを動かしている。
    その様子に3匹が首を傾げていると、窓の外のキマワリは「キマー!」と叫びながら片方の葉っぱをとある一点に向けた。
    葉先が示したのはミニーブ達のいる室内の更に奥。今し方まで彼女らが見つめていた、アトリエの扉だ。

    「チュリ?」

    「ミ?」

    何のことかと顔を見合わせるミニーブとチュリネ。
    しかしウソッキーだけは何かに気付いたらしく、ハッとした顔付きになるや否や慌ててドアの方へと駆け出した。そしてそのドアについている小窓に顔を近付けたかと思うと「ウソォ!?」と驚愕の声を上げた。
    その様子に2匹が目を丸くしていると、ウソッキーもキマワリに負けず劣らず慌てた様子で戻ってきてむんずと彼女らの体を掴む。唐突な浮遊感にミニーブ達が目を白黒させていると、再び扉の前まで引き返してきたウソッキーは2匹の体を大きく持ち上げた。
    彼の手によって掲げられたミニーブとチュリネの前には四角いガラスが嵌め込まれた小窓。その先に見えるアトリエの床には、1人の人間が横たわっている。
    それが誰かなど言うまでもない。もう何日もこの部屋にこもりきりだったコルサその人だった。

    「ミ!?ンミー!!」

    思いもよらない光景に、ミニーブも思わず大きな声を上げた。
    戦えなくなったポケモンが地面に倒れるのはミニーブ達もよく見ている。けれどコルサはポケモンではない。トレーナーだ。
    トレーナーが、人間があんな風に倒れているなんて見たことがない!
    ミニーブが大慌てでウソッキーの方を振り返れば、彼の方も戸惑いと焦燥を滲ませた表情でこくりと頷いた。
    彫像を彫ることを生業としているコルサの作業場は石膏の細かな欠片や粉といったものが散乱するため、換気用の窓が備え付けられている。恐らくキマワリはその窓のそばを通りかかった時に中の様子に気が付いたのだろう。彼が異常事態を知らせに来た際に、ミニーブ達が目を覚ましていたのは幸いだった。
    しかし異変を把握は出来たものの、彼らポケモンにとってこの状況にどう対処するかはまた別の問題であった。
    今すぐこのドアを開けて主人のもとへ駆けつけたくとも、ミニーブやチュリネはドアノブに届くだけの高さも、それを捻る手もない。ウソッキーならばそドアを開けること自体は可能だが、アトリエにはコルサ本人が作品の制作中に水を差されたくないからと内鍵が掛けられている。
    ならば外に助けを呼べないかとも考えたが、スマホロトムはコルサが部屋の中に持っていってしまっているためそれを用いた外部への連絡も不可能だ。
    或いはこの建物を出て他の誰かに助けを求めるという手もないわけではなかったが、早朝ともいえるこの時間に外を出歩く住民は少ないだろう。事情を説明するために意思の疎通を図るのも、ポケモンと人間では難しい。焦っているこの状態では尚更だ。そもそも急を要するかもしれない事態に、そうそう時間をかけてはいられないだろう。
    眠ったままのスマホロトムを起こし緊急で助けを呼べないか何度も呼び掛けるウソッキーと、ショックのあまり涙を浮かべながら茫然としているチュリネ。それを見ておろおろとするしかないミニーブだったが、ふいに後ろから「キマ!」と声がかけられる。
    見ればキマワリが大きな葉っぱをちょいちょいと動かして手招きをしており、「キマリー!」と鳴きながら窓の下方向を指差した。
    そこでミニーブもハッとして彼の意図に気付く。彼が今顔を覗かせている窓は風通しのために開けられていて、その開け放たれた下半分のスペースは小さなポケモンならなんとか抜けられそうな幅だった。
    今いるポケモンの中で一番小さな体をしているのは他ならぬ自分であることに思い至った瞬間、ミニーブは一も二もなくそのスペースへと飛び込む。丸い体が窓枠に引っかかっても必死で身を捩り、ばたばたと足を動かしていれば窓の外に抜けた体がころりと芝の上に落ちた。
    それを拾い上げたキマワリは「キマー!」とニッコリ笑い、駆け足でアトリエの窓の前にミニーブを連れて行く。

    「ミー!」

    ガラス越しに見た室内では確かにコルサが床に伏せるようにして倒れていて、ミニーブは再びコルサに呼びかけるよう叫んだ。
    しかし当然ながら返事が返ってくることはなく、その静けさに思わず目が潤む。そんなミニーブの頭を撫でながらもキマワリは「キ!」と言ってガラスの前で手をひらひらとさせた。
    換気のつもりだったのだろう、僅かながら開けられていた窓の隙間はミニーブの大きさならば入り込めそうだ。
    キマワリの手を借りて先程のように小さな体を捩じ込めば、また転がり落ちながらもアトリエの中に入ることができた。
    そうして大慌てでコルサに駆け寄り必死で再び名を呼ぶが、彼は青白い顔色で目を閉じたまま動かない。そんな主人の姿にミニーブの目からは今度こそ涙がこぼれ落ち、白い粉で汚れた床にぽつぽつと丸いシミが出来ていく。自分に彼を助け起こす手があったら。体を支えるための大きな体があったら…。
    そんなことばかりが頭を過ぎり、思わずそのまま床に座り込んで泣き出してしまいそうになった。
    けれど悲嘆に暮れて泣きじゃくるよりも、やるべきことがある。
    小さな目元を濡らしながらも必死の思いで周りを見回せば、自分の目線よりも高い位置──コルサがいつも使っている作業台の上にスマホロトムが置かれているのが目に入った。

    「ミニ!ニー!!」

    懸命に声を張り上げてスマホに憑依しているロトムを呼ぶ。すると「ロト……」という力無い声ののち、ロトムはふらふらとミニーブの前に降りてきた。
    今にも閉じそうな瞼を必死で開けながらミニーブの声に応えるその姿は普段のそれと比べてあまりにも元気がない。見れば画面に表示されているバッテリーの容量は5%を切っていた。
    どうやらコルサは作品の制作に熱中するあまりスマートフォンを充電もせず放置していたようだ。そのため日数が経つにつれ徐々に減っていったバッテリーの量に従い、ロトムにもスリープ状態になっていたらしい。扉の外からウソッキーがあんなにも呼びかけているのに何も反応がなかったのはこのためだったのか、とようやく腑に落ちるが、しかし依然として状況は変わっていない。寧ろ悪い事が浮き彫りになったとも言える。
    なにしろ助けを呼ぶためにはこのスマートフォンをロトムに操作してもらう必要があるのだが、バッテリーが尽きかけているこの状態ではその時間もごく限られている。
    差し迫ったこの状況の中で一番早く助けを求める手段といえば、誰かに電話をかけることだ。だが残存するバッテリー量を考えればそれが出来るのは一度きり、それもごく短い時間である。つまりこの電話がミニーブに与えられた、最初で最後のチャンスなのだ。

    「ミッ……」

    そこでミニーブははたと気付く。自分は一体、誰に助けを求めればいいのだろう?
    コルサの交友関係はスマートフォンの中に連絡先として記録されているだろうものの、その中でポケモンである自分の言葉を汲んでくれる人間がどれだけいるだろう?伝えたいことを分かってくれたとして、ここに駆け付けられる人間がどれだけいるのだろうか?

    「ロト………」

    再び閉じてしまいそうな目を辛うじて開きながらロトムがかすかな声で鳴く。画面端に表示されたバッテリーのパーセンテージが、また一つ数を減らす。
    連絡先として表示されている文字の羅列は、ミニーブには判読出来ない。
    一体どうする?誰に繋ぐ?誰なら主人を助けてくれる?
    誰か、誰か!誰か!!

    「ミーッ!!」

    表示されている数字が更にひとつ減った瞬間。
    ミニーブが泣きながら叫んだ声に応じて、ロトムは彼女の告げた名前の相手にコールをする。
    そうして呼び出し音が1コール、2コール、3コールと鳴り響き──



    ────────────────────



    「疲労による発熱と脱水症状。…ああ、それから軽い栄養失調も、だそうですね。……全く、なんてことでしょうか!」

    コルさん!
    そう言って怒りと呆れ、そして安堵が綯交ぜになった声色でハッサクは頭を抱えた。
    そんな彼にコルサは悪びれもせずハッハッハ!!と笑い飛ばす。勿論、その張り上げた声は普段のそれよりも掠れて活気に欠けるものであったが。

    「すまなかったなハッさん!あのチャレンジャーと戦ってからというもの、インスピレーションが次から次へと降りてきて止まなかったのでな!」

    ベッド上で点滴の管に繋がれながらもカラッとした調子でそんなことを宣うコルサに、ハッサクは再び「全く……」と呟きながら片手で顔を覆った。
    部屋の外を偶然通りかかったナースが、「コルサさん、まだ安静にしててくださいねー」と苦笑した声をかけてまた歩いていく。

    「あんな早い時間から電話なんてどうしたのかと思いましたが、いやはやまさかこんなことになっているなんて小生夢にも思いませんでしたよ…。助けを呼んでくれたミニーブさん達にはちゃんと感謝を忘れないでくださいね!」

    「わかっているとも!」

    そう答えたコルサはすまなかったなと言って傍に寄り添うミニーブ達の頭を撫でた。そんな光景にハッサクの脳裏へ数時間前の記憶が過ぎる。
    まだ陽も昇りきらぬうちに急にコルサからコールがかかってきたかと思えば、画面に映ったのは彼ではなく彼の手持ちであるミニーブだった。
    コルサ本人の気配はなかったが、うっすらと背景に見えた床にはハッサクも見覚えがあった。白い粉だらけの床と端に見える彫像の土台。コルサのアトリエだ。
    いやに低い視点、そしてそのミニーブが泣きながらミーミーと必死で呼びかけてくるその姿を見た瞬間。ハッサクは手持ちポケモンの入ったボールだけを持って家を飛び出していた。
    そうしてコルサの家へと辿り着いたハッサクはウソッキーが指差すアトリエの扉を、何の躊躇もなく破壊したのだった。

    「だから言ったでしょう、アトリエには鍵をつけない方がいいと!」

    「ワタシの制作に水を差す者が居ないとも限らないだろう!?」

    「今回みたいに倒れたまま閉じ込められるよりはよっぽどマシでしょう!もしもミニーブさん達が知らせてくれなかったら、あなたどうなっていたかわかりませんよ!!」

    「ぐぅ…」

    正論を突きつけられ言葉に詰まるコルサ。
    確かに今回は無事に治療を受けられているものの、もし何かが一歩遅ければ今こうして喋っていられたかは分からない。
    しかし。

    「確かにポケモン達とハッさんのおかげで助かったのは事実だ。しかしいくら鍵がかかっているからといって、アトリエのドアを壊してしまうとは…」

    「うっ、そ、それは…。でもあの時は一、二を争う状況だったものですから……」

    先程の威勢とは一転し、申し訳なさそうに頭を掻いてはその巨躯を丸めて縮こまるハッサク。
    そう、彼はコルサの家に着いてアトリエのドアが開かないと知るや否や、ポケモンの技で扉を粉々に壊してしまったのだ。

    「まあ、あの扉が開かねば救急隊も通れまいし、何よりワタシ自身があの音で気絶から目を覚ましたようなものだからな。それについては責められんが…」

    「いえ、その…。落ち着いたら後で必ず弁償を!!」

    「いや、構わん。…鍵のついていないドアに取り替えるには良い機会だ」

    フ、と笑ってそう告げるコルサにハッサクは「コ"ル"さ"ぁ"ん"!!」と涙を浮かべながらがばりと彼を抱きしめた。

    「あなたの身に何かがあったと知って小生、生きた心地がしませんでしたよ…。頼むからもう、こんな事はないようにしてください」

    「わかった。善処はしよう」

    あくまでも前向きに検討する、という姿勢の言葉にハッサクは片眉を上げながらコルサを見つめる。するとやがてその無言の圧に負けたらしいコルサが「…わかった。約束する」と渋々言えば、ハッサクは向日葵のような明るい笑顔で「はい!」と応えた。そしてコルサの傍でその光景を見ていたミニーブをはじめ、チュリネとウソッキー、そしてキマワリも皆それぞれが嬉しそうに笑みを浮かべる。

    「ミニーブさん、お疲れ様でした。コルさんのこと、知らせてくれて本当にありがとうございます」

    ハッサクはそう言ってミニーブの頭にあるつるんとした実を撫でた。その手を複雑そうながらも受け入れるミニーブを見て、コルサはム、と口を尖らせる。

    「ハッさん。確かにミニーブは此度の功労者だが、ハッさんの恋人はワタシだろう?」

    そう言って細い腕を上げたかと思えば、ハッサクの頬を両手で挟んでぐいと自分の方を向かせる。

    「ちょっと、あなたはまだ病み上がり以前なのですよ」

    「わかっている。だがキスくらい構わないだろう?」

    何よりの薬だ、と口にしながら不敵に笑うコルサにハッサクは参ったとでもいったような表情で、「あなたって人は…」と困ったように笑った。
    そんな2人のやりとりを不思議そうに見ていたミニーブへ、ハッサクはちらりと視線を向ける。そして頭を撫でていた手が目元を隠すように覆い、大きな手のひらに遮られた視界は真っ暗になった。横からは「キャー」というキマワリの控えめな、それでいて黄色い声が聞こえてくる。
    そうして暫し訪れた沈黙ののちに目元を隠していた手のひらは離れていったが、コルサの銀色の瞳は何故かとても嬉しそうに細められていて、それを見つめるハッサクの瞳も愛おしげな色を湛えている。
    何の言葉もない、ほんの数秒間。その間何が起こっていたのか小首を傾げるばかりのミニーブの頭を、今度はコルサの手が優しく撫でるのであった。


    -了-




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