透明なゆびさき男の背を見るのが好きだった。
いまとなっては職業柄、不用意に他者に背後を取らせない彼の、長着だけを纏う背筋。
カルデアベース内、食堂敷設のキッチンとは違う、ちいさな給湯室。その片隅で規則正しく動く腕がぴたりと止まるまで、坂本龍馬はその背中を飽かず、眺めていた。
「以蔵さんやか。こんな時間にどうしたの」
「…………おまんか」
男は振り向きもせずに答える。いつもより低い位置、首の後ろでひとつにまとめた癖毛が項をすっかり隠してしまっている。
「気安ぅ声かけなや」
「そう言わないでよ。丑三つ時に人影があったら気になるだろ」
以蔵の腕は、止まったままだ。龍馬は音もなく歩を進め、その隣に並んだ。
「……どうも眠れんち思うて」
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