勉強会です!……よね?イデア先輩 2人っきり。と言っても講師側がタブレット姿の異様な姿にジロジロと見られるのではないか。不安だったが案外何事もなく席の端で開始された。
「絡まれると思いました」
「ここに来る奴らは大抵本の虫だからね。タブレットが浮いている程度なんとでも無い……というか、まぁ、慣れたんだよ」
「慣れ……私まだ浮いてる事になれないんですけど……」
タブレットを改めて全体的に見る。人に対してこんな事は出来ない分、諸々が表情に出やすくて危ない。
「まあ?毎日見ていれば慣れるし、ここは日常的に魔法やら釜やら人やら?が飛び交ってますからなwwこんないち、タブレット。気を配らなくて良いんじゃない?……あの……そんな見ないでもろて……」
「えっ、あっ。そ、そうですよね。先輩はこっち見えてますもんね」
気まずそうな声に思わず席を立ち声が大きくなる。
「ちょっ、声!」
先輩の注意と、事務員さんの咳払いがほぼ同時となり、小さくすみません……と小さく頭を下げ座り直す。
「じゃ、始めようか」
ページをめくると、タブレット画面から要所を記した文面が映し出された。
監督生氏の好きな人が気になって勉強に集中出来ない!いや、集中しなくてもこなせるんですけどね?
画面越しの図書館で難しい顔をしてノートに書き記す監督生氏を見ながらイデアは頭を抱えていた。
すぅ……じゃなくて、推しが好きな人が出来たって言ったらそりゃ気になりますし?ど、どんなやつだったとしても1ファンがどうこう言う筋合いは無いですが?でも推しの事は知りたいと思うのがオタクでして……
ペンが止まった所の要所をキータッチで示すと一気に表情が明るくなり、またペンを走らせる。
「……この顔が曇る事は絶対無くしたいんだよなぁ」
「ん?何か言いました?」
「えっ、あっ!ミューt」
音声をぶつ切り、恥ずかしさのあまり絶叫をかました。此処が防音されてて良かったと心底思う
「……先輩?」
「ご、ごめん。ちょっと用事がね……ねぇ」
好きな人がいるって……ほんと?
なんて言えるはずもなく。
「か、かか監督生氏って、ぼっ……じゃなくて、拙者の、他にどっどうゆう友……じゃなくて、知り合いが居る……の?」
「知り合い……ですか?」
その知り合いの中に居るはずだと録音を開始する。
「最近知り合ったのがジャミル先輩と、カリム先輩。それにスカラビアの先輩とも仲良くなってーー」
そして列挙される人物の数々。1のAなんて全員の名を上げた。
えぇ……おはようすれば知り合いって認識してます?さ、流石陽キャ……
「それにシュラウド先輩!」
最後に呼ばれた名に口角が上がる。
へ、へぇ監督生氏にとって名前を挙げる人物に拙者が入ってるんだ……へぇ?
己が知り合いのハードルの低さを指摘したのにも関わらず、気分に羽の生え、高々と登っていく。
「あ!イデア先輩!シュラウド先輩って何処の寮だか知りませんか?」
拙者だと知らずに話してるんだもんな〜此処でイグニハイド寮の寮長してるよって言ったら流石に気付くかな〜もしかすると気付かないかもなぁ〜監督生氏だもんなぁ〜。
煽る時と同じ気分で言おうと息を吸った時、はたと考える。
これで「え、シュラウド先輩ってイデア先輩だったんですか?騙してたんですね!……そんな人だとは思いませんでした……嫌いです、もう声をかけてこないでください!」なんて事になったら……
軽く死ぬ
「さ、さぁ?知りませぬなぁ〜」
「そうですか……」
ミュートにして深呼吸をする。あ、あ、危なかったァ〜あやうく嫌われる所でしたぞ。推しに嫌われるなんてあまりにもショック過ぎて部屋から出られなくなる。
「……ち、因みに、なんで探してる〜とかって」
「あっ……えっと。色々と相談に乗って貰ってて……何か渡せたらなぁ……なんて……シュラウド先輩には迷惑かも知れませんが」
恥ずかしそうにする彼に迷惑じゃないよー!!と言いたくてたまらなかった。
「こっちからでも探すからさ……あの、その先輩に聞きたい事とかって……ある?」
「えっ」
Theサンタクロース作戦!サンタクロース作戦とは、親が子供にサンタクロースだと思わせないようにしながらさも第三者の振りをして要望を聞き出す作戦である!!
「大丈夫です。会えてはいるので!いつか、自分で、聞いてみたいと思います」
失敗!!
「アッ……スゥ……ソッデスヨネ……うん、聞けるといいね」
「はい!!」
それはもう、いい笑顔だった。
「ーーってことがあったんす!」
夜に会った途端に、とても教え方が上手い先輩に勉強を教えて貰ったと嬉しそうに話す監督生氏に顔がほころぶ。
バカワイイな〜生の監督生氏は破壊力が凄い。もう、性別の垣根を超えるよね。
「そんな先輩がいたんだね〜」
拙者の事を本人に話しちゃう監督生氏も良いんだけど、それよりも気になることがありまして……
昼では叶わなかった、好きな子は居るのか。夜の僕なら聞いてもいいんじゃないだろうか、だって名前を挙げるくらい親しいんだよ!大丈夫じゃない?シュラウド先輩はほら、なんか貰えるらしいし。
「えっと、ですね?」
いつ言うの、今でしょ!
「実は相談したいことがあって」
あー緊張で喉が渇いできた、噛んだりボソボソ声にならないようにしないと
「これなんで」
「好きな子がいるの?」
言葉が被った瞬間。
あ、何かしくじった。
それだけはわかった。
「な……んで、それ……を」
「あっ、えっと。その……き、聞こえ……ちゃって?こ、ここで同盟組んでるよしみで?て、手伝えたらなぁと思いまして。こ、こんな陰キャに手伝ってもらいたいとは思わないかもしれないけど、せ、先輩なので!これでも!だ、だから、別に変な意味で聞いたわけでは」
「っ……失礼します」
「えっ!まっ……」
自分の失態を覆い隠すのに必死で顔を見ることが出来ず、そのまま逃げ帰ろうとする監督生の腕を咄嗟に掴んでしまう。
柔らかい腕は少し力を込めたら折れてしまいそうで、余りにも細い腕に戦き手を離すと、脚に自信があると言う監督生氏は一気に豆粒になってしまった。
残ったイデアは、掴んだ手を開いては握り、また、開いては握りを繰り返し、ゆっくりとベンチに座った。
「……推し……の筈……なのに」
推しとはこんな感情になったものだっただろうか。
監督生は息を切らして寮の扉を閉める。
「び、びっくりして逃げちゃった」
好きな人バレちゃうかな?バレたらもう会ってくれないかな?
心臓を跳ねさせ、頬は高揚し、取り付くように水を一気に飲む。
「で、でも。これ、言えなかったな……」
握りしめてくしゃくしゃになった手紙を監督生は広げた。