やり直しましょう、お姉ちゃん①都内某所、料亭の一室にて
「えっ?別に僕いなくて良くない?」
数年ぶりに会ったお姉ちゃんはヘラヘラ笑いながらそう言った。
AFOとの戦いが終わり、俺の目指すヒーローが暇を持て余す世界が近づいてきた。
いや若干ではあるけどね。ヴィランが全くいないって訳じゃないし。まあそれでも、平和な日が続いて俺とエンデヴァーさんとベストジーニストさんが3人で飲みに歩くことができるようになった。コレって凄いことだと思うよ?とエンデヴァーさんの家のコタツに入りながら自画自賛する。
何が言いたいかっていうと、結論から言うと、エンデヴァーさんと付き合うことになりました。
「はー………………ここまで長かったぁ」
「貴様、さっきから何をぶつぶつ言っとる」
「いやぁ……なんか感慨深いなって思いまして…」
だって俺がガキの頃からずーっと憧れとった人と付き合うんよ!? この事実を噛み締めたくもなりますよそりゃ…。相談に乗ってくれたジーニストさんに感謝せんと……途中からめちゃめちゃ雑になっとったけど。
「何がだ……まあいい。それよりホークスお前……その…」
「何ですか?同性とのお付き合いの経験ですか?それとも性行為の経験?安心してください!どっちもエンデヴァーさんが初めてで「違うわ馬鹿者!!俺はお前の親族について聞きたいんだ!!」……………俺の親族?家族ってことですか?」
「その、付き合うにあたり、やはり同性というのが引っかかる奴もいるはずだ。その辺りの説明というか、同意をだな…」
「真面目ですねぇ……。ん?この間エンデヴァーさんのご家族さんから『よろしくお願いします』って言われたんはもしかしてその同意ってやつですか?」
「ああ………。まあうちの家族曰く『2人が好きあってるのバレバレだったよ』『親父の老後の面倒よろしくお願いします』と…」
「あっはっはっはっはっはっはっはっは!…………………マジか……バレバレやったんか………」
やば……俺絶対今顔赤い……。あ、エンデヴァーさん若干顔赤い。
にしても家族ねぇ…………。親父はエンデヴァーさんに捕まって獄中、母さんとは関係を抹消しとるし、他に家族っていったら誰も…………………………あっ、嘘。おった。あのぶっ壊れとった家の中で、いつもニコニコしとって、優しくて、暖かくて、俺が唯一大好きだった人が。…………でも何年も連絡取ってないしなぁ。てか当時の俺めちゃめちゃ迷惑かけとった気がするし……。家族とか言ってもいいんだろうか…。あの人の迷惑にならんかな……。
でも……………………許してくれるなら、俺の大切な人を家族に紹介したい。俺今幸せだって、見せてあげたい。許してくれるかわからんけど…昔迷惑かけたこと謝りたい。
「…おいホークス。どうした?」
「あー、いや、何でもないです!えーと家族ですよね?いますよ!姉が1人!まあ公安に入って以来会ってないんですけどね!」
「会ってない?なぜだ?仕事か?」
「それもあるんですけど!俺はヒーローであっちは公安なんで!……まあ、ガキの時に色々迷惑かけてるんで……手間のかかる弟になんて会いたくないのかも、なーんて、ははは…」
「……………………」
公安で訓練し始めた時から会っとらんし、プロ入りしてからも会っとらんし…まあプロ入りしてから会っとらんのは俺が福岡を拠点にしたからってのもあると思うけど…でも公安のオフィス行っても1回も会わんのはおかしくない?これはもう嫌われとるとしか思えん…あヤバちょっと涙出てきた。会えなくて泣くって、俺意外とお姉ちゃんのこと好きなんかな?
「……………………………………………でも、ちゃんと、エンデヴァーさんとのこと報告したいんで、今度会いに行ってみます」
「………そうか、わかった。日にちが決まったら俺にも言え」
「はい………わかりました」
俺はエンデヴァーさんが差し出したティッシュを1枚もらった。
あ、お姉ちゃんの連絡先知らん。目良さんに聞いたらわかるかなぁ。
エンデヴァーさんと話をした次の日、俺は目良さんに連絡してお姉ちゃんと話がしたいことを伝えた。目良さんはめちゃめちゃ意外そうに「はあ、わかりました。彼女の連絡先教えるので当事者で日程決めちゃってください」と言ってきた。いや公安の人間の連絡先そんなに簡単に教えていいんですか?って聞いたら、いいでしょ。君たち家族なんですからってさ。軽いなぁ…公安…。
目良さんから教えてもらった連絡先に電話するのは死ぬほど緊張した。マジで。エンデヴァーさんに告白した時より緊張した。電話のコール音がいつ消えるかヒヤヒヤしたけど3コールで消えた。3コール以内で電話出るなんでお姉ちゃん社会人ができとるね!流石ばい!とか変なテンションになった。
『はい、どちら様?』
「あっ、えっ、あ、ああああああの、俺、その、えっと」
『………………………………………………………………その声はホークスかな?どうしてこの番号を?誰から教えてもらった?』
「め、目良さんから…その、お、あ、あなたと、話がしたくて、できたら、会って話がしたい、ので、連絡先教えてもら、い、ました」
『…僕と、会って話ねぇ』
お姉ちゃんの声聞くんいつぶり…?てか一人称「僕」やったっけ…?ダメだお姉ちゃんのこと全然覚えてない。こんなんで俺、弟とか言ってもいいんか…?弟失格なのでは?人間失格ならぬ弟失格?恥の多い人生を送ってきましたってか?せからしか。
『………おーい、ホークス?聞いてる?』
「っはい!聞いてます!すんません!」
『いや謝らなくていいけど(笑)会って話すっていつ?場所は?』
「そ、れは…何も、決めてな、くて、その、」
『そっか。じゃあキミの方が忙しいと思うからキミの休みの日か休みの前の日とかはどう?場所は個室がいいだろうからこっちで用意するよ。それでいいかな?』
「えっ、あっ、は、はい。えっでもよかと?」
『いいよいいよ。僕の休みなんてあってないようなものだし』
「それは所謂ブラックってやつでは…?」
『公務員なんてそんなもんだよ(笑)それにそろそろ代休と有休使わないと無くなるし上から怒られるし、丁度いいや』
「代休と有休無くなるってどんだけ働いとるん!?休んで!?」
『大丈夫大丈夫。朧ちゃんてば無敵だから』
「某スマホゲーの新選組3番隊隊長cv.石◯界人みたいなこと言わんで!?」
『あっはっはっはっはっはwwwwwはーwwおもしろ………で、いつにする?すぐ決まらないならまた連絡するとかでもいいよ?』
「あ、ちょ、ちょっと待って」
スマホのスケジュールを確認する。エンデヴァーさんと共有できるスケジュールアプリ入れといてよかった…。えーっと俺とエンデヴァーさんの休みの日は…。
「…◯日とかは?」
『◯日ね、りょーかい。後で店の位置情報送るね。時間は?昼?夜?』
「ひ、あ、いや、夜で、オネガイシマス…」
『夜ねー……20時とかでいいかな?』
「ハイ、ダイジョウブデス」
『なんかカタコトになってない?………予約人数は2人でいいのかな?』
「えっと、その、2人、じゃなくて、3、人で、お願いします…」
『……りょーかい。3人で予約しとくね。………………その他用件は?』
「………………特にない、です」
『オッケー。じゃ、当日に』
ブツッと電話が切れる。
…………………………………………めちゃめちゃ緊張して何故か敬語になっとった。いや途中で完全に素の俺出たけど。あれはしゃーないって。てかお姉ちゃん意外とゲラゲラ笑うな……ニコニコ笑ってるとこしか覚えてなかったけど。でも怒った感じや迷惑そうな感じは一切無かった、ってことは、俺は嫌われてはない、ってことでいいのかな…。いや公安の人間ならその辺りも訓練されてるか?じゃああのフレンドリーな感じは演技?でも(疎遠だったとはいえ)弟との電話で演技するか?……………………………………………わからん。お姉ちゃんの性格がわからんけん演技したかどうかもわからん。ほんと、こんなん、弟失格やん。
「はー…つら…涙出そう……」
「…師よ、すまない。今良いだろうか?」
「お、っと…いいよツクヨミくん。何かあった?」
あっぶな、ここ事務所やった。危うく泣いとるとこツクヨミくんに見せちゃうとこだった。そんな情けないNo.2は見せれん。
「報告書を提出に参じたが…何かあったのか?泣きそうな顔をしている」
「えっそう?なんにもないよー?大丈夫大丈夫!」
「………そうか、失礼した」
…………………ツクヨミくん、顔に「心配です」って出てるよ…もー…ポーカーフェイスくらいできるようにならんと……優しい子だなぁ……まぁポーカーフェイスできてなかったのは俺もか。でもこれは俺の問題だから、ツクヨミくんを巻き込むのは違う気がする。てか巻き込むの申し訳ない。
「……………………………全部解決してから説明しよう」
「師よ、何か…?」
「いいや、こっちの話。さて、今日も頑張りますか!」
後でエンデヴァーさんに連絡せんと。