門出の日に 夜中からからパラパラと降りだした雨は式典が終わる頃になってようやく止んだ。ただ相変わらず空はどんよりとした雲に覆われていて、ようやくスタートラインに立った喜びよりも知らないひとだらけの新天地へ向かう不安感が勝る今日の心情を気取られているかのようだ。
今朝はあんまりにも酷い顔をしていたのか、あき君から途中まで一緒に行こうか? とまで言われたくらいだった。図星を刺されたことについ苛立って、もう子供じゃないんだから放っておいてよ。と当たるように言い返してしまったのは反省している。気持ちは嬉しかったけど素直になれない自分に落ち込んで出港準備が進む艦内でひとり唇を噛む。子供じゃないんだと自らが発した言葉を反芻した。道なき道の先頭を歩き後に続く者達へ道しるべを作るのが自分に課された大事な仕事だ。決意を新たに俯いていた顔を上げてすっと前を見据える。
母港となる横須賀の前に呉へ入港するそうで、顔馴染みを思い出して気分も上向いてきた。そろそろという頃合いになり、乗員に混ざって甲板に上がると、さっきまでまたぽつりぽつりと落ちていた雨も今度こそ止んだようで、港と行く先を覆っていた霧も晴れてきている。岸壁に目を向けると関係者に混ざって同類達の姿も見える。直に言葉を交わすのは当分先になるだろうけど、精一杯の感謝を込めて帽子を振った。
いってきますと低い長音の汽笛が三度。水墨画のように凪いだ港内を名残を惜しむようにぐるりと回ってから西へと舵を切った。
行く先は明るい。これから太陽のように周りを照らしていけるように。