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    aoirei0022

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    aoirei0022

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    お題です🎩🥞です

    愛だとか、恋だとか(3)今日から3日間、千年王国研究所は閉じる。メフィストが、3泊4日で家族旅行に行っているからだ。

    ある程度区切りがついた本を片付け、久しぶりに先月から積んだままの新書を読むことにした。
    しん、としたロフトは物があまりないが、小窓から日が差していて明かりがなくても文字が読めて便利だ。
    行動としては研究するための資料を読むことと変わりが無いが、その間に本を読む。
    メフィストには、休憩になっていないと叱られるが今日は彼がいないので誰も諌めるものはいない。

    ぽん、とスマートフォンの通知が鳴る。

    『湖!白鳥居た』

    「こどもか、君は」

    短文と共に、写真が添えられていた。太陽の光に湖面が乱反射してきれいだ。
    白鳥は、2羽写っていた。
    他愛のない連絡に、ふと自分が笑ったことに驚いた。

    冷凍庫には彼の用意していった食事の類が詰められている。
    出かける前にわざわざ作って詰めたのだ。
    僕も一人で出かけることもあれば、レトルト食品くらい作るが、と言っている側
    から手際よく色々作っていくのを眺めて諦めた。
    「一人でも飯はちゃんと食え」
    と、言いながら君はホットケーキを焼いた。1枚食べたら怒られた。

    また、スマートフォンが鳴った。
    『こっちきた』
    彼が行っているのは確か、生き物が多く居るところだったはずだ。
    子羊の写真が何点か。最後は多分取り落としたのか写真がブレていた。

    本を閉じて、彼が置いていった食事を取ることにする。
    このままだと1時間に1回は写真が送られて来そうだからだ。
    冷蔵庫の麦茶を出している間にも、短文が送られてくる。

    『ちゃんと飯食ってる?』
    『冷凍庫の扉閉め忘れるとヤバイから気をつけろよ』
    『メープルシロップは、蜂蜜の横。尽きたらシンクの下』

    通知蘭に、君の言葉が並んでいる。
    それを眺めながらレンジに炒飯を入れる。炒飯に至ってはそれはもはや冷凍食品
    でいいのではと尋ねたが、パパ直伝の炒飯に適うものは無いと言い切り、
    せっせとわざわざ家から持ってきた炒飯を小分けにしていたな。

    『旅行、楽しめてるのか。僕は今食べてる炒飯が旨い』
    そんなメッセージを送っておいた。

    『だいじょーぶ!!!な、炒飯美味いだろー』
    彼の家族写真が送られてきた。

    杞憂だった。全くもって大丈夫そうだった。

    その後も、少し間が空いて様々な写真が送られてきたが、その一つの中に壁掛けの棚に立てられた古書のレプリカの類のうち1冊だけ本物があることに気がついた。
    『メフィスト、左から8番目の本に気をつけろ、君の父親に伝えてくれ
    あれはあまり良くないものだ。』

    OKスタンプが送られてきた。軽い。まあ彼の父であるメフィスト2世であれば、気がついているかもしれないが一応電話をしておいた。

    皿とカラトリー類を洗っていると、聞いたことがない通知音がした。

    -グループに追加されました-

    魔界グループラインと適当な名前がついたそこに、
    参加者が先代、メフィスト2世、メフィスト、僕が入っている。

    これだと一向に読書できない気がして、通知を切った。
    このグループラインが後ほど役に立った話はまた違う話になる。

    メフィストは、とても世話焼きだ。
    頼む前に大抵のことは終らせている。
    要、不要で物事との間を保ち、思考を止めない生活をしている自分と彼は正反対だ。

    しんとしたキッチンを後にして、ロフトへ戻る。
    三分の一程適当に読み飛ばしていたところから読み直すことにした。

    人間が人間であるとは何か。

    という話がテーマの本だ。人の感情というものは、時に判断を鈍らせる。
    だから不要だ、とは僕は言い切れない。
    人の社会で生活するとは、そういうものだと僕は彼から教わった。

    二日目、みおが遊びに来た。ここへ来ても面白いものなどないだろうに。

    相変わらずメフィストからは写真が送られてくる。

     夕焼けの写真は、空の青色と混ざった部分がとても美しかった。
    夕日の中に写っている君を見る。
    彼の覚悟も思いも知っているはずなのに、彼こそ『普通』に家で暮らした方が良いのではないか?
    そのほうが、危険なこともないし・・・・・

    破綻している。
    何を考えているんだ僕は。

    自伝のような本など読むから、思考が引っ張られたのかと思いたかった。
    どうやら違うようだ。

    「みお、仕事の時間だ」

    家賃払えコールをするみおを帰らせ、今度こそ昨年からの事例整理をすることにした。
    余分な時間は自分には無い。
    どういう生き方をしたとしても、僕が人である以上人としての時間というものは限られている。

    しばらくは、通知を見ても返信はしなかった。
    ただ、深夜少しだけその内容を見て、少し笑ったり、相変わらずだな、と思ったりした。

    概ね、ここ最近の情報はケースごとに纏められた。
    主に昨年末にかけて奇怪な事件の発生率が非常に高かったが、それも小休止と
    いったところか。

    三日目、明日の昼間には家に着くという通知をみた。
    今がその瞬間か。
    返信をしようとしたところで、メフィストがやってきた。

    「おーちゃんと食ってる、しかも片付けてる」
    キッチンに入りながら冷蔵庫チェックを彼はしている。
    「そのくらいできる」
    起き抜けで、緩慢に返事をした。
    「できるけど、やらないだろ普段は」
    「まあ、普段は」

    軽口を叩きながら、彼はお土産といいながら、あれこれ広げていった。
    この時間が、平凡であればあるほど時々苦しいような、何とも表現し難い感覚になる。

    「あの本、宿の人も知らない本だったし、気味が悪いからって貰ってきた」

    「ああ、きちんと封がしてあるな、さすが君の父親だ」

    「やっぱ分る??俺も宿の人と同じ感想しか無かったわ。なんか気持ちわるいなー
    くらいの」

    「これは17世紀頃流行った呪いを掛ける為の本だ。写しとはいえ呪詛のように効いてくる
    この時代は偽者の魔術書が多いからあまりあてにしていないが、日本にこんなものが
    あるとはな」

    「うへえ、よく写真だけで分ったな」

    「本物は好事家の部屋か、大学なんかに収められているが、一般公開はされないものだ。
    それ自体は、レプリカの中に書籍があったのが目についた。
    更に背表紙の言語が、英語ではなかった
    古代ラテン語の本がそこにあるのは不自然すぎる」

    「悪魔くん、やっぱ探偵業やったほうが良いんじゃない」

    「僕は趣味で研究している訳じゃない。これは魔界の方で預かって貰うとしよう。
    人間界にあっても誰も得をしない本だ」

    「パパもそう言ってた」
    メフィストが頷く。
    そうしてまた、土産話の続きを聞きながら彼の入れたココアを口にした。
    自分で作るよりも、ずっとずっと、暖かいような何だかそれが切ない、そんな気がした。
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