「伯仲」 雨音が地面を打つ。急速に降り出した雨は瞬く間に辺りを濡らし、風信と慕情は凌ぐための場所を探していた。
「殿下は、無事だろうか」
「雨が降ろうと、あの方は揺らぎません」
懸念など幾らでもある。自信を無くしつつある謝憐の法力に迷いが生じていることは、二人の間では触れ難い話題のひとつだった。今も雨に打たれながら天塔を支えている姿を想像し、胸が痛んだ。
「この小屋を少し借りるか」
「はい」
風信を追って慕情も小屋へ入る。じめじめとした薄暗い小屋は無人で、目立つ物も置かれていない。いっときの滞在には覿面だろう。慕情は壁に立てかけられた茣蓙を敷いて座り込んだ。風信は手持ち無沙汰といった様子で窓から雨を眺めている。
「……あなたも座りますか」
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