未練ベビー5から聞かされた部屋まで辿り着くのに、ローはずいぶんと時間を費やした。
ドレスローザの王城は、昼の戦いのせいで散々な荒れようだった。白亜の壁の一部は崩れ、床に大穴が空き、イシイシの能力によって歪まされた通路は所々が異様に膨らんだり萎んだりしている。
オペオペの能力を使えば、苦労なく通れる路であるが、今日は体力を消耗し過ぎた。無駄打ちしたら、頭の血管の一本や二本が破裂でもして昏倒するに違いない。それほど疲れきっているのに、ちょっとした仮眠の時間すらも惜しかった。
被害を免れた棟もあるようだったが、ベビー5から教わった通路は運悪く、ことごとく荒れている。遠回りをするにも城の構造を詳しく知らない身だ。迷子になるのは避けたかった。痛む身体を引きずって回廊を進み、瓦礫を乗り越え、ようやく現れた黒い扉は鍵がかけられていたが、ローの前では意味はない。能力を使って侵入する。
設計ミスで部屋と部屋の隙間にこさえたような狭い空間を見渡して、棚に収まっていたひと抱えある箱を引っ張り出した。埃は被っていない。
ベビー5が管理していたのは事実らしい。
──若様、いえ、ドフラミンゴの命令で残していたの。
中身はマグカップ、万年筆、インク壺など。
かつてローが愛用していた品であり、ドンキホーテ海賊団にひとりの少年がいた証だった。
ひとつひとつ検分してローは呟く。
「いらねェな」