蜂蜜酒アラミス
「グロスタ……」
蜂蜜酒に濡れた唇で囁く
アラミス
「……もっと、近くにおいで」
白い肌が酔いで仄かに赤らんでいる
グロスタ
「少し飲み過ぎですよ」
アラミス
「ふふっ、久方振りの再会だ。たまには良いだろう?」
グロスタ
「……そうですね。貴方が心地良く飲まれているのでしたら。ですが、お加減を悪くしないよう、程々に」
アラミス
「ん、心得た」
アラミスは上機嫌な笑顔
グロスタ
「……俺も、お会いしたかった……」
グロスタはアラミスの手を取り、甲にくちづける
グロスタ
「おかえりなさいませ、我が君……」
アラミスはグロスタの髪を撫でて答える
「ただいま、グロスタ」
アラミスは蜂蜜酒を一口飲む
アラミス「甘い酒だ……」
グロスタ「蜂蜜から造ったものです。……花を、育てる過程で蜂も集めました」
グロスタ「貴方の、花です」
グロスタは目を伏せる
グロスタ「今年、初めて養蜂から蜜を収穫できました。こちらは試作でまだ流通させるほどの量はできませんが……」
アラミス「貴重なものだな」
グロスタ「いえ、貴方にこそ召し上がって頂きたく……」
アラミス「そうか。お前は忠義者だね」
アラミスはグロスタの髪を指に絡め、頭を撫でる
グロスタ「……」
アラミス「……グロスタ」
二人の視線が交わる
蜂蜜の香りが吐息に混ざる
アラミス「……もう少し、酔おうか。お前も」
グロスタはアラミスに従い、自身も杯の酒を飲み干す
アラミス「ふふっ、顔が赤い」
グロスタ「……あまり、そうまじまじと……」
アラミス「なんだ、恥ずかしいのかね?」
グロスタ「いえ。……」
グロスタはアラミスの碧眼が美しくて正視できないことを告げられない
アラミス「……」
アラミスも注ぎ足し、酒を一口飲む
アラミス「しかし、悩ましいな」
グロスタ「なにを、お悩みですか?」
アラミス「……お前との距離の詰め方さ」
グロスタ「?!」
アラミス「……もっと、近くにおいで。グロスタ」
グロスタ「しかし、……その。これ以上は……」
アラミス「嫌ならいいよ」
グロスタ「嫌ではありません! ……あ」
アラミス「くくくっ。なんだ、その『しまった』という顔は」
グロスタ「あ、……いや。その……」
アラミス「……いいよ」
グロスタ「……! な、なにが、……ですか?」
アラミス「私は嫌は嫌と言う」
唇についた酒を舐める
グロスタ「申し訳ありません。アラミス殿。その、俺は……そのような、機微に疎いのです」
アラミス「知っている。だから悩ましいのだよ」
アラミスは肩を竦める
グロスタ「確認、致します。アラミス殿は、……俺を……、誘っておいでですか?」
アラミス「他にどう見えるというのだね」
グロスタ「……っ!」
アラミス「ふふっ。お前は可愛いね」
グロスタ「……あまり、揶揄わないでください」
アラミス「事実を言った迄さ」
グロスタ「……貴方は、俺が誘いに乗るとお思いなのですか?」
アラミス「私は勝てない賭けはしないよ。知っているだろう? 負けるのは嫌いなんだ」
グロスタ「……」
グロスタは悩みこんだ表情で口を閉ざす
そのまま沈黙が二人の間に横たわる
アラミス「……お前は、私に逆らわない」
ぽつり、アラミスがいう
グロスタ「!」
アラミス「私が、食事に付き合え、と命じねば同じ卓には着いてくれない」
アラミス「お前は私が『抱け』と言ったら、そうするのかね?」
グロスタ「それは、……ご命令であれば……」
アラミス「それでは駄目だよ」
アラミスは溜息をつく
アラミス「……もういい。私の負けだ」
グロスタは瓶を掴むと残りの酒を煽り、アラミスの顎を掴む
口付け、含んだ酒をアラミスに流し込む
アラミスは目を見開いて驚いた表情を見せるものの、口移しされた酒を味わいながらグロスタの舌に舌を絡める
二人はそのまま、深く長くキスをする
アラミス「……ふふっ、私の勝ちだ」
グロスタ「……卑怯ですよ」
グロスタは苦笑する