ファンファーレの音を聞け その日、世界に高らかに鳴り響くひとつの音があった。それは終末のファンファーレ。神が世界に見切りをつけた音。不可避の終焉の合図。
その音を聞いたある者は安堵し、ある者は泣き、ある者は笑った。そうして、ハズビンホテルの一室でその音を聞いた地獄の王ルシファー、原初の男アダムはというと──ただ、呆然としていた。何て間の悪い終末だろうかと。
神はご存知だったのだろうか。やっとの思いで心を通じ合わせたふたりの、初デートが明日であることを。
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普段から混沌とした地獄の街中は、終末ともあってさらに混乱を極めていた。荒廃という文字をそのまま風景に起こすとこうなるだろう、といったような目の前の光景に、アダムは思わず眉を顰めた。一歩ごとに血が跳ねるようなありさまのなか、汚れることは諦めたのかアダムの白い衣装は裾から赤く染まり始めている。
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