診断メーカーのやつ(了遊)※書きたい場所浮かんだので書いた話です
※つきあってない了遊。本編後の時空だと思う
※オチとかないよ(結局出られませんでした)
==========
遊作は了見と見知らぬ場所に閉じ込められていた。
白壁に明るい色のフローリング。備え付けのミニキッチンに、テーブルと一組の椅子。部屋の端にはソファもある。そこは、窓はないものの一見するとどこかにありそうなごく普通の部屋だ。
だが、一点だけ普通ではないことがあった。
『指を絡めて10分見つめ合わないと出られない部屋』
外へ唯一続くドアいっぱいにでかでかと書かれた明朝体黒色太文字。その文言通りドアには施錠されており、床にも天井にも他に外へ通じるような場所は見当たらない。
二人とも気が付くとこの場所にいて、直前まで何をしていたかの記憶が全くなかった。どういう状況かも原因も誰かの謀略かも何も情報がなく、通信手段も持ち物も何もない。二人で手分けして一通り探索したものの、最初に見た通りドア以外に外へつながっていそうな場所はない。
そんなわけで脱出第一、できることは全て試そうとひとまずはドアの指示に従うことにしたのだが。
「いい加減にしろ藤木遊作!」
半ギレで叫んだのは了見だった。
二人は部屋の中央で、がっつり互いの手を組みあった格好のまま対峙していた。というのも脱出条件を満たそうとしているのだが、遊作が十分持たずに目を逸らしてしまうのでさっぱりうまくいっていなかったのだ。
「もう少し時間をくれ……!」
「時間があったからなんだというつもりだ! ただ目を合わせるだけだというのに、なぜ逸らす……先刻から何度同じことを繰り返しているか分かっているのか!」
「仕方ないだろう!」
やけ気味に言いながら遊作は手を振りほどいて一歩下がる。
「心の準備というものが」
「何の準備がいると?」
離れた分了見が踏み込むと、同じだけ遊作が下がる。
「おい」
縮まらない距離に了見が目線の温度を下げる。遊作は目を伏せた。
「せめてリボルバーだったら良かったんだが」
呟く。
「……どういう意味だ」
「前のアバターか、でなければ対閃光防御をしてくれれば多少はマシかと思った」
「ほう」
なるほど、と頷いた了見の口調の変化に気づいて顔をあげた遊作は、彼のこめかみにうっすら青筋が浮いているのを見て小さく息をのむ。
了見が無言でさらに三歩踏み込む。
同時に遊作も距離を保とうと同じだけ下がろうとして──
「──っ、うわ⁈」
端に置いてあったソファに気づかず、バランスを崩す。
それだけなら踏みとどまれたろうが、最初からそのつもりだったらしい了見に肩を押され、しりもちをつくような格好でソファへ沈んだ。追い打ちで了見が座面に乗り上げ遊作の足をまたぐ格好で座り、押さえつける。
「りょ……」
押し戻そうとした手はあっさり捕らえられ、指を絡めて封じられる。
「近いんだが⁈」
「逃げるからだ」
じっと、上から遊作の目を覗き込むようにして了見はうっすらと笑った。
「残念ながらここはリンクヴレインズではないようだからな。希望に添えず悪いが、諦めて十分耐えろ」
間近に見る白藍の目を縁取るまつ毛が思いのほか長い。虹彩まで分かるほどの距離に遊作は息を詰める。その眼差しから少しでも離れようと無意識に解こうとした指先を、咎めるように一層強く握られる。
たまらず呻くと、了見は不服そうにいくらか目を細めた。
「……目も合わせたくないか」
「は?」
「確かに私はお前に好かれるような真似をしたことは一度もないが」
「そんなことは」
「おっと、目線は逸らすな。今度失敗したら簀巻きにしてやる」
「……」
こんなろくに物もない部屋で簀巻きなんて、と思った遊作を見透かすかのように了見は口の端を上げる。
「探索中にタオルもブランケットも結束バンドも見つけた。人ひとり拘束するには十分すぎる」
「そんな物でどうやって」
「知りたければ実地で教える」
「遠慮する」
「賢明だな」
ふ、と小さく笑いを漏らして了見はいくらか離れた。
「しかし、何か話している方が気がまぎれるだろう。口頭で説明してもいいな」
「逃げたくなるからやめてくれ」
遊作はそうっと息をついた。
いくらか緩んだ指先に少しだけ力を込める。
「……それに、別におまえが嫌いだとかそんなことはないんだ。そういう風に思われるのは困る」
「正直に言って構わないが」
「そうか」
遊作は頷いて、殊更真っ直ぐに了見の目を見て言った。
「正直に言う。むしろ好きだ」
部屋に沈黙が落ちる。
完全に虚を突かれたらしい了見の顔は少し見物だった。何か言おうと口を開くが、言葉が出ないのか何も言わないまま閉じる。というのを三回やった。
それを目の端にとらえながら遊作は続ける。
「好きなんだが、こう……おまえの目をこうやって見ていると、なんだかむずむずするというか。いろいろ考えてしまって、つい目を逸らしてしまった」
「何を……いや、何だと?」
「多分、俺はおまえの目がすごく好きなんだと思う。おまえの意志の強さが一番出ていると思うしそのせいかとても綺麗に感じる。ただ、見ていると好きだなというので一杯になってしまうし、おまえの目に俺が映っているのが慣れなくて落ち着かなくて。だから心の準備を──」
そこまで言ったところでいきなり手が、次いで体が自由になった。
疑問符を浮かべる遊作をよそに、遊作の上から降りた了見はふらふらと部屋の中央近くに置いてあるテーブルに向かう。そのままイスを引いて座ると頭をかかえるようにしてテーブルに伏せた。
「おい、了見」
「……ああ」
「まだ十分たってないぞ」
「分かっている。今回は私が悪かった」
了見は顔を伏せたまま繰り返した。
「私が悪かった。……私にも心の準備の時間をくれ」
「準備しなくても、俺は本当におまえのことが好きだから大丈夫だ。なんなら目以外でも好きなところはいくらでも言える。例えば──」
「待てと言っているだろう! そういうところだぞ、藤木遊作!」
いつのまにか立場の逆転した二人だったが、逆転しただけなので状況が変わることもなく。
もうしばらくはこの部屋から出られそうになかった。