歩め、惑うな、この日々に 強風でコートの裾がぱたぱたと翻る。春物のトレンチコートは、今日の天気ではあまりにも心許ないものだった。
環境予報でも、乾燥及び強風注意報が発表されていた。だのに、それを甘く見て薄手の服装で家を出たのだから、こればかりは自分が悪い。
いつもなら、かつこつと革靴のヒールの音を立てながら歩ける石畳も、靴底と砂埃がざりざりと擦れ合うせいで気分が乗らなかった。
砂を踏み潰して歩くのは嫌いだ。攻撃を受けて穴だらけになった道を逃げ惑う日々を思い出してしまうからだ。
――少しでも役に立てるなら、と思って寮を出たのに。
思わず溜息を吐きそうになったが、自分から言い出したことなのだから、と姿勢を正して歩を進める。なにより、この歩みが自分達のきらめく未来の一粒になるかもしれない。
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