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    PoPoPoPontatta

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    倫理がLv,1くらいのヴァイオが墓との邂逅によりちょっとずつレベルアップしていく(予定)話

    #ヴァイ墓

    殺意ある系害悪ハンターのトニオによるヴァイ墓青白く輝く月の光を受けて、降り積もる雪が寂れた工場を薄ぼんやりと照らしている。
    ひび割れた壁、錆びた手摺、もう動く事もなく佇むだけの機械達。
    レオの思い出と称されるこの場所は、いつ何時訪れても寒々しく、物悲しい。
    止むことのない雪以外に動くものはなく、ただあるのは耳が痛くなるほどの静寂。だがそんな静けさの中でアントニオが見下ろす先に唯一、微かな音をたてるものがある。僅かに上下する動きに合わせて聞こえる、隙間風のようなひゅうひゅうという音。それは人の形をしたもの──今回のゲームの参加者である、アンドルー・クレスから発されるか細い呼吸音だった。

    「嗚呼。気の毒なことだな、墓守よ。せめて走った先に地下室があれば、先に脱落した者達にも報いることが出来ただろうに」

    さも残念そうに告げる声音は大仰で、酷く白々しい。だがそんなアントニオの煽るような態度にもアンドルーは反応さえ返せず、ただ風の鳴るような呼吸音を繰り返すだけだ。そんな彼を見下ろして、アントニオは更に上機嫌そうに笑みを深める。
    4人のサバイバーのうち3人を荘園送りにしたアントニオは最後に残ったアンドルーをも例外なく捉え、自身の気の赴くままに彼を甚振り、弄んだ。
    魔音と呼ばれるアントニオの旋律は幾度となくアンドルーの脳を揺さぶり、こぼれた血で耳や鼻は赤く汚れている。そうして狂騒へと追い込まれ精神の擦り切れ果てた哀れな獲物は、もう焦点の合わない瞳で倒れ伏したまま、脱落のアナウンスを待つばかりだ。

    「いやはや、チェアに他の3人は座らせた後も何かと喧しくてな。あれでは演奏をするどころではない。その点、今の貴君は静かで良い。やはり観客とはこうでなくては」

    ニィ、と笑みを深めながら右手に持った弓で、横たわる身体を軽く転がす。するとそれまでただひゅうひゅうと息を鳴らすだけだったアンドルーの口元から、微かに声が上がったのをアントニオは耳聡く捉えた。

    「……ぁ、……ぅ…」

    「ほう?まだ何か言う気力があるのかね?」

    面白半分で顔を近付けてみると、アンドルーはまたぱくぱくと口を動かしながら虚空に向けて手を伸ばした。

    「…ぃじょ…ぶ……から…」

    「………?」

    「…おいで……、ぼくが……まもって…」

    途切れ途切れの掠れ声に耳を近付ければ、アンドルーは虚な瞳のまま何もない所に向かって優しく語りかけている。そして伸ばしていた手で何かを引き寄せるような仕草の後、そのまま身体を僅かばかり縮こめる。──まるで、その何かを抱きしめて守るかのように。

    「…幻覚でも見ているのか?」

    怪訝な顔でそう独り言ちるアントニオの声が聞こえているのかいないのか、アンドルーはぼんやりとした眼差しのまま、それでもしっかりとその目に見えない何かを胸元に抱え込んでいる。今にも消えそうな声で、何度も「大丈夫」と唱えながら。
    勿論、呟く言葉とは裏腹にその姿はあまりにも弱々しく、アントニオにはその様は寧ろ滑稽に映る。
    しかし──厳密には疑似的なものではあるが──自身の死を、惨めったらしい最期を目前にして何故彼はこんな穏やかな声でいられるのだろうか?
    本来であれば、このような狂ったサバイバーの有様なぞ鼻で笑って終いの筈だった。だが今は何故か、掠れた彼の声がいやに胸の中で燻っている。
    そうこうしているうちに白い睫毛に縁取られた瞳はやがて閉じられていき、喉奥から鳴っていた隙間風のような音も次第に聞こえなくなっていく。程なくして最後のサバイバーが脱落した旨のアナウンスが響き渡り、アントニオの視界も暗転し始めた。
    サバイバーは4人とも荘園送り、試合結果はハンターサイドのパーフェクトゲームだ。しかし、取り残された獲物が今際の際で嘆き悲しむ姿を期待していたアントニオにとって、先のアンドルーの様子は拍子抜け以外の何物でもない。
    とんだ肩透かしだと眉を顰めてその姿を見ていると、徐々に暗くなっていく景色の中、アンドルーの懐に何か白いものが見えた気がして思わず目を凝らす。

    (…?…生き物……?)

    暗闇に視界が閉ざされる寸前に見えたそれは、白くて小さな生き物のように見えた。
    長い耳を携えたそれは、まるでアンドルーの様子を窺うかのようにしきりに鼻先を顔に近付けている。
    そして、もう動かない手がその丸い背中に添えられていたのを見て、アントニオは漸く先程のアンドルーの様相に合点がいった。

    『サバイバー、4名脱落。此度のゲームはハンター・ヴァイオリニストの完全勝利となります──…』

    フィールド内に響くナイチンゲールの声。そうしていよいよ目の前が完全に暗闇に包まれると、次いで水中を漂うかのような浮遊感と共に意識が遠のいていく。
    獲物は全て屠った。最後の1匹も、気が済むまで弄び尽くした。なのにアンドルーのあの声が、伸ばしていた手が、依然として燻ったまま胸の中で留まっている。その釈然としない気持ちに小さく舌打ちをしたのを最後に、アントニオの意識はぷつりと途切れた。





    ふ、と唐突に意識が浮上する。
    ゲームが終わった後はいつもこうだ。急に意識がなくなったかと思えば、つい先程までうたた寝をしていたかのように椅子に腰掛けたままの体勢で目が覚める。そうして窓一つない狭い小部屋の中、唯一あるドアから握った覚えもないノブを捻ってそこを出ていくのだ。
    どんな絡繰か知れないが、その先は参加者の休憩室となる部屋へと繋がっている。テーブルには恐らく荘園の執事が用意したであろう紅茶や茶菓子が用意されており、まるでティータイムを楽しんでくれと言わんばかりに全てが整えられているのだ。
    つい先程まで命のやり取りをしていたというのに、目を覚まして次の瞬間にはその面子と顔を突き合わせての茶会など普通であればおよそ考えられないだろう。だが既に荘園暮らしも長い者達は何事も無かったかのようにティータイムを楽しんでいるらしい。もう慣れきっているのよ、と苦笑していたのは一体誰だっただろうか。もしかすれば彼女を始め、そういった者達は既にもうどこか正気ではないのかもしれない。
    苦笑とも嘲りともつかない笑いに口の端を釣り上げながらノブを捻れば、キィと小さく軋む音を立てて古いドアが開く。
    その先には先程のゲームでサバイバーであったヘレナ・アダムスとカヴィン・アユソ、パトリシア・ドーヴァル、そしてつい今し方部屋に入ってきたらしい様子のアンドルー・クレスの姿があった。

    「あ…」

    ドアを開けて入ってきたアントニオに、ヘレナは思わず気圧されたように小さな声を漏らす。そんなヘレナを庇うようにカヴィンが彼女の前に立ち、「よう、ハンター」と片眉を吊り上げながら声を掛けてきた。

    「今日は随分と調子が良かったようじゃないか。だからと言って、最後のアレはやり過ぎなんじゃないのか?」

    普段よりも幾分か低い声で告げられるその言葉に、隣に立っていたパトリシアも鋭い眼差しのままひとつ頷く。

    「残り1人になったアンドルーがダウンした時点で勝敗は既に決していた。ロケットチェアが近くにあったのは貴方も見えていたでしょう。時間を無駄に長引かせてまで、何故執拗に彼を甚振ったの?」

    華やかに薫るアールグレイの香りとは裏腹に、室内がひりついた緊張に包まれる。それもそうだろう、黙ってチェアに拘束すれば早々に終わっていた筈のゲームを引き伸ばしてそのような行為を行ったのだから。

    「何故、か。愚問だな。ハンターとは貴君ら獲物を屠る狩人だ。猫が捕らえた鼠を弄ぶのを見て、貴君らは猫に倫理を説くのかね?」

    「お前っ…!」

    ハ、と笑い混じりに返すアントニオの言葉を聞いて身を乗り出し掛けたカヴィンだったが、横から出てきたアンドルーが慌ててそれを静止する。

    「やめろ、アユソ。こいつの言う通り、どうせ言っても無駄なんだから」

    「だが、アンドルー…!」

    「いいんだ。本当に、僕は平気だから」

    食い下がろうとするカヴィンに重ねて大丈夫だと告げるアンドルー。そんな彼らのやり取りを黙って見下ろしていたアントニオだったが、ふいにアンドルーの足元に見慣れない何かがいることに気が付いた。
    白い毛の生えた体、二つの長い耳。
    彼の足元でちんまりと座っているそれは、先程ゲームの終わり間際に目にした生き物だった。

    「…ハ、成程。気が狂ったのかとばかり思っていたが、そうかそうか!よもやサバイバーのペットとは!ゲームの間は我の目に映らぬわけだ!」

    急に笑い出したアントニオに、アンドルーを始めサバイバー達は皆眉を顰めた。可笑しげに喉をくつくつと鳴らす声に、アンドルーは足元で丸くなっていた月ウサギを抱きかかえる。

    「今際の際に何の戯れ言を吐いているのかと思っていたが、そうか。貴君はそのチンケな子兎を守ろうとあのような妄言を繰り返していたのだな!」

    傑作だ、と言って尚も笑い続けるアントニオに、今度はパトリシアが噛み付いた。

    「何が可笑しいの?彼が自分のペットを庇おうとして何が悪いというの!」

    「悪いなどとは一言も言っていない。ただ、無様で笑えるというだけだ。そもそも先も言った通り、サバイバーペットは試合の間ハンターの目には映らぬ。害される危険性があるわけでもないのに、それに心を砕くとはまあ随分と御苦労な事だ」

    「例えそうだとしても、貴方にそれを嘲る権利なんてない!他者を大切にしようとする心の何が悪いの!?」

    「悪いなどとは言わん。しかし、自分がボロ切れ同然の有様で一体何が守れるものか。彼は所詮、その子兎を守ろうとすることで死に際の恐怖を摺り替え、誤魔化していただけだ。そうでもしないといよいよ正気を保てなかったからだろう。違うかね?」

    ん?と挑発的に問うアントニオにアンドルーは一瞬唇を噛み締めたが、しかし一度溜息を吐くと真っ直ぐアントニオの事を見据えた。

    「確かに、お前の言う通りかもな。…こいつを僕が守ってやらないとって思わなきゃ、どうにかなっていたかもしれない」

    「アンドルーさん…」

    ぽつぽつとそう返すアンドルーに、ヘレナが悲しそうな声音で名を呼ぶ。
    しかし、アンドルーは片手で月ウサギの頭を優しく撫でると、「だけど」と言葉を続けた。

    「どうしようもない状況の中で、自分よりも誰かを想えるのは何より尊い事だと僕は思う。…例え人じゃなくても、自分よりちっぽけな生き物だったとしても。自分以外の何かを守り庇おうとする事は、愛を知っている者にしか出来ない。──お前にはきっと分からないんだろう。お前は、可哀想な奴だ」

    自分の他に、誰かを想う事を知らないんだから。
    そんな言葉を真っ向からぶつけられ、アントニオは顔を覆う黒髪の下で思わず目を見開いた。
    たまに待機室で見るこの男の様子といえば、いつも何かに怯えているような陰気な印象のそれでしかなかったのに。

    「…何だと?貴君は今、我が哀れだと言ったか?」

    幾分か低い声でそう返せば、アンドルーはびくりと肩を震わせながらもキッとこちらを睨みつける。
    その視線が気に食わず、アンドルーに向かって何とは無しに一歩踏み出そうとしたその時。

    「ストップ!もうそこまでだ。これ以上言い合えば収拾がつかなくなるぞ」

    この辺が引き際だ、とカヴィンに諭され、アンドルーは悔しげに目を逸らした。

    「今日はもう、皆さん部屋に戻りませんか?お茶を淹れてくれた執事さんには申し訳ありませんが…」

    恐る恐るヘレナもそう声を上げる。確かに彼らの言う通り、ここが潮時だろう。
    フン、と不機嫌な様子で鼻を鳴らしたアントニオはサバイバー達の横を素通りすると、何の言葉もなく部屋を出て行ってしまった。残された4人はその後ろ姿を暫し見送っていたが、やがて足音が聞こえなくなると誰ともなく大きな溜息を吐いた。

    「全く、あんな終わり方をしたゲームの後で、随分ヒヤヒヤしたぞ。…でもまぁ、お前がアイツに言い返した時、スッキリしたぜ」

    アンドルーの肩に腕を凭せ掛けながらカヴィンがニッと笑ってウィンクする。その横ではパトリシアとヘレナも笑顔で頷いていた。

    「ええ。私も溜飲が下がったわ」

    「アンドルーさんの言う通りだと思います。誰かを大切に想う事は、愛情を知ってないと出来ませんよね」

    皆から笑顔を向けられたアンドルーは、歯痒そうな様子で視線を下に落とす。その先では先程抱き上げた月ウサギがこちらを見上げていて、アンドルーははにかみながらもその小さな頭を撫でた。すると月ウサギは気持ちよさそうに目を細めながらそれを享受する。その穏やかな姿に先のゲームで受けた恐怖や苦痛が全て報われたような気がして、アンドルーは腕の中の小さな体をそっと抱きしめた。
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