「タケ~クリスマスイブって暇?」
「いつだよ」
「明後日」
「なんもねぇけど」
『クリスマス』半分に聞いたらよくわかんねぇが宗教の祭りらしい。🌱に遊びに誘われたって言ったらカップルのイベントとも教えてきたが、別に俺と🌱はカップルじゃねえ。
『どう考えてもアプローチだろ、なんの興味もねえ男をわざわざイブに誘うかぁ?』そんな半分の声を何度も頭の中で繰り返しながら、俺はクソさみー空の下で🌱を待っていた。
「お待たせ~! わっ! 似合ってるじゃん~♡」
「動きづれえ、この服」
「も~そんなこと言わないの、カシミアのコートだよ」
「なんだよそれ」
当日着てこいって渡された服は首が詰まってるわ動き辛いわで最悪だったがニコニコ笑いながら襟元を整えてくる🌱の顔を見たらこれだけで着てきた甲斐があったかと思ってしまった。
「お、まえも……いい感じだな、その、カワイイ……」
「あたりまえでしょ」
ミノルが着てるような首元にふわふわのついた白いコート、寒くねえのかよと思うくらい短いスカート、目の辺りがキラキラ光ってて、いつもより眩しい町の中でもいっとうこいつはピカピカと輝いて見えた。
ようやく絞り出した褒め言葉も小慣れた様子で受け流される。
「この後だけどさぁ、友達のカップルと軽くお茶ね。ホテルのラウンジだから。デカい声出さない、いつもの感じで話さない、余計なこと言わない、返事に困ったら『ああ』って言いながら目を伏せて笑う、良い?」
「あぁ?」
「あぁ? じゃなくて、分かった?」
二人で飯でも食うのかと思ったのに、なんで知らねー奴と……しかもごちゃごちゃ決まり事が多くて、俺は思いっきり眉を寄せる。
「とにかくお行儀よくいてね♡」
両手で頬を挟まれて🌱の顔がズイッと近付いてきた。冷えた指先にぶるりと身が震える。何が塗ってあんのか知らねーけどピンクでツヤツヤの唇がとにかく可愛くて、俺は黙って頷くしか出来なかった。
◇
それからのことはよく覚えてねえ。友達のカップルに挨拶してすぐ、🌱の『彼氏』と紹介された。どういうことかって聞こうとしたら机の下で足を思いっきり踏まれた。なんなんだよ。
友達の女はずっと不機嫌そうで、彼氏はずっとげっそりしてて、それに比例して🌱はずっと上機嫌で……。
友達と別れてホテルの庭のベンチに座ってる🌱にあったけー飲みもんを買ってくると、🌱はいきなり肩を震わせて笑い出した。
「――ぷ、く、くふふふっ……ふ……キャハハハハ!! ウケる! アイツちょ――――悔しがってた! バカみたい!!」
腹を抱えて笑い出す🌱に俺は訳が分かんなくなる。
「おいどーゆーことだよ」
「あれ、言ってなかったっけ? ごめんごめん」
バシバシと俺の背中を叩かれると、ココアがこぼれてカシミアとやらのコートにかかる。
「この前、アツシくんと別れたんだけどさぁ~、あ、言っとくけど振られたんじゃなくてこっちが振ったんだかんね。アイツにクリスマスはお暇~? とか今年はダブルデートしたかったのに残念とか散々擦られて鬼ムカついてたんだよね。だからぁ、見た目だけは一〇〇点のタケを彼氏ってことにして、自慢してやろうかと思って。アイツの彼氏のツラが大したことないって知ってたしぃ」
髪の毛の先をいじくり回しながら説明する🌱の顔は話してる言葉とは裏腹に、すげー可愛くて。
「ちょ――スッキリした! ありがとタケ! じゃね!」
「はぁ!?」
「何よ」
「か、帰ンのかっ!?」
「当たり前じゃん」
立ち上がって帰ろうとする🌱の肩を掴んで、腕の中に閉じ込める。
「お、おれっ……おれわ~! お前のこと! 本気でっ! 好きだったのによぉ!!」
「え」
「デートだと思ってきたのによお~!! ふざ、ふざけんなよぉ!」
「おわ……! ちょ、ちょっ! タンマ! タンマタンマ! 一回離して!?」
「離さねぇよぉ! 離したらお前どっか行っちまうだろうが!」
そして、我慢できなくて俺がどんだけこの日を楽しみにしてたのか、🌱のことが好きだったのかぶちまける。俺のジュンジョーを弄びやがって! 腕の中で🌱は暴れるが絶対に離してやらねえ。それでも小さくて柔らかい身体を傷付けないようにと、気をつけながら柔らかい髪に顔を埋めるといい匂いがした。あーくそ、好きだ。最悪な女だ。つーか半分ふざけんなよ、テキトーなこと言いやがって!
「ごめん……付き合うのは無理だけど……ホテル行く……?」
「ふざけんなよぉ~!!」