その11「私はナミダ。ここのマスターの孫娘なの。あなたは?」
「お、俺はイチヤ。ギター担当……」
中学では男友達とばかり連れ立っていたイチヤは、緊張し口が回らなかった。
「へぇ、ナミダも音楽活動始めるのか」
周知の仲であるイッカンは、興味深そうに言う。
「うん。前々からやりたいと思って」
そう言って彼女は、蜂蜜がたっぷりかかったパンケーキにナイフを入れる。
「楽器は?」
「シンセサイザー。丁度良いでしょ?」
それを聞いただけで〈よろしく!〉と元気よく言いそうになったイチヤの口に、イッカンはミックスサンドをねじ込んだ。
「確か、高3だったよな? 大丈夫なのか?」
「最初は動画配信をメインにするから、平気。趣味の時間が音楽活動に移るだけだよ」
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