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    ここまで書いてるなら書いてくれの劇場版屍者の帝国のフラワト

    #ハヤカワ
    hayakawa

    劇場版屍者の帝国フラワトフラワト

     その日もロンドンは例に漏れず鈍色の雲が分厚く空を覆っていた。せっかく広く取られた窓も、これでは外の光を取り入れようにもほとんど役目を果たせない。
     フライデーが所有している研究室は、出入り口となる扉と窓以外書物や機器で埋め尽くされていた。言い換えてしなまえば、書物や機器が所狭しと置かれていなければ、貧乏学生相応のアパートメントハウスの狭い一室に過ぎない。ここをここたらしめているのは、屍者や魂に纏わる技術書、屍者に疑似霊素を書き込むための設備一式、そしてなによりも、この部屋の契約主であるフライデーの存在が大きかった。
     知と理性と探究心で埋め尽くされた小さな城の主は、部屋の中にひとつしかない窓際の机に座って悪戯っぽく笑って見せた。
    「さて、俺の煙草をどこへ隠したのか教えてもらおうか、ワトソン君?」
     灰色の街の僅かな光を背に受けて微笑むフライデーは、魂を追い求める医学生というよりも、天使を追い求める画家がようやく見つけた美と呼ぶに相応しかった。尤も、己の心象の美を描くことに腐心する画家であっても、排煙筒から吐き出される煙のごとき紫煙を口唇で燻らせる天使には幻滅してしまうだろうが。
    「この部屋のどこかさ。探せばある」
     陽光の色に容易く染められる銀髪。男にしては大きすぎる瞳。瞬きの度に、眼球の表面の涙を霧雨にしてきらきらと飛び散らせてしまうのではないかと思うほどに長い睫。
     私と同じロンドン大学の医学生であり、私よりもずっと優秀で、私より遥かに悪いことに通じている親友は、そのうつくしいおもてを何の躊躇もなく歪ませた。
    「ここから自力で探せって? 俺が散らかした本や紙を、お前が片付けるっていうなら探すが」
     どうする? と言わんばかりに、より一層唇を歪め、愛らしく小首を傾げて見せる親友に、この確信犯めと舌打ちしたい気持ちになった。
     私も彼も、実のところ整理整頓や片付けの類いが得意な方ではない。この一見すれば混沌極まりない研究室も、私とフライデー、それぞれの法則によって整理整頓された状態ではある。ここを彼が散らかすというのなら、混沌という秩序が乱されるということであり、それを改めて並列かつ均一かつ整然にする作業を一人で行わなければならないということだ。
     そしてフライデーは恐らく、探し物を探すのには不必要なほどに部屋の中を散らかすに違いない――彼を思って煙草を隠した、私への腹いせとして。
    「自分が散らかしたものの責任は、自分でとるべきだと思わないか、フライデー?」
    「本来の定位置にあるべきものがない。しかもそれが、どうやら唯一無二の親友によって行われた犯行らしいというのは、友情にとって問題だとは思わないか、ワトソン?」
     講義中に教授に指名され、持論を述べる時と同じように、フライデーはすらすらと言葉を紡いでいく。腹立たしいことに、私が先に口にしたものを踏んで述べられるのだから堪ったものではない。また何か言えば、同じように美しく流れを踏んだ反論がなされるのは目に見えている。
     私がぐっと言葉を喉奥に押さえ込んだのを認めてか、フライデーは少し勝ち誇ったかのような笑みを浮かべた。
    「だから早く俺の恋人を返せ」
    「随分危なっかしい恋人に惚れ込んでいるんだな、私の親友は」
     部屋をひっくり返したところで、フライデーの口唇の恋人――煙草は出てきやしない。私の親友を虜にしてしまったそれは、私の胸ポケットに納められているのだから。
     煙草の箱をポケットから取り出し、フライデーへと投げる。左手でそれを受け取った彼は、微かに眉を顰めて掌中のものを見つめた。
     フライデーの言う煙草の定位置、すなわち窓際の机の左上から持ち出した際、私は箱から煙草を数本抜いておいた。四本ほどしか吸われていなかったそこから、半分以上くすねたわけだが、正確に数を把握しなかった以上〝数本〟の表現範囲内だろう。
     フライデーは、記憶の中よりも返ってきた煙草の箱が軽くなっていると訝しんでいるようだ。
     私とて、多少は〝抜きすぎた〟とは思っている。あれだけ抜けば重さが変わるのは明白で、私がフライデーの煙草に何かしたと相手に気取られるのも当然である。
     手の中の煙草の箱を弄んでいたフライデーが、ふ、と顔を上げた。強い眼差しが私を射抜く。
    ――ああ、私の悪事が彼の眼差しのもとに晒される。
     眼差しの強さに対して、彼の唇は緩い弧を描いていた。苦笑とも許容ともとれる柔らかな曲線。
     フライデーの優秀な頭脳は私の浅慮を見抜き、粗相をも許してみせた。
     彼に気づいてほしかった
     その上で許してほしかった
     私が親友の頭脳に比べれば劣るそれを持っているとはいえ、かのロンドン大学の医学部に所属できる程度には知恵を持っている。煙草を抜いたことを相手に悟られないようにする策をいくらでも講じることはできたのだ。
     やり過ぎなほどに煙草を抜いたのは、こんな行動に出た私の真意をフライデーに気づいてほしかったからに他ならない。

    「煙草一箱の重さ、知ってるか?」
    「さあ……私は君と違って愛煙家ではないから知らないな」

    煙草一箱25g

    フライデーが煙草の箱を降る

    からころとやけに軽い音がした
    煙草が一箱分しっかり収まっているならば、中の煙草が動く音などするはずもない。
    この軽い音は、私の行動によって生まれたものだ。私の軽率さを音にすれば、こんな感じに聞こえるかもしれない。

    とても25gの音とは思えない

    笑うフライデー

    煙草一箱の重さに何か思うことはないか?

    魂の重さに近いと思うが、あえて明言しない

    煙草1本1。25g

    三本抜くと大体21gになる

    これでは随分と魂の重さにはほど遠い

    わかったよ、抜いた分はもう捨ててしまったからもう一箱買ってくる。これでいいだろう?

    ワトソンが買ってきた煙草を自分の箱に詰め直すフライデー

    17本で魂の重さ
    詰め直された煙草を返される

    返されても困るんだが

    俺の魂には随分と余分な数だからな。返すよ

    だから困ると言っているだろう

    この機会にお前も煙草を吸ってみるといい。まずはこの一箱。半分くらいしか残っていないのだから、まあ、吸えるだろ?

    私は煙草なんて吸ったことないぞ

    吸えば慣れるさ。それで、その一箱を吸い終わって、彼女が恋しくなったら俺にいえ。今度は俺がお前のその箱を満たしてやるよ。魂の重さと一緒にしてやる

    みたいなえんど
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