それらすべて気の狂う日常「お兄ちゃんと言ってみろ」
「お兄ちゃん」
答えた瞬間に出た、長い長い村雨の溜息は過去最大級のものだった。大抵の場合、村雨の言動にはなんの前触れもない。初めて獅子神と村雨の出会った時、真経津が「耳が聞こえていても話が通じない」と言ったのもあながち間違いではなかった。
「もっと弟らしく心からの信頼と憧れを込めて言えんのか」
「ちょっとよく分かんねえ、説明しろ」
「私ほどの弟ともなれば周りが勝手に兄になるからな」
村雨曰く、弟の立場しか味わったことのない身として、知見を広げるために一度兄の立場に立っておくべき、らしい。
(聞いてもよく分からねえ……)
考えようとすればするほど獅子神のこめかみ辺りがツキツキと傷んだ。あのタッグマッチ以降、少しばかり成長したと思っていた自分の甘さを痛感する。ともに過ごす時間が長くなっても、村雨礼二という男は未だ底知れない。
1690