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    84_84_hs

    @84_84_hs

    端々。30↑ 侑日/右日

    @ha8shi4ba
    長きに渡るROM専が辛抱たまらんと初めて書き手に回ってます。愛が重めな生粋のはばタン県民。
    何かまずいことがあればどこかになにかしらください。お願いします。

    劣情を書き殴る。

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    侑日/髪を切るはなし

    忍冬「髪、」


    ソファに寝転がりふたりで映画を見ていた、後ろにいた侑さんが不意に手を伸ばし、俺の少し伸びた髪を掬う。
    「なんですか?」
    「髪、伸びてきたな。切ったろか。」
    「えっ、切れるんですか?」
    「切れるで。俺、高校の時サムの髪切っとったんや。金無かったからお互いで切っとってん。」
    「へー。器用ですね。じゃあお願いします。変にしないでくださいね!」
    「当たり前やん、イケメンにしたろ。」

    フッフと軽やかに笑いながら後ろの男は半年前に公開されたらしいSF物の映画を消す。そんなに面白くなかったな、だから侑さんも俺の髪見てたのか。とひとり納得する。感性が似てるんだろう。面白いもの、つまらないもの、気になる所、試したい事、そういう所でふたりはひどく気が合った。
    「ちょっと準備するから待っといてな。」
    洗面所へ続く廊下に消えた侑さんは、少しするとハサミが入っているであろうポーチとその他諸々を得意げに持ってきた。その様が飼い主に褒められたくて玩具を取って戻ってきた大型犬のようで、少し笑ってしまった。





    シャキ、シャキ、シャキ。パラ、パラ。

    オレンジの髪が落ちる。軽く指を髪に差し入れ梳く。また髪が落ちる。シャキ、シャキ、パラ。それの繰り返し。頭に触られるのは落ち着く。眠くなる。

    いつもはストレッチをするために空けている場所、ベランダに近く陽が当たる少し広い空間に椅子を持ってきて、どこからか持ってきたシートを引き、首にはタオルを掛けられあれよあれよと準備は進む。その手際の良さに双子でお互いの髪を切り合っていたのは紛うことなき事実なんだな、と合点する。そして始まった規則的な鋏の音。シャキ、シャキ。



    「翔陽くん、寝たあかんで。ゆらゆらすると危ないから起きといて。」
    「はい…んーでも侑さんの手が気持ちよくて…」
    「なにそれ煽っとるん?もうちょいで終わるから我慢しとって。」

    煽るってなに、と働かない頭を動かすけどわからない。また変なこと考えてるんだろうな。シャキ。パラ。集中しているらしくいつもはご機嫌に動く口も今は静かだ。時々全体のバランスを見るために前から覗き込まれ、真剣な顔が見える。お喋りでニコニコご機嫌な侑さんもかっこいいけどやっぱり集中してる時の顔は特にかっこいい。イケメンに拍車がかかりズルいと思う。パラ、パラ、シャキ、シャキ。


    「翔陽くんの髪さらっさらでええな。一生切らせて。」
    「それプロポーズみたいですね。」
    「せやろ?」
    「ふふ。お願いします。一生、お任せします。」
    「専属美容師勝ち取ったりやな。」



    ゆるりゆるり、昼下がりの光と規則的な音。先程よりも音が軽快になった気がする。
    きっとこれを場所が変わっても、季節が移っても、歳を重ねても、また何度もなんども繰り返すのだろう。予感めいた必然に、愛を運ぶ手が持つ音を子守唄に微睡むのであった。











    ジャキ、

    あ。

    「あーーーもう!寝たあかん言うたやん!ここだけ短なってもうた!」
    「ははは!ほんとだ!」
    足元に置いていた手鏡を見ると頭の上の一部分だけが短い。跳ねる髪の毛の中では一見目立たないが、完璧主義のきらいがある侑さんは不服らしい。

     
    「また伸びるからいいですよ」
    「今良くないやん」
    「目立たないから大丈夫」
    「もーーー!今度は寝んように朝一で切ったる!」


    時間帯を変えても気持ちいい手で触られるだけでいつでも寝ちゃうんだけどな、とそれは口には出さず。お願いします、とだけ返しておく。
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