馬上の懐中時計 自分の容姿が女に好まれるものだというのは、幼い頃から気づいていた。友人の母は遊びに来た子どもたちのうち、私にだけ飴玉やらクッキーやらを隠して渡して頬を愛おしげに撫でた。そばかすが印象的だった幼馴染の女の子は、ケーキを焼くのが得意で、特に一番の腕だと村でも評判だったキャロットケーキを焼く度に私を家に呼んだ。山に住んでいた赤毛の縮毛の女の子は、とびきり爽やかなレモネードを作って、山中にある恐ろしいくらい透明度が高い湖で泳がないかと誘って来た。何の取り柄もないと自分を揶揄しつつ、プラムが成ったから食べに来ないかと呼ぶ内気な子もいた。辺境の村では聖書以外に珍しかった、父親からもらった美しい本を一緒に読まないかという誘いもあった。
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