お姉ちゃんとお兄様方の小話 その1【For You Chocolate(拒否権なし)】(ショコラティエ兄様)
とある休日、僕は緊張していた。
その理由は…
「ここが…あいるちゃんのお兄様のお店…」
チョコレート専門店…初めて来た……。…お兄様のお店……うわぁ…緊張する…というかお店綺麗だな…女の人多いし…入っていいのだろうか…。
正直、僕には敷居が高い。こんな綺麗で可愛らしいお店なんて入ったことないよ?大丈夫かな?変な目で見られないかな?……やっぱり帰ろうか…。いや、でも…チョコ食べたい…!前にあいるちゃんから貰ったお兄様のチョコ…あれを食べて以来、市販のチョコじゃ物足りないというか…これじゃないって思っちゃうんだよね…。
「…彼のチョコしか受け付けなくなっちゃったんだよねぇ…。…うぅ、頑張って買わないと…」
意を決してお店に入る。やっぱり店内は女の人が多い。みんな楽しそうにチョコを選んでいる…と思いきや大半の人がショーウィンドウを見つめている。目を向けるとチョコを作っているところが見える。ショコラティエの人たちはみんな真剣に作業していた。
(チョコ作るところ、初めて見るなぁ…すごい丁寧な作業だ…)
すごいなぁ…と見ていると、一人のショコラティエと目があった。ペコっと会釈をすると、その人は手を上げて返してくれた。その途端、他のお客さんがわぁ…とざわめいた。
「チョコレート王子がこっち見てくれた…!」
「やば…えっ、ファンサ…?ファンサしてくださった…?」
「いつも塩対応なのに、何で…?ありがとうございますご褒美です…!」
…なるほど?チョコもだけどお兄様目当てでもあるってことね…?……他のお客さんがあいるちゃんのお兄様に注目している間に、チョコ選んじゃお…。
商品棚の方に足を向け見ると、聞いたことがないチョコがたくさん並んでいた。…トリュフ…プラリネ……ここまではわかるぞ…。ジャ、ジャンドゥーヤ?ロシェ?初めて聞いたぞ…どんなチョコなんだろう…想像できない…。
「…どれ買えばいいのかわからん……」
「朧サンってどんな味好きなの?」
「!?…び、びっくりした……あいるちゃんのお兄様こんにちは…」
「どーも。…で、どんな味?」
「そうですね…後味がすっきりするような味…とか?」
「ふーん…じゃあ……これは?トリュフ。ミントのとシトロンのと」
「ミントとシトロン…!美味しそうですね」
「美味しそう、じゃなくて美味しいから。俺が作ってるんだからとーぜんだろ?」
さすが…すごい自信だ。
「というか全部種類持ってけよ」
「ちょっと待ってください。それはさすがに量が…」
「チョコならパクパクーっていけるだろ?チョコって結構持つし」
「いや僕そんなに量食べれないので…ちょっとずつで…」
「あ?あー…そっか、朧サン少食なんだっけ?悪りぃ悪りぃ。忘れてたわ」
ついアイツと同じように考えちまうからなー、とお兄様はチョコを選んでくれた。…アイツって、多分暴食のお兄様のことなんだろうなぁ…。
「あとは…オランジェットだろ?…あ、朧サン、キャラメル好き?このボンボン、ちょっとほろ苦いキャラメルとショコラ・レのコントラストが人気なんだけど」
「…ショコラ・レとは?」
「ミルクチョコレートのこと。まぁ食べてみなって」
ハイ、と差し出された試食のボンボンショコラを食べる。カリカリのキャラメルのカケラが入ってて食感がいい。あー…やっぱり美味しい。幸せ…。
「これ好きです…」
「だろ?じゃあこれと…ムース・オ・ショコラも持ってけよ。ミントとオレンジ2つずつ。朧サンの維くんと食べたらいい」
「ありがとうございます。…とりあえず、今日はこれくらいで…」
「は?もういいの?」
「…他のは、次回来る時の楽しみにします」
「どーも。今後もご贔屓に。あ、期間限定のやつあるから、入れとくわ。ちょっと待ってな。袋にまとめてくる」
…結局追加されてしまった。ありがとうございます…。それにしてもたくさんあるなぁ…。それに期間限定のやつまで…。これは定期的に通わないと買い逃しそうだ。月一くらいで通おうかな…もうちょっと頻繁に来たほうがいいかな……。うーん…。
「お待たせ。ハイ」
「ありがとうございます。…新作ってどのくらいの周期で出ますか?」
「新作?あー…思いついたら出るから、周期とかわかんねぇわ。ま、週一くらいで来れば?」
「…買い逃したくないので、そうします…」
…まさかの新作不定期……。あいるちゃんにお兄様の新作出たら教えてってお願いしようかな…。
「……ところで、お代は?いくらですか?」
「お代?いや『持ってけ』って言ったじゃん」
「はい?」
「だから持ってけって。金なんていらねぇから」
「いやいやいや。待ってください。推し…プロが丁寧に作った物をタダでいただくのは僕のファン…消費者矜持に反するので払わせてください」
「ぶっ…ww朧サン隠し切れてねぇ…ww」
プルプルと体を震わせて笑いを堪えているけど、お兄様も隠し切れてないですよ…。いやそんなことより、払わせてください。推しに課金するのが僕の生きがいでもあるのに…。
「…で、おいくらですか?」
「はーwwやっぱおもしれwいいって。持ってけよ」
「で、でも…」
「あ?だから持ってけって言ってんだろ」
「ア、ハイ、イタダキマス」
……すぐキレるやん…。
呆然とお兄様を見上げると、彼はハッとしたような顔をした。あ…これは…『ヤベェあいるの友達にキレちまった…』って感じかな…。……お兄様方、意外と優しいんだよなぁ…。見た目は怖いけど。
「……………朧サン、」
「あー…大丈夫ですよ。僕が遠慮し過ぎていたのも悪いので…」
「マジで悪かった…キレる気は無かったんだ…」
「大丈夫です。お気になさらず。…チョコ、ありがとうございます。家で維さんとゆっくりいただきますね。……では、僕はこれで」
「おう。…………また来てくれ」
お兄様に見送られながら、店を後にした。…………それにしても、
「……キレたお兄様、めちゃくちゃ怖いな…」
…これからは、遠慮せずにすぐ貰おう…。
【前門のマフィア、後門の警察、その間に料理人】(マフィア兄様とシェフ兄様と警察兄様)
「◯◯課の課長が闇カジノで豪遊、ですか…」
「まだあくまで噂段階なんですけどね。…でも火のないところに煙は立たないって言うでしょう?」
目良さんから貰った資料に目を通す。第三者からのタレ込み、情報の裏取りは…まだか。…カジノ、ねぇ…そっち方面の情報強い知り合いいたかなぁ……。
「朧さん、この案件お願いしても?」
「はい、承知しました」
とりあえず顧客情報が欲しいな…。………彼なら、ご存知かな…?
「…というわけで、情報があればいただけないかなぁとマフィアやってるあいるちゃんのお兄様を訪ねた次第です」
マ「なるほど?朧サンも大変だなぁ。クソ野郎どものせいで仕事が増えて」
シ「確かに。やっぱり人間ってクソ野郎ばっかだな。維くんやあいるの友達以外みーんなクソ」
あいるちゃん経由で連絡を取り、事の経緯を説明した。…シェフをしているお兄様のお店の個室で。……なぜここ…そしてなぜシェフのお兄様も同席しているの…?緊張するんですが。
マ「あ、さっきアイツも呼んだから。情報はいくらあってもいいだろ?」
「アイツ…とは?」
マ「警察やってるアイツ」
まだお兄様増えるんかーい…。
マ「メシ食って待ってようぜ。腹減った」
シ「はいはい。用意してくる。……あ、この際朧サンに聞いときたいんだけどさ」
「は、はい。何ですか?」
シ「…好きな食べ物、何?」
「………えっ?」
シ「朧サン前に携帯食料頼むからさぁ…ちよサンと違って何好きかわかんないんだよね。あいるの友達の好きな物は知っときたいし、教えて」
「えー…っと、そうですね……好きな物………麺料理は、よく食べるから、好き、かもしれないです…」
シ「麺料理…」
マ「幅広すぎww料理名じゃないしww」
「あ、確かに。えっと……あ、カルボナーラ!カルボナーラ好きです!」
シ「オッケー。じゃあそれ作ってくるわ」
ちょっと待ってろ、とお兄様は部屋を出て行った。…なんか、リクエストしたみたいになっちゃった。良かったのかな…。
マ「…で、闇カジノの情報だっけ?」
料理の完成と同時に到着した警察のお兄様を交え、四人で食事をしながら会話をする。
「はい。…この際、一斉摘発しようかと思いまして」
警「そうだな、それがいい。ゴミはまとめて捨てた方がすっきりする」
「公安のゴミと社会のゴミをまとめて捨てれるので一石二鳥です。…まぁその前に、カジノに出入りしている裏取りをしないといけませんが」
マ「カジノにいるときにまとめて潰せばいいんじゃね?」
「公安のゴミどもは意外と厄介でして、『潜入捜査の一環』とかなんとか言って逃げていくんですよ。なので決定的な証拠を揃えておかないと…。………仕事はできねぇのに、こういう悪あがきだけは得意なんですよねぇ…あの粗大ゴミども…」
マ「朧サンのそういうとこ最高wwwウケるww」
シ「真面目そうな顔して意外と口悪いとこあるよな…ww」
警「確かにww」
おっと、あいるちゃんのお兄様方の前でつい…。
マ「wwwいいぜ、情報はやるよ。いいよな?」
警「wwもちろんだw…まぁタダでは無いがな」
「…僕は何をしたらいいですか?」
マ「そうだな……俺とポーカーで勝負する?」
「何ソレ無理ゲー」
兄様方「「「やっぱりおもしれぇwwwww」」」
無理でしょ。無理だよ。無理無理無理。絶対勝てない。マジで言ってます?お兄様。情報渡す気ないですよねソレ。ええ…無理だよ……。無理、だけどさ…。
「……勝負せずに降りる、てのは性に合わないんですよねぇ…。………やりましょうか、ポーカー」
マ「……朧サン、カッコいいー。ま、俺が勝つけど」
そう言ったお兄様の目はちょっと怖かった。
マ「チェンジは一回。役が被ったらマークの強さで決める、でいいな?」
「はい」
マ「OK。…じゃ、ディーラーは頼んだ」
警「任せろ」
シェフのお兄様は食器を片付けに退室、部屋には僕とマフィアのお兄様と警察のお兄様のみとなった。…カルボナーラ、美味しかったなぁ…。また食べたかったなぁ………ん?何かさっきの食事が最後の晩餐みたいな言い方になっちゃったな…何でだ?
……多分、マフィアのお兄様の雰囲気が怖いからだ。…真剣にポーカーに向き合う彼の気迫に、無意識のうちに最期と思ってしまったのだろう。
「……いい人生でした…」
マ「待て待て待てあいるの友達に酷いことする訳ねぇだろ。何考えた」
警「お前の顔が怖いんじゃね?」
マ「マジ?えっどうしよう。なんか隠すモンある?」
警「あー……何もねぇわ」
マ「朧サン大丈夫?」
「大丈夫です。…すいません。別にお兄様の顔が怖いとかではないので隠さなくて大丈夫です」
マ「…本当に?大丈夫か?」
「大丈夫です。というかあいるちゃんとあいるちゃんのお兄様方は推しメンなので顔隠された方がダメージ入ります。どうかそのままで」
警「推しメンwww」
マ「本当最高だよ朧サンwww」
僕としては真面目なんですけどね…。
マ「www……さて、やるか」
警察のお兄様からカードを貰い、手札を確認する。……ハートのJ・Q・A、クローバーのAにダイヤのA。……これは、賭けに出るべきか?それとも守りに入るべきか?
チラッとマフィアのお兄様を見ると、ニヤニヤと僕を見ていた。余裕のある笑みを見て、僕は決める。
警「朧サン、チェンジは?」
「……2枚、チェンジで」
クローバーとダイヤのAを捨て場に出すと、マフィアのお兄様の目がピクッと動いた。僕はカードを貰い、手札を確認する。…いけるか?
マ「…ふーん…」
警「お前は?」
マ「んー…じゃ、俺も2枚チェンジ」
ハートの3と4が捨て場に出る。彼はカードを貰ってチラッと確認する。そしてすぐに僕に視線を戻してニヤッと笑った。
マ「じゃ、勝負しようか…!!」
「はい…!」
警「2人とも、ショウ・ダウン」
テーブルにカードを置く。僕もマフィアのお兄様も10・J・Q・K・A。ただし、
警「朧サンがハートのロイヤル・ストレート・フラッシュ。対してこっちが、スペードのロイヤル・ストレート・フラッシュで…朧サンの負けだな」
「はぁ……負けた…ちょっといけると思ったのに…」
マ「Aを2枚出した時は、お?と思ったが…ま、これも運だな」
…お兄様の方が豪運、ってことですかね…。それとも、今得ようとした情報が厄ネタなんですかね…。…だとしても、悔しいなぁ…。
「……ま、この情報には縁がなかったということで、諦めますか」
マ「潔いねぇ。そんなんで裏取りできんのか?」
「できるできないではなく、やります。何が何でも」
警「…素晴らしい熱意だな」
マ「…悪を必ず挫こうとする熱意と保守に回らず攻めるとこ。嫌いじゃないぜ?」
「……ありがとうございます」
ほ、褒められた…。…というかお兄様方、あいるちゃんやあいるちゃんの維さん以外の人間を褒めたりするんだ…。ちょっと意外…。
シ「お、ポーカー終わった?食後のコーヒー持ってきた。どっちが勝った?」
マ「ナイスタイミングー!とーぜん俺の勝ち」
シ「だろうな。…じゃ、情報は無しか」
マ「いや?あげるけど?」
「…………えっ?何で?負けたのに」
マ「えっ?だってあいるの友達だし」
…………ポーカーした意味は?????
腑に落ちないまま、僕は食後のコーヒーをいただいた。もちろん美味しかったけど……なんか、モヤモヤした。