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    akmo3616ut

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    akmo3616ut

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    レイマシュ
    配信者☔×リスナー🍄
    現パロ。ちょびちょび更新していたものが、ようやく完結した😊

    #レイマシュ
    leymash

    配信者☔×リスナー🍄 マッシュには日課がある。
     シュークリームを食べることと筋トレをすること。
     そして、推しの配信を見ることだ。

     あと五分。マッシュは全力で走る。自分が通った道から風塵が舞い上がり、通行の妨げとなっているが関係ない。誰だって譲れないものはある。
     今日は特に大切な記念配信、見過ごすわけにはいかない。なんとか、自宅に帰れたが、時刻は夜八時五十九分。配信開始まで一分を切った。
     靴を脱ぎ散らかし、リビングまで一直線に進む。ベッドと机、回転椅子しかない空間。机の上にあるノートパソコンを開き、配信サイトに飛ぶ。画面には『待機中』と映し出され、可愛らしいイラストが現れる。白いウサギが、紫の傘を持ちながらぽてぽてと歩いていた。
    「間に合った……」
     マッシュは肩を下ろす。安堵したのも束の間、画面が切り替わる。
     コメント欄と待機画面にあったウサギの絵。
    『こんばんは、あめうさです。本日はチャンネル登録者数が五万人になった記念に雑談配信だ』
     抑揚ないバリトンボイスだが、色気もあって聞いていて落ち着きがあった。
    「あめうさくん、おめでとうー!」
     マッシュは画面の向こうで独り言を呟く。
     あめうさとは、人気上昇中のASMR配信者だ。生活音や咀嚼音を主に上げているが、彼の強みはシチュボ配信だ。重低音で輪廓がはっきりしながらも艶のある声色は、聴いた人の心に安らぎを与える。
     添い寝ボイスは百万回の再生数を叩き出した。投稿型のSNSもやっており、飼っているウサギの写真を毎日アップしている。
     マッシュも彼の声に救われている。上京したての頃、環境変化で不眠続きで困りながら、動画を漁った時に出会った。
     ゆっくりな口調で優しい声が、心にあった黒い靄を消してくれる。
     彼が隣にいて、頭を撫でられる気分になる。それが居心地が良くて、いつの間にか眠っていた。
     あめうさの配信に出会って二年の月日が経ち、今では添い寝ボイスを流しながら眠りにつく習慣になった。
    『まさか、五万人になるとは……そもそも二年も続くと思わなかった。それも応援してくれるリスナーがいたからできた事だ。本当に感謝している』
     雑談配信の彼は冷静で淡々としているが、今日はいつもより柔らかい声質だった。コメント欄からも『凄く嬉しそう』『デレてる』と言われている。
    「可愛いなー」
     マッシュは顔を両手に載せながら配信を聞く。せっかくだし投げ銭でもしよう。普段はお金がなくてやっていないが、今回はちゃんとお祝いがしたい。
     『シュー』のハンドルネームで、「登録者五万人おめでとう。素敵な声を届けてくれてありがとう」の言葉を添えて投げ銭を行う。
     コメント欄から、自分のアイコンが出てきて恥ずかしい。返しは雑談の最後にまとめて行うし、軽く流すだろうと思っていた。
    『おっ、シューさん投げ銭ありがとうな。これからも応援よろしく』 
     上擦った声を聞いて、マッシュの喉がひくりと鳴った。意識しなければ、まともに呼吸ができない。一体、何が起きたのがわからない。リスナーたちも困惑気味な様子。当然の反応だ。普段やらない配信中のコメント拾いが行われたからだ。
    「あめうさくんに認知されている?」
     喉から出た声は、自分が思っていた以上に震えていた。

    2
     数日後の出来事だ。マッシュは外出していた。今日は限定シューの販売、朝早く起きて準備を整える。天気も良さそうだし、SNS用に写真も撮りたい。あめうさ活動一周年の記念グッズ、うさぎのぬいぐるみもお供に連れていく。
    「いっぱい買えた」
     お目当て品は無事に購入できて、マッシュの気分は最高潮だった。
     ついでにシュークリームとうさぬいを片手で持ち、写真を一枚。SNSにあげれば、フォロワーから可愛いと感想をもらえた。 
     好きな物同士の組み合わせは、耽美で目の保養にもなる。
     家に帰って好物を早く食べたい。駅のホームを軽い足取りで進むが、周りを見てないせいで、人と正面衝突した。
     後ずさり、ぶつかった人に謝る。マッシュより身長が高めで、黒と金のジェミニヘアの男だった。
     分けられた前髪から、ぎろりと殺意を孕んだ双眸が覗いている。背中から冷たい震えが襲う。
    「ご、ご、ごめんなさい」
     凍えた声が喉から出てしまう。
     不機嫌そうな青年は、大きなため息を吐いた後に「次は気をつけろ」と言葉だけを残し、マッシュの横を通り過ぎた。
    「怖かった」
     震えを必死に抑えた足が、限界を迎えてその場に座り込んだ。
     ホラー映画よりも恐怖があった。真夜中に遭遇すれば、尿を漏らす自信しかない。
    「早く帰ってシュークリームを食べよう」
     立ち上がれば、情けない両足が小刻みに震動する。足を擦りながら歩いて帰った。

    3

     自宅に着けば、リビングの床で大の字になって寝転んだ。
     精神的に疲弊してしまった。
    「こういう時こそ、推しの配信で癒すべきですな」
     その前にうさぬいを取り出さねば、入れていたズボンのポケットに触れるが、そこには膨らみは全くない。
     マッシュは血の気が引いた。推しの概念を落とす重罪を犯してしまう。
    「写真を撮るまでは手元にあったから……あぁ!あの時だ」
     ヤクザもどきの怖い男とぶつかった拍子に落としたかもしれない。家を飛び出し、現場を確認するが発見には至らなかった。
    「どうしよう……」
     涙腺が込み上げる。あのぬいぐるみは、推しが一周年記念と称してデザイン監修した特別な物だ。宝物の喪失は、マッシュの心を押しつぶす。
     辛い気持ちをSNSで呟いた。
    『大切なうさぬいくんを落としちゃった…ごめんよ……』
     お気持ち投稿に同志たちが反応してくれた。励ましの言葉に加えて、ある人にはどこで落としたかも呟いてみたら?と助言もあった。
     できる限りのことはやっておきたい。探し物の写真と共に、駅の改札口周辺で落としてしまった。拾った方がいれば、一報くださいと内容で投稿してみた。フォロワーさんたちの力もあって、拡散されていく。
     数時間が経った頃、一通の個別メッセージが入ってきた。送り主は『Re.E』からだ。内容を見れば、うさぬいの写真と丁寧な文章があった。
    『突然のご連絡失礼致します。駅で落とした所を拾いました。投稿を拝見して、もしかしてと思い送らせて頂きました』
    「この人、神かな……」
     マッシュは天を仰いだ。うさぬいの無事を確認できた安堵感から、涙が零れる。泣いている場合ではないと、目元を拭えば、震えた手で返信した。
    『連絡ありがとうございます。はい!それで間違えありません!!送料など、こちらで負担しますので、郵送してもらえると助かります』
     送信すれば、数分後にメッセージが返ってくる。
    『良かったです。郵送の件ですが、住所の開示や配達手続等で手間をかかるので、直接手渡しだとありがたいです』
     確かにその通りだ。個人情報はネットで伝えることは危険だったとじいちゃんも述べていた。知らない人に会うのも怖いが、連絡先が特定されないから大丈夫か。後、みつけてくれた人にこれ以上の迷惑をかけたくない所もある
     マッシュは相手の提案を受け入れる形でやり取りを進めた。

    4
     駅前広場にある噴水近くで、マッシュはどきどきしながら立っていた。
     今日は、失くしたうさぬいを返してもらう日だ。相手が提示した日時と場所通りに待つ。
    「緊張しますな」
     心臓の音がうるさい。恩人がどのような人なのか。ちゃんとお礼のシュークリームを渡せるのか。不安で仕方がない。
    「すみません」
     後ろから低い落ち着いた声が耳に入る。
     振り返ってみると、先日ぶつかった強面の男がいた。
     マッシュは目を見開く。驚きのあまり、声が出なくなった。
    「シューさんですか?自分はこちらです」
     男はスマホを差し出す。画面にはSNSのトップ画像があり、『Re.E』の名前が映された。
    「貴方が……わざわざすみません」
    「いえいえ、物は持ち主に返すべきですから」
     彼は麻色の紙袋を渡してくれる。受け取って中身を見れば、うさぬいが入っていた。
     戻ってきて良かった。くしゃと音を立てて、紙袋を握りしめる。
    「ありがとうございます……これ、お礼です」
     うさぬいを返してもらった代わりに、シュークリームが入った紙箱を男に押し付けた。
    「そこまでしなくて良かったですのに……」
    「うさぬいの恩人ですから」
    「大切な物ですね」
     強ばった顔とは裏腹に、男の声は柔らかい。
     この人、見かけによらず優しい人だ。
     警戒も緊張も解けていき、自然と唇の端が上がっていく。
    「はい、大事な宝物です」
     いつもより高い口調が無意識に出た。しかし、男の表情筋は動かず、眉間に皺を寄せて不機嫌な態度を示す。
    「ご、ご、ご、ごめんなさい。良くない態度でしたね」
     圧に押されて、一、二歩後ずさり、平謝りをする。身体がガタガタと震え出す。
     何が原因でわからない。とにかく、怒りを鎮めるようと言い訳を並べる。
    「なぜ、謝るのですか?」
    「ふぇ…?」
     目の前にいる男は首を傾げたので、マッシュは気の抜けた声が漏れる。
    「好きな物は人それぞれでしょ?」
     この人、話すことが苦手なのか。自分も人のことが言えないが、彼の方が余程酷い。顔で損しているタイプの人間だろう。マッシュは口元を押さえた。
    「あ、ありがとうございます……」
     とりあえず、感謝の意を示すために会釈するが、会話が中々続かない。冷たい汗が背筋に伝う。
    「俺も兎が好きですから」
     男の口元がはにかむ。初めて見せる表情の変化に、マッシュはぽかーんと、口を開けて驚く。
    「意外ですね」
     思ったことが、無意識に口から零れてしまい、口元を手で覆う。また、やってしまったと恐る恐る反応を伺う。
    「よく言われます」
     気に触れてなかったことに、マッシュは安堵して肩の力を抜いた。
     二人の間に沈黙が広がった。ここから、別れの挨拶を言おうか。マッシュは男を怒らせない言葉選びを頭の中で模索した。
    「……僕はこれで」
     考えた末に出てきた飾り気のない言葉を呟いた。
    「そうですね」
     男もすんなりと受け入れてくれて、内心ホッとした時、言葉が続く。
    「せっかくのご縁なので、またお会いしてもいいですか?兎についてもっと語りたいです」
     次回の約束を取り付けてきた。その言葉に、マッシュは目を見開く。豆鉄砲を食らった鳩みたいだ。
    「あ、はい。大丈夫です」
     二つ返事で承諾した。拒否すれば、何されるかわからない。予測できない恐怖を少しでも緩和させるために、今は誘いを受け入れるしか、選択肢が存在しない。
    「ありがとうございます。自己紹介がまだでしたね。レイン・エイムズです」
    「ま、ま、マッシュ・バーンデッドです」
     丁寧な仕草をするレインと同じ動きで返す。マッシュを見た彼はクスリと笑う。
    「また、連絡します」
     固く動かなかった彼の頬が緩んだ。理由はわからないが、嬉しさだけは伝わる。
     温かい陽射しを背景に、柔和な双眸でみつめる彼の姿に、マッシュの心臓は大きく脈打った。

     5
     うさぬい紛失事件から数週間後、レインから連絡が入った。
    『今度、買い物に付き合って欲しい』という内容だ。詳しく聞けば、店舗限定のウサギグッズを買いたいからと返事がくる。一人だと、なぜか変な目で見られるらしい。
     殺意の孕んだ視線が剥けらたら、ヤのつく人と警戒されるだろう。男同士でも怪しいではと突っ込みたいが、口が裂けても言えない。友人のプレゼント探しを名目にして行けば大丈夫だと、マッシュは己に言い聞かせた。

     買い物当日。待ち合わせ場所に、すでに黒と金色のツートンカラーの男はいた。
     時間ギリギリで来たのに、逆に待たせた感じがして、申し訳なさがある。
    「今日はありがとうございます」
     レインは丁寧な口調で話す。明らかに彼の方が年上なのに、律儀にされるのは、むず痒くて仕方がない。
    「あのう、敬語はなくても大丈夫ですよ……」
     弱々しく話すマッシュを、レインは眉根を寄せて見つめる。一言も喋らないから余計に威圧感が増していく。マッシュの額からは冷たい汗が流れていく。顎まで伝い、服の中に入ってしまう。首元からひんやりとした刺激で肩が震えた。
     また、やってしまったと心の中で一人反省会を行った。
    「わかった。しかし、オレは言葉選びが得意ではねぇから、心無いことを言った時はすまない」
     黄色の視線は、地面へ落とす。正直に話す人かと、印象が変わる瞬間だった。
    「モーマンタイです。むしろ、難しい言葉を使われるよりかはマシです」
     レインの前で、親指を立ててみせる。回りくどい言い方より、直球で話してくれるほうが、マッシュにとって好都合だ。
    「そうか……」
     ぽつりと、レインは静かに呟く。不機嫌な態度ではないとわかって、マッシュは瞼を閉じて肩の力が抜けた。その間に、無を保っていた双眸が揺れて、口元が綻んだ彼の姿を見過ごしてしまう。

    6
     目的の雑貨屋に着き、限定品を何も言わずにカゴに入れていく。本人は純粋に買わい物をしているだけだが、鉄仮面のせいで雰囲気が、狩りをするマタギのようだ。目が合えば狩られると恐れた。周辺にいた客も怯えて、後ずさった。
     このままだと、他のお客さんも買えない。マッシュは息を整える。レインの元へ駆け寄り、彼の手を掴む。
    「すみません……周りが怖がっているので……これ以上は良くないと思いますよ」
     マッシュの言葉によって、強面の男は我に返り、すぐにレジへ向かう。会計を済まし、手にウサギのイラストが描かれた紙袋を複数携えて戻ってきた。
    「申し訳ない。周りのことを考えてなかった。お前のおかげで助かった」
     レインは胸に手を当てて会釈する。
    「対したことはしてませんよ。それより、近くにシュークリーム屋があったので付き合ってください」
     ガシッと、彼の腕を掴んで引っ張っていく。雑貨屋に行く道中で発見したシュークリーム屋へ向かう。人気な店のようで、待機列がある。
    「すみませんが、時間かかりそうです」
    「構わない」
     二人は最後尾に並ぶ。待っている間、沈黙が広がる。何を話せばいいのか。ウサギの話題でいくか。世間一般の出来事を語るか。マッシュの頭はショート寸前だった。
     落ち着きを取り戻させてたのは、レインの一声だ。聞いた瞬間、マッシュの肩が上がる。情がない低い声は、未だに慣れずにいた。
    「シュークリーム、好きだな。ぶつかった時もお礼の時も買っていたぐらいだから」
    「あっ、はい。好きです。特にクッキー生地の物がいいです」
    「そうか」
     レインは唇の端をあげた。時折みせる柔らかい笑顔に、胸がキュッと締め付けられる。外面は悪いが、中身は繊細だな。ギャップの差に、心を奪われていく。
     身体中から湧き上がる熱で溶けそうだ。
    「次、くるぞ」
     冷静な一声が、火照った身体を冷やしていく。目的を忘れる所だった。受付にいる店員に声をかけられたマッシュは、メニュー表を指さしながら注文の品名を述べる。
     財布を出す前に、レインが会計皿にお金を乗せた。
    「俺が出す。今日付き添ってくれたお礼も兼ねてな」
    「そこまでしなくていいです」
     マッシュが止めようとするが、強硬手段で会計を済まされていく。気づけば、手には紙袋を抱えている。
    「すみません……」
     身体をちぢこませながら、申し訳なさそうに話すと、大きな手がマッシュの黒い頭を撫でる。柔らなく硬いが、手のひらから仄かな温かさが頭皮から伝わった。
    「問題無い」
     ゆったりと心地いい声が、強ばった身体に落ち着いていく。心臓が大きく脈打って、体温が上がっていく。熱くなった顔を見られないように、地面をみつめる。腕の中にあった紙袋を抱きしめた。
    「今日は付き合ってくれて、ありがとう」
     たくましい手が、黒い髪をぼさぼさになるまで撫で回した。

    7
     レインとの買い物が終わり、家に帰ってきたのは夜八時。マッシュは疲れてベッドに倒れ込む。仰向けになって、白い天井をみつめた。
     彼と出会って数日しか経ってないのに、謎の親近感があった。心を溶かす優しい声を、どこかで聴いた気がする。思い出せずにいると、携帯から通知音が流れた。確認をすれば、推しの『あめうさ』が今から雑談配信する予定だ。
    「あめうさくんの聴きながら、ひと休みしますか」
     配信アプリを起動する。いつもの可愛らしいウサギの画面が映し出す。
    『こんばんは。今日はゆるりと雑談でもしようかなと思う』
     落ち着いた声が耳に入るが、マッシュの思考が止まった。あめうさの声が、数時間前に聴いたレインの物と酷似していた。まさか、そんなことはない。勘違いにも程がある。ひとまず、配信を見守ることにした。
    『今日は何かしましたか?』とチャット欄から流れると、彼は『買い物をした』と素直に答えた。
    『あめうさを描いた作家さんが開催している限定ショップへ、お邪魔しました』
     画面越しの彼は言葉を続ける。確かにレインと一緒に行った店も、あめうさの絵柄と若干似ていたなと思い出す。
    『お目当ての品は手に入れましたか?』
    『女の人が多いから買うの苦労したんだろうな』
    『今回の絵柄、ちょー可愛かったから欲しかった!』
     リスナーたちのコメントが、湧き水のごとく増えていく。コメントで答えられそうな内容を選び、彼は返していく。
    『おかげさまで手に入れた。男一人は後ろめたいから、知人にも付き合ってもらった』
     あめうさの発言に、リスナーたちも驚きのコメントが出る。彼は他人の出すことは滅多にない。同い年の親友がいるのは、聞いたことがある。しかし、『知人』と述べている時点で、明らかに別人を指す。
    『最近出会った人でな。好きな物に対しての執着さが俺と似ている部分がある』
     話すトーンが上がった。チャットも『あめうさくんもウサギのグッズに対しては強欲からね』や『思考が合う人と巡り会えたかー!』と明るい言葉で溢れる。
    『暴走している時は止めてくれた。あの時は助かった』
     マッシュの鼓動が大きな音を立てた。今日、レインにしたことと全く同じ内容だった。着々とレインが、推し配信者のあめうさと同一人物だと思えてきた。
    『お詫びに、知人の好きなシュークリームを奢った』
     完全一致の決めてとなった言葉。マッシュは悲鳴のような叫び声を上げ、咄嗟に家の壁を拳で叩き壊した。

    8
     この数日間、放心状態で過ごしていた。壁を壊した修繕費が高額だったせいもあったが、好きな配信者とリアルで出会ったことが一番の衝撃的だった。
     レインからはお礼のメッセージが送られてきたが、既読スルーを決め込んでしまう。返す努力はしてみたが、指が震えて文字が上手く打てない。『職業は配信者ですか?』と探りを入れてしまう自分がいて怖い。
     本当の人違いであれば、羞恥心に押しつぶされて死ねる。
     あめうさの配信も見る回数も減った。声を聞くだけ、レインを思い出してベッドで悶えてしまい、逆に睡眠時間が短くなった。
     この気持ちをSNSで吐き出すしか方法がなかった。
    『どうしよう。最近、あめうさくんに似た声の人と、出会っちゃった。同性なのにドキドキしちゃう』
     ありのままの気持ちを投稿した。内容は乙女だ。繋がっている人からは、『シューさんにも恋の春か?』と送られる。あめうさは好きだ。でも、レインに向ける感情は同等ではない。落し物を拾ってくれた恩人だ。それ以上の関係は望んでないし、見込みもない。
    「悩んでも無駄ですな……」
     マッシュはため息をついた。
     考えても埒が明かないから、この話題から離れるしかなかった。二日後には、あめうさの活動三周年。毎年、マッシュはお祝いも兼ねてウサギの形をしたシュークリームを作って、SNSに上げる。これが毎回、多くのユーザーたちから評判がいい
     なぜか、あめうさ本人の目にも入っており、公式垢で直接拡散されかつ『かわいいお菓子を、ありがとう』とコメント付きで返ってくる。
     絵師や動画師へのお礼以外の拡散はない。自分以外が特別扱いされているのが、ファンたちには申し訳ない。けれど、推しが喜んでくれるのが、何よりも嬉しかった。
     今年も腕によりをかけて作るかと、マッシュは闘志を燃やしていた。

    9
     今日は記念すべき、あめうさの活動三周年の日だ。マッシュは日課を早めに終わらせて、シュークリーム作りに取り組んだ。作業しながら考えていたのは、記念配信についてだ。現時点において、告知がされていない。普段は前日にSNSで通知してくれるのに、今回は音沙汰なし。
     多忙か体調不良か、何事もなければいいと願うばかりだ。
    桃色のパイ生地に、カスタードクリームをいれ、イチゴ味のチョコでウサギの耳を側面に付ける。それを数十個作っていき、完成品をお洒落なお皿に置いていく。
    チョコプレートに『三周年おめでとう!』とメッセージを添える。買ってきたピンクのガーベラの造花も周りに配置し、真ん中にうさぬいを設置すれば、あめうさ記念セットの完成。
    「我ながら、いい出来ですな」
     マッシュは腰に手を当てながら、鼻で笑う。あらゆる角度から写真を取り、見栄えがいい物をSNSであげる。フォロワーからも、『今年もまってました!』と嬉しいコメントが来る。毎年楽しみにしている人達がいるのはいいことだ。
     コメントを返していると、あめうさ本人からも『投稿が拡散されましたと』通知が届く。引用で『今年もありがとう』も添えられた。生存確認もできて、マッシュも安堵する。
     そして、記念配信の通知も来た。開始時間は二十一時時、現在時刻は二十時五十五分。あまりにも急だった。
     シュークリームを食べるのは後回しにして、ノートパソコンを付けてあめうさの配信チャンネルへ飛んだ。
     今回はうさぎがケーキを頬張るイラスト。ポップな文字で活動三周年と載っている。
     二十一時になったと同時に画面が切り替わり、雑談用の配信画面に映る。チャット欄の下には、ウサギが『いつもありがとう』とふきだしつきでお礼を付けてくれた。リスナーからも『凄く可愛い』と評判がいい。
    『こんばんは、あめうさです』 
     心地よい落ち着いた声で配信は始まった。リスナーからもらったプレゼントの紹介、記念グッズの詳細もあった。今回はうさぬいに新しく一羽追加されるようだ。前回のうさぬいの毛色が白だったに対し、今回は黒と、今まで出てこなかったウサギが現れた。彼いわく、白いウサギの友達という設定だ。
    『あっという間に三周年になった。色々なことがあったし、何度も辞めようかと思えた。しかし、配信を見てくれるリスナーがいたから頑張れた。ありがとう。これからもよろしく』
     あめうさから震えたような声が漏れる。マッシュも思わず、鼻の先がツーンと痛み、涙腺が込み上げてくる。
     活動当初から応援していたからこそ、推しの苦労も喜びも見てきた。自分の成長に感動してくれたじいちゃんの気持ちが、今なら共有できる気がした。
     この先もあめうさを応援していきたい。チャット欄では投げ銭コメントの嵐。この大波に乗るしかない。今回は初めて、赤色スーパーチャットを送る。一万円は金額にして大きいが、推しへの感謝の気持ちを伝えるには十分だった。
     しかし、リスナーたちが送る言葉が多すぎて、すぐに赤いコメントは流れてしまう。配信終了後、まとめて読み上げてくれるだろう。マッシュは高を括る。うさぎのシュークリームを口に入れようとした時だ。
    『はぁ!?』
     あめうさが大声を発する。その後、チッと舌打ちが聞こえ、肺の空気を全て絞り出すような溜め息を吐く。
    『すげぇ……嬉しい……』
     消え入りそうなか細い声には、歓喜が含まれていた。気持ちを整えるためにか、深呼吸する音がする。
    『毎年記念シューを作ってくれて、今年は赤スパまで送ってくれるなんて……心臓が止まるかもしれん』
     マッシュは雷に撃たれた気分になった。名前を言わなかったが、明らかに自分を指す発言だった。リスナーも『シューさんの赤スパって初めてだよね!?』と驚愕の文字で埋め尽くされている。
     またあめうさを囲うようなことをしてしまった。マッシュは取り乱し、両手で髪の毛を掻きむしる。
    『予め伝えておくが、特定の人物を贔屓する発言になるかもしれない。でも、俺がここまで活動できた一番の理由だった』
     自覚があるにも関わらず、画面越しの彼は真っ直ぐと気持ちを伝えた。
    『配信は数字ではない。誰かの心に残ればそれだけでいい。その軸だけはブレずに進んできた。教えてくれたのはあの人だ。毎回動画を褒めてくれたのが、何よりも心の支えだった』
     あめうさが配信者としていられた理由は、自分だったとは思わなかった。マッシュの瞳から涙が零れる。自分の小さな励ましが、彼を強くさせていた。ただ嬉しい気持ちしかない。
    『配信者として、よくないことだと認識している。直接言葉で伝えないといけない気がした。偽りの情報をでっち上げられ、誹謗中傷を受ける彼を見たくない』
     マッシュに起こるであろう未来を見越して、彼は自分の口で想いを伝えてくれた。お人好しだなと思わず、笑みが零れる。
     リスナーからも『シューさんが、あめうさくん存続のルーツだったんですね』、『それは認知したくなる!』と述べている。
    『ありがとう。今後一切、彼の話はしない。スパチャの先読みも今回で終わりにする』
    「よかった」
     安堵したマッシュは、胸を胸を撫で下ろす。その瞬間、孤独が襲いかかってきた。それは鋭利な刃物ように己の理性を刺す。溢れて来るのは涙だ。
    「泣いたらダメだ」
     自分に言い聞かせたが、涙が止まらない。
    あめうさはリスナー皆のものだ。自分だけ独り占めする権利はない。彼の口から二度と名前を呼んでくれない。それを思うだけで胸が張り裂けそうだ。
    『話が脱線してすまない。今後の予定は……』
     今のマッシュには、彼の声が涙を助長させた。
    10
    どれだけの時間、泣いたのかわからない。気がつけば、配信は終わっていた。時計をみれば、長針と短針が頂点で重なっていた。
     机にあったシュークリームはしおれてる。今日は食欲がない。翌朝にでも食べようと冷蔵庫へ入れた。
     その時、スマホから着信音がなる。SNSに機能されている通話チャット、相手先は『Re.E』、レインからだ。
     気分が乗らないが、永遠と鳴り続けるので仕方なく、応答する。
    『もしもし。夜遅くにすまない。返事がなかったから、かけてはみたが……』
     先程まで聞いた配信者と同じ声のもあって、止まった涙腺が緩む。
    「ズズッ、すみません……色々ありまして」
     マッシュは鼻をすすりながら話す。男の情けない声を聞かせてしまって申し訳ない気持ちになる。
     電話越しの彼は、軽く息を吐く。
    『悪かった』
     ぽつりと消え入りそうな声量で呟いた。
    「レインくんが謝ることではありませんよ?」
    『全ては俺がしたことだ。薄々は気づいていただろう』
     息を飲む。マッシュの心を見透かしているような声色だった。
    「何となくでした」
    『いつか、声でバレるだろうとは思った』
    「配信で出かけた話をするからだよ」
    『そうかもな』
    「どうして、配信で話さないと言ったのですか?」
     お茶を濁すような質問を問いかければ、息を呑む音がスピーカーから聞こえる。
    『これ以上、特定の人を囲うのはよくないと認識したから』
    「わかっているなら、最初からやめればよかったじゃん……」
     マッシュの喉から出たのは、嗚咽が混じった醜い声だ。期待させて、後から大事になりそうだから捨てる。狡い考え方だ。怒りと悲しみで心が満たされていく。
    『……というのは言い訳に過ぎない。嫌になったんだ。配信者あめうさとしてお前に接するのが』
     苦しそうな声色で、ようやく吐き出した言葉には悔しさと寂しさが伝わってくる。マッシュは一つの考えが浮かぶ。まさか、配信者の自分ではなく、その中にいる本来の自分と関わって欲しいことか。
    「それって、自分に嫉妬したってこと?」
     思いついたことを話せば、図星だったらしく、レインから息を飲む音がした。
    『あぁ、お前は古参ファンだから、囲ってもいいかと思っていた。しかし、直接会ってことで、視線の先にいるあめうさが邪魔だと思えた。先日、俺は好きな物には暴走する事実を教えてもらったからな』
    「自覚なかったんだ」
    『止めてくれなかったら、迷惑客になっていた』
     レインは自分の失態に、ため息を一つ吐く。
    「あの時に気づいた。あめうさでお前に関わり続けたら、他のリスナーに迷惑かける。だから、記念配信を境に配信者として接しないと決めた」
     理由を聞いて、マッシュは納得した。配信者とリスナーの線引きが無くなれば、両者ともに悲しむのは目に見えている。
     レインの覚悟を褒め称えたいが、内心自分と関わらない事実を伝えられて、寂しい気持ちもあった。
    『その代わりに…レインとして今後も会ってくれないか?』
     低く震える声が耳につく。真剣に自分と向き合おうとする証拠。マッシュは思わず口角が緩める。答えはイエスしかない。
    「もちろん。でも、僕はあめうさくんは沢山を知っていますが、レインくんのことはわかりません。今度はゆっくりとお話しましょう」
     マッシュの柔和な声を聞いたレインは嬉しそうに『あぁ』と返した。

    11
     あれから一年が経つ。今日はマッシュの推し配信者、あめうさの四周年記念配信だ。急いで家に帰り、パソコンをつける。いつも変わらないウサギの配信画面が現れ、低い声が出始める。
    『こんばんは。あめうさです』
     リスナーたちへのお礼の言葉を述べ、チャット欄は投げ銭が飛ばされる。沢山の人に愛されるあめうさは素敵な人だ。
    『ありがとう。これからも応援よろしくな』
     締めの言葉と共に、『本日の配信は終了しました』と表示される。
     息を一つ吐き、肩の力を抜く。携帯から着信音が鳴る。画面には『レインくん』と映っていた。
    「もしもし、配信お疲れ様」
    『見てたのか……』
    「好きな物をやめるのはできませんよ。でも、一番はレインくんなので、安心してください」
     甘く優しく声かけをすれば、通話越しから息を吸う音が目立つように聞こえる。
    『可愛いことを言うな……なぁ、今からお前んちに向かっていいか?』
    「ええ、記念シューも準備しております。約束通り、SNSに上げてないです。フォロワーさんたちは残念がってましたが」
    『俺のためにある物だから、他の奴に見せる必要はあるか?』
    「独占欲が強いですな」
    『お前と違って、好きな物は独り占めしたい性分でな』
    「欲張りですね。でも、今年の記念シューは特別です……あめうさくんの活動もありますが、僕たちが初めてお友達になった日でもあるから」
     親密な関係を言葉に出すのは恥ずかしく、胸の奥がざわめく。
    『あれから一年間か……』
    「ですね。レインくんと仲良くなれるとは思いませんでした」
    『俺も……でも、俺はまだ満足いかねぇ』
     レインは不満げに呟く。友達以上の濃い名称があるのか。マッシュが唸り声をあげて悩んでいると、痺れを切らしたのかレインから重たいため息がでた。
    『これから先の未来も一緒に歩んで欲しい。お前の全てを俺にくれ』
     マッシュには、レインから発した言葉の意味はまだ理解できない。
    『好きだ。愛している』
     続いた言葉が全てを物語っており、聞き終わった後のマッシュは顔を真っ赤にさせた。
    「もー!!ばかぁ」
     マッシュが机に突っ伏し、悶え苦しめば、携帯から嬉しそうな笑い声が聞こえた。

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    akmo3616ut

    PROGRESS【尻叩き】
    嵐が丘概念の☔
    私得しかない
    序章は☔モブ女しかない
    終盤から☔🍄にしたい
    愛憎と救済のぺトリコール序章
    ――戻っておいで、レイン。
    帰らねぇよ
    ――全てが詰まった黄昏の庭園へ。
    全てを失ったクソな邸宅になんて。
    ――醜悪と慈愛を教えてくれたあの庭へ。
    裏切りと残酷を刻みやがったあの場所に。
    ――暗闇の間から覗く仄かな灯のある花園へ。
    冷たい雨が絶え間なく降り注ぐ荒地に。
    ――血塗れた戦場から、早く帰って来て。
    俺を認めてくれた場所から、絶対に離れない。

     私 は 貴 方 を 待 っ て い る 。
     俺 は お 前 を ぶ っ こ ろ す 。

     嫉妬と愛憎が滲む館で、神覚者を襲った悲劇。

    「うーん。それは自己満足だと思いますが?」

     そして、一人の青年による救済の物語。

    1

     話に入る前に、レイン・エイムズの過去を語らなければならない。彼は生まれながらで痣が二本と、優秀な魔法使いとして生まれた。二年後に弟も誕生し、明るい未来が待っていたのも束の間、両親が突然この世界を去る。悲劇の幕開けだった。身分が全てのこの世界で、後ろ盾がない自分たちには存在価値などなかった。名誉や美徳がある貴族とは対象に、孤児は自堕落、暴力的、不衛生にも劣る存在として認識された。
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