この腕の中に閉じ込めたい彼女のことを愛おしいと思い始めたのはいつだっただろう?
私の中にこのような感情が芽生えるなど思いもしなかった。
ただフリーナが愛おしく、私の腕の中に閉じ込めてしまいたい。そう思った。
そんな思いを抱えていたある日、フリーナの目が一時的に見えなくなった。
「魔物の毒に当てられたのね。数日すれば見えるようになると思うわ」
「そうか。フリーナ殿。少しの間、パレ・メルモニアで過ごして欲しい。今の君はあまりにも無防備な状態。何かあれば大変だ」
目に包帯を巻かれたフリーナは小さく頷く。
「今回ばかりはキミのお世話になるよヌヴィレット。迷惑をかけるね」
迷惑などでは無いと言いたいが今はその言葉を飲み込み彼女の頬を撫でる。
「シグウィンありがとう。後は私が全て行うので心配はしないで欲しい」
「分かったわ。これはお薬。毎食後に飲ませてあげて?体に異変があるならウチに伝えてね」
「ああ」
「ありがとう。シグウィン」
「どういたしまして。じゃあウチは帰るわね」
シグウィンは部屋を出て行く。
私はフリーナを抱き上げる。
「ヌヴィレット……」
「君の目が見えるまで私が全て身の回りのことはするので安心して欲しい」
「ありがとう……」
シグウィンの前では普通に振舞っていたが目が見えないことはかなりの恐怖も不安があるのだろう。フリーナの体は震えている。
彼女の背中を撫で、私はパレ・メルモニアに急ぎ足で向かったのだった。
パレ・メルモニアのスイートルーム
この部屋はフリーナが去った後、時の流れを止めたようになっていた。
誰もこの部屋を使うものはおらず部屋の中は彼女が今までフォンテーヌの民から貰った賞などの盾やトロフィーが飾られている。
他にはフリーナが好んで集めたガラス細工。
水神の自分は全て演技だと言っていたフリーナだが、ガラス細工などはきっと彼女の可愛らしいもの好きが表に現れたものなのだろう。
フリーナをベッドに降ろし、彼女の手を握る。
「ヌヴィレット…」
「君は今日からこの部屋で過ごしたらいい。目が見えないので動く時は私がいる時にしてもらいたい。怪我をしたら大変だ」
「分かった。迷惑かけてごめんね」
「迷惑とは思って居ない」
このような時ほど甘えて欲しいと思うがそれはフリーナにとって難しいことなのだろう。
だが少しづつ、少しづつ彼女を私の腕の中に閉じ込めてしまえば良い。
そう思い私はフリーナの額にキスを落とす。
愛おしいという気持ちを込めるとフリーナは、私の頬に手を添える。
「キミがいるだけで、凄く安心できるよ。ヌヴィレット」
私の顔を確認するように彼女は私の頬を撫でたり両手で包んだりし、またそれが愛おしく私は彼女の手を握ったのだった。
フリーナside
散歩をしていたら、魔物に襲われて目が見えなくなった。
目が見えないと、動くのも大変だけどヌヴィレットが甲斐甲斐しく世話をしてくれるから不自由はない。
パレ・メルモニアに来てから数日。少しだけどこの目が見えない生活にも慣れてきた。
シグウィンは数日って言ってたけど、今のところ視力が戻る気配は無い。
ベッドの横にある窓を触り開けようとした時だった。
「フリーナ。そのようなことは私がするのでしなくていい」
「ヌヴィレット……」
手を握られ、ヌヴィレットの匂いを傍に感じる。
体に少し重みを感じて、カチャリという音がし窓が開く。
ヌヴィレットが開けてくれたのだ。
「ありがとうヌヴィレット」
「どういたしまして。何かあれば私に言って欲しい。目が見えないのはあまりにも危険だ」
「ごめんね。出来ると思ったんだ」
ヌヴィレットは僕の頭を撫でる。
この数日、こうしてヌヴィレットと暮らしてヌヴィレットの優しさに触れてドキドキしてしまう事が増えた。
「フリーナ」
「ヌヴィレット……んっ……」
額にキスを落とされて、そのままベッドに押し倒される。
頬を撫でられて、太ももを撫でられる。
「あ…」
目が見えないから触られたらいつもより敏感になってしまう。
ヌヴィレットとこういう甘い関係になったのはこの部屋に来た次の日だった。
なんとなくヌヴィレットの膝に座って抱きついてみたらそのまま……
長い時を一緒に居たから、嫌な気はしなかった。
男女の関係というにはまだ浅いけど、それでも落とされるキスや優しく触られたら甘く溶けてしまいそうだ。
「フリーナ……」
ヌヴィレットの低い声にドクリと心臓が鳴る。
「ヌヴィレット……」
「好きだフリーナ君のことが愛おしい」
ヌヴィレットの告白に僕は嬉しくなる。
彼の表情が見えないのは残念だけど嬉しくてたまらない。
僕はヌヴィレットの頬を包み込む。
「フリーナ……」
「僕もキミのこと好きだよ」
「ありがとう。フリーナ」
「目が治ったらまた告白して?」
「分かった。次は贈り物も用意しておこう。人間は告白する時贈り物をすると聞いた」
「ふふ、楽しみにしているね。」
そうして僕とヌヴィレットはベッドで甘い一時を過す。
こんな生活が続くなら目がもう少し見えなくてもいいかもしれない。
そう思いながら僕はヌヴィレットのキスを受け入れたのだった。
end