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    うきご

    @thankshzbn

    ルシアダとかを投げる場所

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    うきご

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    そーださん(@gzk_u)の逆行ネタをお借りしました!
    あまあまイチャコラのつもりだったのに全然そうならなかった。反省します

    このまとめかた便利すぎてたぶん新刊でもやる……

    #ルシアダ

     新しくできたというジェラートの店までデートに行った帰り、地獄では珍しくもない唐突な爆発。もちろんアダムもルシファーもそれで怪我をする訳でもなし、一旦は各自で炎と衝撃を防いだのち、煙に視界を遮られながらもルシファーの名を呼んだ。しかし、なんだか様子がおかしいのだ。今踏みしめている地面はコンクリートのはずだが、つるつるとした──そう、例えるなら天国のような感覚がする。
     流石のアダムも警戒しもう一度ルシファーの名を呼ぶが、返事がない。そうして一際大きな爆風に思わず目をつぶると、その瞼を開いた時には懐かしい天国の自室に立っていた。
    「…………はっ?」



     目を開けると自室に立っていた。さっきまで街にいたはずが、アダムがワープを使ったんだろうか。そう思って横を見ても、アダムの姿はない。それどころか、部屋に強烈な違和感をおぼえる。アダムの私物が一切ないのだ。
     楽器屋の店主にえらく気に入られ、タダで持って帰ってきたギターも、何度も読み返している本も、2人で作ったアヒルの人形も。
    「……アダム……?」
     ここまで帰ってきた記憶はないが、私物が無いということは理由は明白。
    「出ていった? まさか、ハハ、まさか……」
     フラフラと部屋中歩き回っても、何も変わることなく時間だけが過ぎていく。今は何時だろうかとスマホの画面を付けると、ルシファーは固まって画面から視線を動かせなくなった。
     そこに表示されている日付は、在りし日のエクスターミネーション、その前日のものだった。このスマホが壊れているのでなければ、ルシファーは過去にいる、ということになる。それならば、自室にアダムの私物がないのも納得がいく。
     どちらにせよ、明日になればわかる事だった。アダムはハズビンホテルまでやって来るだろう。もし、アダムが過去のアダムで、また殺しかけなければいけないとすれば。もし、恋人に戻ることができなかったら。ルシファーは正気を保っていられる自信がなかった。
     憂鬱な気分で出かける準備を始める。ハズビンホテルで、アダムを待つために。



    「セラ! セラー!」
    「なんです、騒々しい」
    「わ、私……なんでここに……」
    「何を言ってるの? エクスターミネーションは明日でしょう」
     日付を勘違いしたの?と眉を上げるセラに、アダムは思わず硬直する。彼女は今、何と?
    「明日……」
    「ええ。……アダム、仮面はどうしました?」
    「仮面? 仮面は随分前に捨てましたけど」
    「……昨日まではしていたと思うけど……まあいいでしょう。くれぐれも、準備を怠らないように」
     そうしてアダムは理解した。今、自分は何故か過去にいて、今日はあのエクスターミネーションの前日であると。
     何故、の部分はさっぱりだったが、ひとまずアダムのやることは決まっている。エクスターミネーションを中止して、ルシファーと合流すること。そうすればルシファーもチャーリー達に説明してくれるだろうし……そこまで考えて、はたと気付いた。
     もし、ルシファーがアダムのことを覚えていなかったら? あの日を繰り返してしまったら?
     アダムはルシファーの顔を思い浮かべて、俯いた。アダムへ愛おしげに笑いかけるその顔が、あの頃のようにアダムを冷たく睨みつけたらと思うと、足がすくんでしまう。アダムはそれにきっと耐えられない。恥も外聞もなく涙を流してしまうかもしれない。しかし、昔のルシファーはそれを気にもとめないだろう。
    「ルシファー……」
     ルシファーに会いたい。どうか自分のことを忘れていませんようにと、アダムは祈るしかなかった。



     エクスターミネーション当日。アダムは殺気立つ天使軍をおさえ、全軍ここで待機するようにと命令した。リュートは危険だと止めたが、それも承知の上だった。例え殺されかけようが、アダムは既に彼らの友人だった。故に、ハズビンホテルのメンバーに危害を加えることはできない。一方的に攻撃されて、そのまま死ぬこともありえた。
    「……まあ、多分大丈夫だ。行ってくる」
    「ボス……!」
     地獄へのゲートを開くと、ハズビンホテルの真上にワープする。オールドバージョンの外装に、こんなんだったかと懐かしむ間もなくホテルの全域をアラスターの結界が覆っていく。
     これを壊せば加害の意思ありと捉えられるだろう。さてどうしたものかと思案していると、下が何やら騒がしい。あれは……
    「ルシファー……」
     ルシファーがアラスターに何かを訴えかけている。かと思えば6枚の翼を広げて飛び立ち、そのまま結界をいとも簡単に壊してしまった。上からだとホテルメンバーの唖然とした顔が良く見えて、アダムは思わず笑みをこぼす。ほとんど確信に近い。
    「アダム!」
     そして今、確信した。
    「ルシファー!」
     ああ、彼はアダムのことがわかるのだ!
     目にも留まらぬ速さでアダムめがけて突っ込んでくるルシファーを、アダムは易々と受け止め、そうして強く、強く抱き締めあった。
    「アダム、私のことが分かるな!?」
    「良かった、ルシファー……! 覚えてたんだな……!」
     頷いて言葉を返すうちに、アダムの目から自然と涙が溢れていた。ルシファーがこちらに飛んでくるまで、アダムの心中は不安でいっぱいで、忘れられる覚悟なんてまるでできていなかった。
     安堵と喜びで力が抜けて、地に落ちてしまいそうになるのを必死に堪えながら再会を分かちあっていると、ルシファーの手のひらがアダムの頬に触れた。アダムは頬を綻ばせ、その手に頬を寄せる。それは2人にとってごく自然なことだった。そしてごく自然に唇を重ね合わせる──と同時に、地上からチャーリーの悲鳴が聞こえた。
    「……ルシファー、チャーリーに説明したか?」
    「いや……」
     下を覗くと可哀想なほどにパニックを起こしたチャーリーがヴァギーの肩を揺さぶって何やら喚き散らしているのが見える。さすがに気まずくなった2人が降りようとすると、今度は逆側からアダムを呼ぶ声がする。
    「ボス! 大丈……」
    「あ〜……」
     心配で我慢ならなかったのか単騎飛び出してきたリュートはまずアダムを視界におさめ、無事を確認して──アダムとルシファーが抱き合っているのを認識すると、その動きを止めた。
    「リュート〜? 一旦、落ち着け、なっ?」
    「…………はい……」
    「いい子だ! それで……」
    「ボス〜!!!」
    「うわあ!!」
    「だってアダムよ!? アダムとパパ、アダムとパパが……ヴァギー! 私まだ夢の中なの!?」
    「落ち着いてチャーリー! 私だってわからない!」
     ハズビンホテルは大混乱だ。まだ下でパニックを起こしているチャーリー、それを宥めるホテルメンバー、放心するリュート、わらわら押しかける天使軍。そして、どうしたものかと頭を抑える元凶ふたり。そうしてルシファーはアダムの腰を抱くと、アダムへ頭を寄せて呟いた。
    「とりあえず……話をしよう」
    「だな……」



     全軍を撤退させたのち、アダムは正式にエクスターミネーションの中止を宣言した。ルシファーの用意した正式な書類にもサイン済みだ。チャーリー含むホテルメンバー達は、それを信じられないような目で見ていた。
     それもそうだろう。少し前まで全員殺すと宣っていた男が、今は自陣営の総大将の父親とイチャコラつきながら虐殺を辞めると言っているのだ。
     アダムとルシファーは至極いつも通りにしているつもりだったが、そのいつも通りがほかの面々には見慣れない光景であったし、再会の喜びを抑えきれないのか距離がやたらめったら近い。肩が触れる距離でソファに腰掛け、お茶を飲んでは美味いなと顔を寄せ、今にもキスをしそうな勢いだ。その光景にめまいを覚えながらもチャーリーは話を切り出すべく息を吸い込んだ。
    「それで……その、話って……」
    「ああ! そうだね、何から説明するべきかな……えー……アダムは私のもう1人の妻なんだが」
    「妻!?」
    「このバカ!」
     アダムの振りかぶった拳は勢いよくルシファーの頭を叩く。全くダメージの入っている感じはしないが、ルシファーは様式美とでも言うように頭をさすると、なにかダメだったかな?と首を傾げた。
    「何もかもダメだ! ほら見ろ、チャーリーが混乱してる!」
    「つま……」
    「事実じゃないか」
    「順序ってものがあるだろ!」
    「あー、アダム? チャーリーとっくに混乱してると思うから、いいと思う」
     エンジェルが笑うと、アダムは一旦口を噤んだものの、すぐにまた喋り出した。今度はよく順序立てて、まず、結論から。そして時系列順に事の顛末を話し、質疑応答を受け付ける。
    「つまり……あなた方は未来から来た、と?」
    「そうだ」
    「それで、付き合ってるって? いや、結婚?」
    「結婚している。もちろん簡単な道ではなかったし、アダムとも色々あったが、今は何より大切だよ。もちろん、チャーリーもね」
     チャーリーに向かってウインクを飛ばすルシファーだったが、チャーリーの表情が暗いことに気付くと眉を下げる。これはわかっていたことだ。しかし愛しい娘ならばわかってくれるだろう……その予想に反して、チャーリーの絞り出すような声がしんとした談話室に響く。
    「わからないわ……パパ。だってアダムよ? 確かに私は、どんな人でも必ず更生できるって信じてる。でも、そんな、急に言われても……」
    「……いや、それでいいんだ」
    「アダム?」
    「わかってる。それだけのことをしたし、許してもらおうなんて思っちゃいないが……」
    「……」
     実のところ、娘のように、姪のように可愛いがっていたチャーリーにこのような態度を取られるのは流石のアダムもこたえていた。しかし同時に、彼女にしたことに負い目を感じていることも事実だ。彼女はアダムの知っているチャーリーのように、「もう過ぎたことじゃない、気にしすぎよ!」と笑ってはくれない。
     気遣わしげにアダムの手を握るルシファーに、アダムは安心させるように微笑む。
     チャーリーがアダムを責めるなら、アダムはそれを真摯に受け止め、いつか信じて貰えるように努力する。それがアダムの責任であり、矜恃だった。
    「……アダム……」
    「チャーリー、急に来て悪かった。それでも、今この状況でルシファーと離れるのは避けたい」
     だからここに置いてくれないか、そう切り出す前に、チャーリーが真っ直ぐこちらを見据えた。その眼光には、確かにプリンセスにふさわしい覚悟があった。
    「わかった。あなたを信じる」
    「……いいのか?」
    「誠意には誠意で返すのが私流よ! アダム、あなたを歓迎するわ。ハズビンホテルへようこそ!」
     
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    Replies from the creator

    うきご

    DONEpixivにもアップしている短編小説です。
    こういうルシアダが好き〜と思って書きました。雰囲気。

    月をあげる≒Promise the moon
    できもしない約束、という慣用句です。
    この言葉が刺さりすぎたので、ぜひみなさまのルシアダにおける「Promise the moon」を見せてください!お頼み申します。
    月をあげる深夜の談話室は薄暗く、弛緩した独特の空気が漂っている。ほとんどの住人が寝静まったなか、アダムとルシファーは誰もいないバーカウンターで酒を飲み交わしていた。
    いつもは煽りあい小競り合い殴りあってばかりのふたりも、この時ばかりは穏やかに昔話に花を咲かせたり、くだらない、取り留めもない会話に興じている。チャーリーがこの場面を目撃したとしたら、「いつもそうやっていてくれたらいいのに!」なんて嘆きそうだ。ふたりの喧嘩でホテルを大きく修繕するはめになったのは、決して一度や二度の話ではない。「頭を冷やしてきて!」とふたりしてホテルを追い出されたり、お互いを知るためと一週間同じ部屋で過ごしたこともあった。それは思い出したくもない悪夢であるが、それが功を奏してか、今では稀にサシ飲みをするまでになっていた。時間帯が誰もいない深夜に限られるのは、間違っても「仲良し」だなんて思われたくない、というふたりの共通認識にあったが、それでも関係性はだいぶ修繕されたと言っていいだろう。
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