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    kurayoshi_9

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    kurayoshi_9

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    #hrakプラス #hrak夢
    👖さんと某有名な部屋に閉じ込められた話。
    次はリス限になる予定です。

    閉じ込められましたよ、お姉ちゃん① 目を開けると、知らない天井だった。なんて経験初めてなんだけど。
    「ここは…?というか僕さっきまで仕事中だったはず…?」
    「起きたか、朧」
    「ベストジーニスト?なぜあなたまで…」
     ホテルのような広い1室に僕とベストジーニストはいた。いや本当にこれどういう状況?まったく理解ができないんだが?ひとまずベッドから起き上がり、必死に記憶を呼び起こす。確か…エンデヴァーと啓悟とベストジーニストと仕事することになって…ヴィランのアジトに行って…案の定戦闘になって…ヴィランの1人がベストジーニストに個性使おうとしてたから…。
    「…僕がヴィランとベストジーニストの間に割り込んで、そのままヴィランの個性に巻き込まれた?」
    「まったく君は危険なことをする…」
    「す、すいません…咄嗟に体が動いてしまって…」
     まあ咄嗟に動いたくせに守り切れてないのだけどね…不甲斐ない…。
     僕は辺りを見渡す。至って普通の部屋のようだけど…異様にベッド大きくないか?キングサイズ?それに2つの扉…片方は出口として、もう片方は?
    「ベストジーニスト。後ろにある扉は開きました?」
    「片方は開かなかった。もう片方は開いたが…出口ではない」
    「出口ではない」
    「浴室だったよ」
    「浴室」
     何で浴室?
    「………浴室の件は置いといて、開かない扉ですが…」
    「こちらだ」
    「ありがとうございます。鍵穴があるようですが…」
    「個性を使って開けれるか試したが駄目だった」
    「なるほど、ピッキング不可…力尽くではどうでしょう?」
    「ご覧のとおり壊れなかった。まあ私のパワー不足という可能性もあるが」
    「んー…じゃあもう一度力尽くでやってみましょうか」
     僕もパワーがあるわけではないけど、一応鍛えてはいる。やってみる価値はあるだろう。そういえば僕ってどれくらいパワーあるんだろう…?オールマイトやエンデヴァーほどではないとして、啓悟よりはある…よね?今度腕相撲でもしてみようか。とりあえず扉を思いっきり殴る。ビクともしない。次に蹴る。こちらもダメ。
    「傷一つつかない…と。じゃあ次です。ベストジーニスト、離れてください」
    「わかった」
     ベストジーニストは後ろにいてもらって、僕は個性を使ってベッドの重さを希釈して持ち上げる。
    「万が一跳ね返ってきたらフォローしてもらってもいいですか?」
    「任せろ」
     そのままベッドを扉に向かって投げつける。ベッドは大破した。なのに扉は壊れなかった。どういうこと?何ならベッドの残骸は瞬時になくなって、また新しいベッドが出てきたんだけど?
    「敵の個性…ですよね」
    「閉じ込める個性…脱出は個性の持ち主次第、または何かしらの条件を達成する、といったところか」
    「まあそんな感じですよね。ならこの部屋のどこかにその条件が書いてあると思うのですが…」
     と、その時どこからともなく段ボールと封筒が落ちてきた。タイミング良いな…どこかで見てるのか?いやでもこの個性が件のヴィランとして…エンデヴァーと啓悟の2人と戦いながらこちらの様子を見る?オールマイトでもない限り無理でしょ。となると自動?
    「……考えていても何も始まらないですし、とりあえず落ちてきたもの確認してみますか?」
    「そうだな。ではまず封筒からみよう」
     ベストジーニストが封筒を拾う。封筒は膨れていないので、危険物はおそらく入っていないはずだ。それでも何かあった時のことを考え、瞬時に個性を使えるように身構えておく。
    「開けるぞ……手紙か?どれ…」
     三つ折りにされた紙を開く…と、突然ベストジーニストの顔が険しくなった。
    「ベストジーニスト?何か書いてありましたか?」
    「……………」
     ベストジーニストは無言で紙を手渡してきた。なになに…。
    『セックスまたは媚薬を全て飲み切らないと出られない部屋』
    「…………………………………………………はぁ?」
     自分でも驚くくらい低い声が出た。何そのエロ同人誌みたいな部屋。というかどんな個性だよ。セックスまたは媚薬を全て飲み切らないと出られない部屋を作る個性?それとも特定の条件を付与した部屋を作る個性?もし後者ならこの個性の持ち主は戦闘中にエロ同人誌みたいなことを考えていたってこと?ふーん余裕だねぇ?ぶっ殺すぞ?
    「随分と舐めてくれるじゃん…?」
    「朧、ヴィランに間違えられそうな顔してるぞ?落ち着け。救出されるのを待てばいい」
    「はー………すいません。あのヴィランが戦闘中にこんなくだらないこと考えてたと思うとイライラしてきて…」
    「確かに…誰かに個性をかけることを虎視眈々と狙っていたと思うと怒りが込み上げてくるな…」
    「ここから出たら一発殴っていいですかね?」
    「それはヒーローとしてアウトデニムだ」
     僕ヒーローじゃないからいいのでは?とか言ったら怒られるかな。まぁいいや。どさくさに紛れて殴ろう。
     僕はベッドに腰掛けた。救出されるのを待つのはいいけど、そもそも僕らが個性にかかったことをみんな気付いているのだろうか…戦闘中に連絡が途絶えたら気付くか…?気付いてくれる…よね?大丈夫だよね?信じてるぞ啓悟…!もちろんエンデヴァーも…!
     でも最悪誰にも気付かれていなかったら……その時は例の条件を達成するしかない……僕はともかく、No.3の不在なんて各方面にいろいろと迷惑をかけるに違いない。特にモデル業…!ベストジーニストのファンとして、それだけは断固阻止しないと…!!こんなことの所為でベストジーニストの仕事がおじゃんになったらと思うと………うわぁ無理……絶対無理…もし本当にそうなったらヴィラン殺す……ありとあらゆる恐怖と苦痛を味あわせてからぶっ殺してやる…。
    「…朧?」
    「すいません…ヴィランへの怒りが止まらなくて…」
    「そんなにか?今日大事な予定があったのか?」
    「いや僕じゃなくてベストジーニストに迷惑が…ま、まぁそれは置いといて、解除されるまで待ちますか」
    「……そうだな」
    「…………」
    「……………」
    「………………………………しりとりでもします?」
    「…リトマス試験紙」
     するんだ…。


    「マ、マ…マントル」
    「ルーマニア」
    「…灯」
    「リソスフェア」
    「あー…朝」
    「酸素」
    「そ…そ……ソナタ」
    「種植え」
    「えー………………エア」
    「アトモスフェア」
    「あ……あー…」
     あれからどれくらい経ったかわからないけど、相当な時間は経ったと思う。なんせもう言葉が出ないからね。「あ」から始まる言葉…「あ」………「あ」…。
    「まだか?」
    「あー……アミノ酸?あ、「ん」がついちゃった…」
    「中々白熱したな。しりとりをここまで長時間したのは初めてだ」
    「僕もですよ。まぁ時計がないのでどれくらいしたかわからないんですけどね」
     僕が知ってる語彙を全部出し尽くした気がする…ベストジーニストはまだまだ出そうな雰囲気だ。こりゃ勝てないよ。
     それにしても本当にどれくらい時間が経ったんだろう…不安になってきた。ヴィランのアジトに乗り込んだのが夜だったけど…さすがに日は跨いでないよね?大丈夫だよね?うわぁ…本当にベストジーニストの仕事に穴開けたらどうしよう…胃がキリキリしてきた…。
    「不安か?君らしくもない」
    「不安ですよ…ベストジーニストの仕事に穴開いたらどうしよう…ファンに顔向けできない……謝罪行脚しないと…」
    「そんなこと心配していたのか君は」
    「僕にとってはそげんことやなかばい!」
    「方言出てるぞ。落ち着け」
     ベストジーニストの仕事に穴が開くってことは、ベストジーニストの出演する番組が無くなったり雑誌の発売が遅くなるってことですよ!?そんなの楽しみにしてるファンが泣くようなこと僕は許さん!絶対に!!絶対にだ!!!どんな手を使ってでも!!!!脱出してやるからな!!!!!!!
    「朧、殺気をしまえ」
    「すいません……」
     息巻いたのはいいけど…今のところ脱出方法って『セックス』か『媚薬を飲む』の2択なんだよね…雄英の通形くんみたいなことできたらいいのに…残念ながら僕はできない。壁を希釈してみる?いや木材なら希釈して脆くできるけど、個性なら希釈の仕様がない……不甲斐ない…もっと個性を伸ばさなきゃ……かくなる上は…条件を達成させる、つまり『セックス』か『媚薬を飲む』…!
     僕は床に置きっぱなしの段ボールを開ける。中にはピンク色の液体が入った小瓶がぎっしり詰まっていた。小瓶の大きさはチョ◯ラBBくらいで本数は10…30…40本くらいか?意外と少ない…?あ、2段目がある。じゃあ80本か。ふざけんな。
    「おい、何をするつもりだ」
    「何って…飲もうかと」
    「は?」
    「No.3が長時間不在というのも中々危険ですし、脱出方法があるならアレコレ考えずにやってしまった方が早いです。それに媚薬だったら僕の個性使って効果を希釈できるかと」
    「本気で言っているのか?」
    「本気ですよ。80本分の媚薬の効果…完全に希釈し切れるか保証はありませんが、この場にはベストジーニストしかいませんし、目を瞑ってもらうとか…あ、浴室の方に行ってもらう方がいいかも?まぁ万が一ヴィランが見ていたとしても別に僕は気にしませ「本気で、言っているのか?」
     怒気をはらんだ声の方を見ると、ベストジーニストが僕を睨んでいた。えっ……僕なんかした…?
    「本気で…本気でヴィランに見られても気にしないと?媚薬の効果を完全に希釈し切れないとわかっているのにか?」
    「ベ、ベストジーニスト…?」
    「黙って聞いていれば…君は自己犠牲がすぎる。私の仕事?長時間不在?それがどうした。仕事はSKがスケジュールを組み直してくれるし、長時間不在もエンデヴァーやホークス…他のヒーロー達がいる。お前は私のSKやヒーロー達を信用できないのか?だから何でも自分でどうにかしようとしているのか?」
    「そういう訳では…」
    「じゃあどういう訳だ」
     ベストジーニストが僕をベッドに押し倒す。僕は反射的に押しのけようとしたけど、腕が動かない。何で?見ると繊維が絡まっていた。体はベストジーニストに押さえつけられ、全く動けなくなっていた。
    「確かに君は優秀だ。戦闘もできるし事務仕事もできる。何でもこなしてしまうとても優秀な女性だ。だが、ほら、こうしてすぐに拘束できてしまったぞ?ここからどうする?1人でどうにかできるのか?できないだろう」
    「……………」
    「頼りなさい。他人を信用しなさい。自分を犠牲にするのはやめなさい…………わかったか?」
    「…………………はい。ごめんなさい」
    「わかればいい……すまない。怖がらせたな」
     拘束を解き、子どもを慰めるように優しく頭を撫でてくれる。怖かった。すごく怖かった。相手がベストジーニストでよかった。もしこれがヴィランだったら…僕は……。
     最悪の事態を想像する。身動き取れずにヴィランに蹂躙される僕。誰からも助けてもらえず、僕は屈辱を受ける。なんて嫌だ。絶対嫌。怖い…怖いよぉ…。
    「脅かしすぎたか…本当にすまない」
    「…………ぼくも、ごめんなさい…はんせいしました…」
    「ならいいが…涙目になっている。すまなかった…もうしない…」
     ベストジーニストは僕を抱きしめて背中を撫でる。いやベストジーニストはもう怖くないんだけど…まぁいいや。ベストジーニストにも少し反省していただこう。僕はベストジーニストの胸に猫みたいにぐりぐりと頭を擦りつける。
    「だが、朧も反省してもらおう。ヴィランにあられもない姿を見られても気にしないなど…私を嫉妬で狂わせたいのか?」
    「………………………………………………………………………嫉妬?」
    「好きな女性のあられもない姿を他人に見せたくないし嫉妬するのは当然だろう?それとも何だ?お前のそういう姿を見たクソどもを殺すところが見たいのか?」
     は?待て?嫉妬?好き?誰が?ベストジーニストが?僕を?は?待って?啓悟助けて?今すぐ助けて?君の出せる最高速度で助けて?あ、いや待って、とりあえず、ひと言だけ言わせてほしい。
    「…………………………………………………………いわん」
    「ん?」
    「………………ベストジーニストはそんなこと言わん!!!!!!!!!」


    「あ、2人とも!大丈夫ですか!?個性をかけたヴィランは確保済みです!怪我はしてませんか!?あとお姉ちゃんジーニストさんに何もされとらん!?大丈夫やった!?」
    「あ……………うん……大丈夫」
    「……………………ちょっとジーニストさん?お姉ちゃんの顔が真っ赤なんですけど、何しやがりました?」
    「特に何も」
    「お姉ちゃん?ジーニストさんが言ってることほんと?」
    「……………………………………………………ほんとほんと」
    「はいダウト!!!!!お姉ちゃんどうしたん!?嘘が下手になっとーばい!?それで公安が務まると!?」
    「ごめん啓悟今は何も言わんで……」
     僕はこの場から離れ、エンデヴァーのところへ避難した。啓悟はベストジーニストに食ってかかっている。対するベストジーニストはそんな啓悟を軽くあしらっていた。大人に反抗する子どもみたいだよ啓悟…。
    「無事か?」
    「肉体面では無事です」
    「……ジーニストと何かあったのか?」
    「…………………………………………ベストジーニストに告白されました」
    「何だ、やっとか」
    「…………………は?やっと?どういうことですか?」
    「どうもこうも、奴はかなり前からお前のことを好いていたぞ?気がつかなかったのか?」
    「…………かなり前っていつからですか?」
    「…お前とジーニストが初めてチームアップをしたことがあったろう。あの頃には既に好いていたと言っていた」
     初めてチームアップしたの2年くらい前なんですが……つまり2年近く片思いだったの?あのベストジーニストが?衝撃の事実過ぎて、僕は思わずその場にしゃがみ込む。
    「嘘やろ………全然気付かんかった…」
    「以前『名前と所属しか知らんし、ほんの少ししか話しとらんが…心の底から好きなんじゃ。絶対に成就させてー。じゃけぇおめぇら邪魔をしなんなよ絶対に』『俺しかいないのにお前らとは?お前相当酔ってるな?』という会話をした記憶がある」
    「方言でとったんですか…酔い潰れたベストジーニスト見たかった……」
    「で、どうするつもりだ?」
    「……………どうしましょうね」
    「…受けるも拒むもお前次第だが、真剣に考えてやってくれ」
    「それはもちろんですが……随分肩入れしますね」
    「何度か相談…いやあれは惚気か…まぁ思いの丈を色々聞いていてな…」
    「何それキュンです……」
    「きゅん…?」
     可愛い…エンデヴァーに相談するベストジーニスト可愛い…見たかった…めっちゃ見たかった…というかエンデヴァーに相談したんだ……ギャングオルカとかじゃないんだ…え?エンデヴァーの相談に乗る代わりに相談に乗ってた?等価交換ってやつですね。錬金術師か?
    「お姉ちゃん!?しゃがんでどげんしたと!?」
    「どこか体調でも悪いのか?病院に行くか?」
    「お姉ちゃんは俺が連れて行くのでジーニストさんは休んでていいんですよ?」
    「気持ちだけ受け取っておこう。それよりお前の方が疲れているだろう。休んだ方がいいんじゃないか?」
    「いやいやー俺、若いんで!全然大丈夫ですよ!」
    「ホークス…それは俺に対する嫌味か?」
    「あ、いや、そういう意味で言ったわけではなく!」
    「……じゃあ僕に対する嫌味かな?」
    「お姉ちゃんまで!違うけん!」
     こっちに来てまで口論しないで欲しい…あとベストジーニストは今近づかないで欲しい…どんな顔したらいいかわからないの…笑えばいいと思うよ?せからしか。それができとったら苦労せんばい。あー…どうしよう…どうやってこの場から立ち去ろう…救いの手は伸びてこないものか…。
    『♪〜♪〜♪〜♪〜』
    「?何の音だ」
    「あ、すいません僕です。スマホの着信音です……はい、僕です」
    『お疲れ様です』
    「目良さんお疲れ様です。いかがされました?」
    (お姉ちゃん目良さんの着信音『トランペット吹きの休日』にしとるんや…)
    (よくわからんチョイスだな…)
    『個性にかかったと聞きましたが大丈夫ですか?』
    「問題ありません。五体満足です……何か仕事が?」
    『こんな夜更けに申し訳ないんですが、朧さんしかできなさそうな案件でして…頼めますか?』
    「わかりました。詳細は?」
    『助かります。とりあえず◯◯に向かってください。先発した人が待機してるはずなので』
    「承知いたしました。向かいます」
     渡りに船とはこのことか…目良さんが仏に見える…ありがたやありがたや…。
    「仕事が入りましたので僕はこれで失礼します本日はご迷惑をおかけしました申し訳ありませんでしたそれでは」
    「あ、ちょ、お姉ちゃん!?……いっちゃった…」
    「文字通り『跳んで』行ったな…あの跳躍力はミルコといい勝負なんじゃないか?」
    「てか何か逃げた感じしたんですけど…仕事入ったってのに若干嬉しそうだったし……ジーニストさん本当に何もしてないんですよね?」
    「睨むな。手は出して……ない、とも、言い切れない」
    「はぁ!!!!????ちょ、塚内さんこの人!!この人です捕まえて!!!罪状は何でもいいから!!!!野放しにできんばいこの人!!!!!!」
    「喧しいぞホークス!!!!」
     この後ベストジーニストは啓悟の質問責めにあったらしい。


     ねぇ知ってる?さらっと『好き』って言われたから面と向かって会うのが恥ずかしくなって避け続けるとどうしたらいいかわからなくなるんだって。まーいーにーちーひとーつー
    「まー◯ちしーきーらんらんらん…」
    「どうしました朧さん?」
     おっと、声に出てた。
    「何でもないです…仕事ですか?はいよろこんでー」
    「仕事じゃないです。というか最近詰めすぎです」
     あの一件から僕は仕事を入れまくった。どのくらい入れたかと言うと連日公安の事務所にお泊まりしてごはんをゼリーで済ませるくらい入れまくった。イレイザーヘッドか?いやまだマイ寝袋買ってないからセーフセーフ。
    「仕事が片付くならいいことだと思いまーす…で、仕事ですか?」
    「だから仕事じゃないですって。上からストップがかかりました。朧さん明日から2日間休みです」
     嘘だと言ってよ◯ーニィ。違う。嘘だと言ってよ目良さん。
    「嘘でしょ…」
    「嘘じゃないです。こうして書面もあります」
    「またまたそんな訳…………ほんまや……」
    「今日の業務は終わってますね。はいではお疲れ様ですごゆっくり休んでください」
    「僕の扱いが雑!!もっと丁寧に扱ってください!」
    「あなたが頑なに休まないから私が怒られたんですが…?なのに丁寧に扱えと…?」
    「すいませんっしたーお疲れ様でーす」
     あの目良さんがブチ切れ5秒前みたいな顔してた…相当言われたんだな…申し訳ないので、さっさと帰ることにした。

     …あ、休みに何しようか考えながら歩いてたら駐車場に来てしまった。今日雨だったからバイクで来てないのに。しまった…すっごい遠回りした……引き返そ、う、えっ?
    「好きな女性に避けられ続けるのはさすがに傷付くのだが?」
     引き返そうと振り向くと、ベストジーニストがいた。何で?いつの間にいやそんなことはどうでもいいから早く逃げなくては。でもベストジーニストは僕をもう認識してる。個性で存在を希釈しても意味がない。一度彼の視線から逃れないと。
     僕は走ろうとした。でも腕を掴まれてしまった。えっ早。スピードCとか嘘なのでは?
    「なぜ逃げる」
    「すいません許してください命だけはご容赦を」
    「私を何だと思ってるんだ君は…」
     ベストジーニストはため息をついていた。
    「許す…か、何に対しての許しなんだ?」
    「……ここ数日避けていたこと」
    「そうだな。他には?」
    「ほ、他?えーっと…今逃げようとしたこと」
    「まだあるぞ」
    「まだある!?あと、あとは……」
    「返事がまだだ」
    「………………何の、返事ですか?」
     僕は下を向いてごまかした。今なら『冗談』にできますよ?本気じゃないんですよね?僕をからかっただけですよね、と期待を込めて。だって、僕なんかにベストジーニストはもったいなさすぎる。ベストジーニストにはもっとふさわしい相手がいるよ。僕なんかよりもっといい人がいるよ。
     だから早く『冗談』にしてください。
     『忘れたならいい』とか言って、『冗談』にしてください。
     僕はそれでいいので。
    「…………泣きそうな顔をしている」
    「……してません。ベストジーニストの気のせいでは?」
    「いや、している。私がどれだけ君を見ていたと思っているんだ」
    「……………えっ?」
     顔を上げると、ベストジーニストがまっすぐ僕を見ていた。表情はわからないけど、目がとても真剣で、とても冗談を言っているようには見えなかった。
    「君がいる時、ずっと君を見ていた。君は仕事熱心だったから私の視線には気が付かなかっただろうが、私は、ずっと、君を見ていた。SKや爆豪に注意されたこともある」
    「そ、れは、見過ぎなのでは…」
    「……そうかもしれない。話しかけるきっかけが欲しくてね…」
    「…僕を見て、きっかけを探していたんですか?」
    「…………そうだ。おかしいか?」
    「おかしくはないですが…あのベストジーニストがそんなことしてたとは…驚きです」
    「私だって驚いたさ。まぁ…思い返せば今まで人を好きになったことがなかったからな。どうしたらいいのかわからなかった、というのもある」
    「噓でしょ…」
    「嘘じゃないさ」
     ベストジーニストは僕の腕を引いた。僕は引かれるがままに、ベストジーニストの腕の中に納まった。背中に彼の腕が回り、抱きしめられる。彼の体は冷え切っていた。どれだけの時間、駐車場で待っていたのだろう。
    「君に嘘はつかない。今まで好きになった人はいない。君が初恋だ」
    「………………僕の、どこがいいんですか、とか、聞くべき、ですか」
    「聞いてもいいが、すべて話すのに1日以上はかかると思ってくれ」
    「………そりゃ、どーも」
    「…話そうか?」
    「いえ結構です」
     僕を抱きしめる力が少し強くなった。語りたかったんですか?なら態度で抗議せずに口で抗議してください。
     ああ、もう、この人、本気なんだなぁ。
     本気で僕なんかが好きなんだ。
     僕は恐る恐るベストジーニストの背中に腕を回した。
    「………………見る目ないなぁ」
    「…そうか?私はなぜ君がまだ独り身なのか不思議でならないくらいだが。君はこんなに魅力的なのに。まぁある意味助かったが」
    「見る目ないですよ…僕、可愛くないのに」
    「笑顔が可愛いし、時々子供っぽくなるところも可愛い。一人称が僕というのも可愛い。とても似合ってる。食事の時に気に入った物を見つけると目がキラキラするところも可愛い。感情が高ぶると方言が出るところも可愛い。あと「可愛い連呼するのやめて!?」…まだあるんだが」
    「もういいです。1のネガティブに対して100の惚気が帰ってくるのは地味にキツいです」
    「いやか?」
    「いやとかそういうのではなくて…!は、恥ずかしいんです………もうわかりましたから」
     腕に力を入れ、ベストジーニストを抱きしめ返す。もう降参です。誤魔化しきれません。でも最後に悪あがきさせてください。
    「………………………僕で、いいんですか?」
    「…………君が、いいんだ」
     僕を抱きしめる力が弱まり、体が少し僕から離れる。
     彼は僕を見つめてから、僕の額と自身の額を合わせた。
     顔が近くてドキドキして…恥ずかしいから離れたかったけど、僕はそのまま彼の言葉を待った。
    「君以外、考えられない。愛してる朧………私の恋人になってくれ」
    「……っ、ふつつか、ものですが、よろしくおねがいします…」
     たぶん僕、今顔真っ赤だ。
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