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    sukisuki_ko

    @sukisuki_ko

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    小説置き場(赤最赤、天最)
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    sukisuki_ko

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    互いの思いやりが空回る話。
    *紅鮭ネタバレ
    *両想い、シリアス
    *天α、最Ωのオメガバース

    #天最
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    【天最】一生かかるかもしれない依頼「キミの妹さん捜しの依頼は、一生かかるかもしれないって言ってたよね。それだけの拘束時間があるなら…特別な取引をしない?」
     穏やかな風が頬を撫でる、校舎端のテラス。ゆっくりと一歩一歩彼に近づくと、緊張できしむ僕の心臓と共鳴するかのように、床板がぎしりと音を立てた。
    「僕のうなじを噛んでほしいんだ」
     僕は立ち止まり、彼の耳元でそっと囁く。天海くんがはっとした顔で僕を見た。アルファがオメガのうなじを噛むことは、婚姻よりも深い関係を結ぶということ。それなのに、なんて色のないプロポーズなんだろう。
    「……」
     天海くんは黙っていた。驚きの中に、仄暗い納得もある様子だった。
    「アルファと番になれば発情期も止む…つまり依頼の遂行に支障がなくなる。発情期のあいだは妹さん達の捜索を進められないし、キミとの接触も避けなきゃならない。それは不便だろ?」
    「取引って…俺に都合の良いことしかないじゃないっすか」
     キミにとって都合がいい、か。迷いなく発されたその言葉に、自惚れそうになる。勘違いしちゃいけないのに。
    「僕は探偵を続けていきたいんだ。オメガの僕に選ぶ権利なんかないって、いつか話したよね。でも僕にだって、利用する権利くらいはあるんだよ」
     わざと露悪的な言葉を選んで、彼のほうを見て僕は口角を上げて見せた。キミが僕を巻き込むんじゃない。僕だってキミを僕の人生に巻き込んでやる。だからキミだけがそんな後ろめたい顔をしないでくれよ。
    「キミは…強いっすね、最原君」
     彼は僕の言葉をそのまま受け取った後、僕の真意をはかるかのように一拍置いた。
    「でも、優しすぎるっすよ」
     天海くんの声は少し湿っていた。
    「それはキミだよ。『一生』なんて言葉を使って、僕に断る余地を与えた。『選ぶ権利』を与えたんだ」
     世界中を飛び回る旅の中で、番のないオメガとアルファの間に何も起こらないはずがない。その約束された結果を彼は「一生かかるかもしれない」という言葉にしまい込んだ。
     依頼を受けることと番になること。それらの片方だけを僕が叶えるのは現実的に不可能だ。だからこれは人生をかけた選択だった。
    「僕に選ぶ権利を『与える』なんて立場にも本当はなりたくなかったはずだ。キミは優しいから…」
     旅の途中に事故で番になる可能性が高いし、そうなれば依頼の遂行後に天海くんから一方的に番を破棄することもできる。けれど彼がそうするはずはない。でなければ彼のほうから「一生」なんて言葉は出てこないんだ。だって僕らの間に何かが起こるまで、一年だってもたないはずなんだから。
    「優しさなんて代物じゃないっす! 俺はただキミと対等に…。探偵だからじゃなくて、キミだから良いんすよ」
     天海くんの唇は悲痛にひしゃげている。そんな顔、させるつもりじゃなかった。
    「……」
     …僕は勘違いしていたのかもしれない。僕は天海くんについて行くことで、探偵としてのキャリアも何もかも、長い旅路に委ねることになる。それが一方的な道連れであるかのように、彼の後ろ髪を引いているのだと思っていた。だから、お詫びに残りの人生も保証してくれようとしているのだと。
    「最原君となら、世界一周でも、一生でも…一緒にやって行けそうな気がしてるんすよ」
    「僕となら…」
     …もしかすると、いや、たしかに、僕らは同じ気持ちだったんだ。まずは「キミだけがそんな思いをしないでくれ」って気持ち。それらは立場上違う形をしているけれど、同じ願いだった。それが感情的で直接的なやりとりを阻んで、もっと奥底にある、大切な同じ気持ちを伝えられずに…二人して遠回りしてしまったんだ。
    「天海くん」
     彼には失礼なことをしてしまった。胸の中で燻る想いを伝えずに、心を通わせずに、事務的に彼を囲い込もうとするだなんて。
    「…キミの性別が何であれ僕はキミの依頼を受けたし、何も依頼されなくたって、僕はキミに一生をかけたって良いんだ」
     とうとう、僕は天海くんにそう言った。彼に背を向けて。きっととても見せられない顔をしているからだ。ひたすらに顔が熱かった。
    「最原君…。回りくどいことしてすみません」
     背後に天海くんが歩み寄る。芯のある声だった。
    「キミとなら、在りたい自分で在れる…そう確信したんです。それは妹を見つけた先にある未来でもあって、キミとただ一緒にいる今でもあって…」
     天海くんの両腕が僕の視界に入って、次の瞬間には僕の肩に巻きついていた。
    「とにかくキミが、最原君が俺の人生には必要なんす」
     爽やかな甘い香りがして、彼の言葉が真近で耳に届く。
    「愛してます」
    「…!」
     僕はその甘すぎる言葉に度肝を抜かれていた。天海くんのたった一言でどうしようもなく胸がいっぱいになって、バクバクと鼓動が早くなる。すぐに彼を抱きしめたいくらいなのに、そうやって焦がれあう気持ちを共有したいのに、二の句が継げない。動けない。
     なんなんだよ、もう。天海くんがあまりに周到に僕を守ってくれるものだから、僕だって「いかに彼を納得させるか」それしか頭に無かったというのに。そんなに甘い言葉を急に寄越されても、すぐに返せない。
    「じゃ、じゃあ……取引は成立だね」
     僕は肩に巻きついている天海くんの腕にそっと手を添えてさすった。申し訳なさもあった。それでも、今これが精一杯の愛情表現だった。
    「ふふ」
    「な、なんで笑うんだよ」
    「俺の恋人が可愛くて」
    「う…ご、ごめん、そういうのはもうちょっと、待って…」
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