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    うきご

    @thankshzbn

    ルシアダとかを投げる場所

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    うきご

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    pixivにもアップしている短編小説です。
    こういうルシアダが好き〜と思って書きました。雰囲気。

    月をあげる≒Promise the moon
    できもしない約束、という慣用句です。
    この言葉が刺さりすぎたので、ぜひみなさまのルシアダにおける「Promise the moon」を見せてください!お頼み申します。

    ##ルシアダ

    月をあげる深夜の談話室は薄暗く、弛緩した独特の空気が漂っている。ほとんどの住人が寝静まったなか、アダムとルシファーは誰もいないバーカウンターで酒を飲み交わしていた。
    いつもは煽りあい小競り合い殴りあってばかりのふたりも、この時ばかりは穏やかに昔話に花を咲かせたり、くだらない、取り留めもない会話に興じている。チャーリーがこの場面を目撃したとしたら、「いつもそうやっていてくれたらいいのに!」なんて嘆きそうだ。ふたりの喧嘩でホテルを大きく修繕するはめになったのは、決して一度や二度の話ではない。「頭を冷やしてきて!」とふたりしてホテルを追い出されたり、お互いを知るためと一週間同じ部屋で過ごしたこともあった。それは思い出したくもない悪夢であるが、それが功を奏してか、今では稀にサシ飲みをするまでになっていた。時間帯が誰もいない深夜に限られるのは、間違っても「仲良し」だなんて思われたくない、というふたりの共通認識にあったが、それでも関係性はだいぶ修繕されたと言っていいだろう。
    今日も明日になれば忘れてしまうような話を交わす中で、ふと会話が途切れたとき、ルシファーがなんとなしに質問を投げかけた。
    「お前は明日世界が終わるなら、何をしたい?」
    「ハァ?」
    あまりにも子供じみたイフの質問に思わず呆れた声をあげるアダムだったが、酔いのまわった頭で考えてみることにした。無視をしても良かったが、今は会話をしていたい気分だった。
    「そうだな……朝まで飲んで、セックスして、お前のことを気が済むまでボコボコにして……」
    「酒にセックスに暴力とは、ずいぶん地獄に染まったようで何よりだ! お前の場合元からか?」
    「酒はここに来てからだ。シェイクとか、コーラの方が好きだし……」
    「ガキの舌だな」
    小馬鹿にするルシファーに舌を打ちながら、退廃的な終末を思い浮かべる。誰だって死ぬ前は暴力とセックスにまみれたい。これはエンジェルの談だったか、全く同意する。それでもアダムの心の内には、全く正反対の理想が顔を出していた。
    「それと……」
    「うん?」
    「人間界に行きたい。天国でもいい。地獄じゃないところ──海とか、もう長いこと行けてねえし」
    「海か。確かにもう遠い記憶だな……太陽もいつから浴びてない?」
    「太陽! それだ! 太陽、砂浜、ビーチ」
    「終末に海でバカンスをキメる奴なんか私たちくらいのものじゃないか?」
    「なんでお前と行く前提なんだよ!」
    アダムが驚きにグラスをテーブルに打ち付けると、ルシファーはケラケラと笑い出した。自分でも自覚していなかった点を指摘されて、おかしくてたまらなくなったらしい。
    アダムは深くため息をつきながら、なおその光景を頭に浮かべてみる。水着姿が何も嬉しくないジジイと、ふたり太陽が肌を灼くビーチで泳いだり、日焼けをしてみたり、無駄に高いドリンクとフードを満喫してみたりする。
    もしくはホテルの奴らと、ついでに顔馴染みの悪魔たちを連れて騒がしいバカンスに繰り出すのもいいだろう。リュートやエクソシストの奴らも誘えば来るだろうか、流石にヴァジーとリュートをもう一度引き合せるのは怖いな──なんて考えたところで、ルシファーがやっと笑いのツボから戻ってきたらしい。喉を潤すように酒を飲み、息を吐き出す。
    「でっかいアヒルちゃんボートを浮かべよう。それでそのまま沖まで出る」
    「方舟ごっこか? アヒルちゃんじゃ格好つかないだろ」
    「馬鹿言え、私たちに虹がかかってたまるものか。そのまま終末を迎えるんだ! 嬉しいか?」
    「ゲェ〜ッ、言ってて虚しくねえのかよ? 絶対嫌だね!」
    アダムは若干本気で吐き気を催した。それがルシファーの発言によるものか、飲み過ぎによるものかはさておき気分が悪くなったことは確かだ。まさか鬱に入りかけているんじゃないか、このまま介護コースは勘弁だぞと不安になって顔を覗き込むと、思ったよりも穏やかな目をしていた。それにますます怪訝そうな顔をして、アダムは何だよ、と零す。
    「本当に終末が来るなら、私はそうする」
    一瞬、心臓が止まるかと思った。いや、死んでいるんだから心臓は止まっていて当然だが、そのくらい驚いた。冗談だと思って聞いていたが、そうではないのかもしれない。
    「終末はお前とバカンスだ。その時はお前を抱くよ」
    アダムは何も言えなくなって、手元のグラスの汗を指で拭った。その指は震えている。あまりにも甘美な夢だ。必死に目を背けているそれが、終末というただそれだけで、叶うというのだから。
    「まあ、人間界が滅んだとして、天国と地獄が消える訳では無い。だから、そんな日が来ることも無い」
    「……そうだな。安心した」
    口ではそう言いつつも、アダムの頭には馬鹿みたいなアヒルのボートと、アダムを抱くと言ったルシファーの横顔が焼き付いて離れなくなっていた。叶うわけがない約束をチラつかせて、どこまでも残酷な男だ。
    「もう寝る」
    グラスを持って席を立ったアダムに、ルシファーは何も言わなかった。使い終わったグラスは水につけておかないと叱られてしまう。キッチンでグラスをぬるま湯につけると、残っていた氷がパキパキと音を立てて、溶けていく。それに何かを重ねて、アダムはキッチンをあとにした。ホテルの中は静寂に満ちている。部屋に戻るとき、まだひとりでグラスを傾けているルシファーの後ろ姿が目に入った。
    なんだか呼吸がしにくくて、こんな日はさっさと寝てしまうに限る。ベッドに倒れ込んで、目を閉じた。瞼の裏には、幸せそうに笑うふたりの姿があった。
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